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要編  33 長い夜を思う



  シーン33 長い夜を思う



 運転しているレンジローバーを静々と、ベータチームの指揮官車輌、メタルホワイトのレクサス4WDの後方70mで停止させて、助手席のファイターを見る。ファイターがうなずく。視線を後部座席の助手席側に座るトーキーに移す。


 狩り場の猟犬みたいに、目を輝かせたトーキーもうなずいた。



 俊敏に運転席から降り、音もなくドアを閉める。ファイターとトーキーも同様にローバーから降り、助手席と後方助手席側のドアを同じく、音もなく閉めた。




 3人は戦闘時並みの歩調で、左右のサイドミラーの死角を突いてレクサスへとせまる。




 だが、さすがだ。グレーのスーツに黒ネクタイ、白のワイシャツといつもと変わりないサラマンダーは、僕たちの登場に気づいたらしく、助手席からノソリと降りて待ちうけた。




 他の服を持っていないのか、この人は。サラマンダーに会うのは今日で、3回目。いつも同じ服装、あっ、そうだった。この前は夜の男臭が漂うスーツ姿だったな・・あれもあれでどうなんだ?そんな事を考えながらサラマンダーを目指して歩いていくと、レクサスの運転席から、黒のスーツに白のVネックシャツを合わせた、ガタイのいい男が降りてくる。




 この男、バックゲートから見た影からは想像ができないほど、立ち上がると背が高い。190センチ超えか・・ファイターにどことなく雰囲気が似てる・・・兄弟みたいだ。男が履いている軍靴を見て懐かしいなと眺めていると、左後ろを歩いていたファイターが突然、歩調を早め、軍靴男との距離を縮めにかかった。




 知り合いなのかと見ていると、無言のファイターは自分の鼻先が、軍靴男の鼻先にあたりそうな距離で立ち止まった。睨み合う大男2人を男臭い会話だと、横目で見ながら助手席のドア前に立っているサラマンダーに、満点笑顔をまったりと顔に貼り付けて「おはようございます」ゆるやかに挨拶しながら近づいていく。




 サラマンダーも軍靴男に負けず、劣らず、やる気で「相変わらずの美しい笑顔だね、文学部」と言い、左の口元を上げて「おはよう」おっとりと言った。




 文学部⁈、どうして宗弥の口癖を知ってると思いながらも笑顔でいると、後ろを歩いていたトーキーが突如とつじょつまずいた。




 転びそうになりながらトーキーは要にぶつかり、トーキーからの陽動力を要はサラマンダーにそのまま伝え、後ろに倒れていくサラマンダーの右手首を、要が右手でつかんで引き起こし、サラマンダーがきちんと立ったのを確認してから手を離す。「失礼しました」と要は頭を下げて謝罪する。




 トーキーはサラマンダーの前に立ち「申し訳ございません」と鉄背を90度折って、サラマンダーの背後に回り込んだ。そして「太陽がまぶしくてつまずきました。寝不足です。このところ立て込んでいまして、すみませんでした」と再度、謝りながら、右手でサラマンダーの上着を2度払い、後ろ襟をなおす。





 「朝から助手席に、座りっぱなしだったからな」人相が全く変わった笑顔で、サラマンダーはトーキーに振り返り、その横顔を見た要の背筋がゾクリと泡立った。





 この人は数人、いや十単位で人を殺している・・要がトーキーとファイターに視線を移す。・・サラマンダーを見ている2人の目に、得体の知れないものへの焦燥と気づまりがあった。・・・感じ取ったか。




 どこを、誰かを、見ている訳でもない視点のサラマンダーが「昨夜の国男襲撃の話、まったく憤怒するよ」刺す様に吐き捨て、また違う顔で笑う。




 瞬く間に入れ替えるサラマンダーの人格に、流石に、気圧された。目を合わせてきたサラマンダーが「富士子とは、もうちょくで会ったんだろう。どうだった?白梅は元気だったか?」と呑気な調子で僕に聞く。左の口角だけを上げて。



 本陣しか知らない事を、何故、知っている。どっからの情報だとじれれるが顔には出さず、キリリとした好青年の顔で「今朝の緊急招集、ありがとうございました」と言って、サラマンダーの質問を聞き流した。




 軍靴男が「簡単に俺たちを使いやがって」と呟く。




 ファイターは聞き逃さず、すぐさま「お互い、昨夜の国男さんの事故で、不確定要素が多い作戦なのは分かったはずだ。協力し合わないでどうする」と言い、しっかりと軍靴男の目を見据みすえ「俺たちのことは、この作戦を完遂かんすいさせてからにしないか」はっきりとした声で言う。




 軍靴男の顔に視線を向けていた要の視界のはしを、富士子の社用車がかすめてゆく。「ファイター、車を持ってきてくれないか」と要が頼むと、すでにファイターはローバーに向かって歩いていた。




 その要を観察眼で見ていたサラマンダーが、ニヤリと笑う。そのニヤリを感じて、腑抜け顔でサラマンダーの顔を見るや、心からの賛美を込めて「全く萌えます。うるわしい女性だ。怖いくらいです」僕は弾む口調で言ってやった。



 サラマンダーは僕の顔を見て、ポカンと中途半端に口を開け「はっ、はっ、はっ」と声を上げて笑い出し、その声に合わせて僕も笑う。笑いながらチラリとトーキーを見る。




 トーキーは歩道からレクサスの前に歩み出て、グリルに左手をおいてしゃがみ込み、下にずれておいた左足の靴下を、両手で引っ張り上げて立ち上がると、そのまま車道でローバーを待った。




 ローバーがレクサスの隣りに着くのを待って僕は「よろしくお願いします」と言って意志ある背中作り、ピシリと45度に折る。サラマンダーに「お前が、なんで頼むんだ。富士子はお前の女じゃないだろう」と挑発されたが、犬歯を見せる破壊力満点の笑顔で打ち砕いて、助手席に乗り込んだ。




「ハンサムは、得だなー」というサラマンダーの大声が聞こえ、まったく、その粘着性はどっからくるんだと思う。盾石家の門前をローバーが通り抜ける瞬間、迎えの車に乗る富士子をとらえた。




 化粧はしておらず、青白い顔色は昨夜と変わりがなく、唇は血の気が無かった。その一瞬が、脳に焼き付く。




 睡眠をとっていない。

 食事もしていない。

 体重は2キロ落ちている。


 クソ、倒れるぞ。

 



 国男の事故を思いだし、両膝の上に置いた左右の手を握りしめ、むら雲におおわれた青空に視線を移して、富士子の長い夜を思う。




 キーパットを打ちながらのトーキーが「サラマンダーの上着の後ろ襟ぐりと、レクサスのグリルに集音式・発信器を装着しました」と報告する。上の空で「常に現在位置が、確認できるようにしといてくれ」と言った。






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