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要編  32 判明

『国守の愛』、『国守の愛・red eyes』共に完結しております。よかったら、そちらも合わせてお読み頂けますと嬉しいです(╹◡╹)今後とも宜しくお願い致します。國生さゆり



   シーン32 判明




 要は朝カレーを食べ終わると、カウンター前にあるスツールに座り、catとdogに関する最新情報はないかと、スマホを使って本陣に問い合わせした。




 “無し、なお、調査中“ 短い返信だった。その簡潔さに嗅覚が引っかかり、ちょっと揺さぶってみるかと “EUに派遣しているオメガの調査報告書を、上がり次第しだい、読ませては頂けませんか?“ と送信してみる。




 宗弥は食べ終わって、すぐにシャワーを浴びに行く。その後、今日、西浜医師から借り受けるであろう、新たな拠点に泊まり込む準備を整え、緑色の大型アーミーバックを右肩にかけ、黒メッシュのガーメントの取手とってを逆手の左手で持ち、左肩にかけて店内に入ってくる。バイクの後部に荷物を固定しながら「俺、もう、ここには来ないかもな。そう願いたい。ここに戻らないって事は、早期解決しって事だろう」と言い、バイクを外に出しつつ「あとでな」と言い残し、エンジン音を響かせて西浜総合病院へと向かった。





 カウンター内でトーキーと後片付けをしていたファイターが、宗弥の背を見送った視線を要に向け「フレミング、顔色悪いな。イエーガー、監視対象者がフレミングの身内なのはわかるが、単独行動はこっちの監視ローテーションも狂うし、何かあった時に、1人で対応できる事は限られる。ローテーションに戻るよう言ってくれないか?」とピリリする声で言った。ファイターは滅多に要望ようぼうを口にしない。






 スマホから視線を上げ、ファイターの顔を見た。目に角が立っていた。隣にいるトーキーに視線を移す。恐ろしく厳粛な顔つきで、軽く流した大皿をシンク下の食器洗浄器に入れていく。






 今日から病室拠点のシステムはトーキーが担当し、主となるmapのシステム管理はターキー担当となる。作戦の規模が大きくなり、それにともない、ベータチームとの情報共有、アルファー独自のネットワーク管理、本陣との通信、等々、諸々を、2人は各拠点かくきょてん連携れんけいしながらおこなう。当然、2人の負担は大きくなる。





 mapに常駐だったはずのターキーが、監視警護のローテーションに入っているのを、トーキーは気に掛けているのだ。確かにこの所、ターキーはオーバーワーク気味だ。2人は、ファイターとトーキーは、宗弥の単独行動を問題視している。





 ターキーは今日1人で、map のPCシステムのネットワークを、再度、何ヵ国かの秘匿サーバーを経由させ、高度に暗号化させて再構築する予定だ。基盤はあるにせよ、徹夜明けではキツい。宗弥のことも含めて考えが足りなかった。「承知した。すまなかった。宗弥と話す。トーキー、病室のシステム設置が終わったら、一旦、mapに戻ってターキーを手伝ってくれないか?」と提案する。ターキーは安心したのか、柔らかな表情で「はい」と返事した。





 その顔を見て安堵する。ファイターの言った事ももっともだ。1人でできる事は限られ、状況によってはチームへの通信、報告が後回しになりうる。僕らはタフだが、体は一つだ。状況報告が遅れれば、チームの行動は後手に回る。宗弥と話さなければならない。ミニのエンジン音が聞こえ、スツールから立ち上がって玄関ドアを開ける。





 朝日の中を歩いて来たターキーは、突然、開いたドアに驚きつつ「あっ、ありがとう」と言いながら入ってきた。「お疲れ様」と声を掛けると、目をしばたたかせたターキーが「あっ、イエーガー、おはようございます」と言い、「おはよう」と返す。ターキーは「外までカレーの良い香りがしてます。お腹、空いてます」ニコニコ顔で僕にそう言い、カウンター前へと進みでて「おはようございます。ファイター、僕らのカレーは残っていますか?」おどけた口調で聞く。トーキーが「おいおい、確かにファイターは大食いだが、お前たちを忘れるわけないだろう」と笑う。




 そこに、コインパーキングに、ミニを駐車したチャンスが入って来た。





 ドアを開けていた僕に気づいたチャンスは、僕がドアを閉めるのを待って、背筋を伸ばし「イエーガー、おはよう御座います。任務終了し、只今、帰投いたしました。異常はありませんでした」目の下に倦怠けんたいの影が忍ぶ表情で報告する。






 事故直後の警護任務に気を張って、一晩ひとばんすごしたなと感じて「ご苦労さま。疲れていないか?」と聞く。「いえ、大丈夫です。ベータチームの気合いが半端ハンパなくて、匂いを嗅ぐも、なにも、一目でわかりました。あれは、やばいです。違う業界の人に間違えられます」チャンスは生真面目な表情でそう言い、僕は苦笑を浮かべて「そうか」と返した。





 チャンスが「イエーガー、笑い事ではありません。グロッグを脇の下に携帯してました」と続け、苦笑を深めて「うちも、今日から携帯する事にした」と言う。チャンスは「ええっ!日本国内でですか!」声を張り上げて驚く。






 左右の手に一つずつ、スクランブルエッグ添えのカレー皿を持ったターキーが、チャンスの後ろを通り抜けながら「チャンス、頂きましょう」と声をかけ、窓辺の玄関から2番目のテーブルにカレー皿をおき、テーブル奥の窓がわに座った。チャンスは「ありがとう」と言いながら、ターキーの隣に座る。





 カレー皿を見たチャンスの喉が鳴る。





「腹減ってるだろう」と言って、僕はテーブルを挟んだターキーの前に座り、カウンターから出てきたトーキーは中皿に盛ったサラダとスプーンと箸を、テーブルの上に置くと、隣りのテーブルから椅子を1脚持ってきて、通路に椅子を置いて座った。





 ファイターは人数分のコップと、2枚の取り皿がのる盆を右手に持ち、左手にカークボトルを下げて来た。盆とボトルをテーブルに置いて、僕の隣りに腰掛ける。





 カークボトルの中には水と砕いた氷、スライスしたレモンが入っていた。





 チャンスはカークボトルを見て、ファイターに視線を上げ「ありがとうございます」と言って一礼し、カークボトルを右手で取り上げ、盆に乗った全てのコップにレモン水を満たした後、左右の手に一つずつコップを持ち、右手のコップをターキーに差し出して、受け取ったターキーに笑いかけ、左手のコップからレモン水を、一気にコクコクと飲み干して「美味しい!」CMのような爽快さで言った。





 見ていたターキーも同じように飲み干し「美味い!!ファイターは過保護だな、兄さん」トーキーに笑い掛ける。弟の笑顔にトーキーは「そうなんだ。羨ましいだろう」と言って、ファイターの顔を見上げる。





 仏頂面のファイターは居心地悪そうに「2人とも、さっさと食べろ」と無愛想に言い、チャンスとターキーは手を合わせて「頂きます」と言うや、猛烈な勢いで食べ始め、食欲旺盛な2人を見ていたが、コップを手に取って僕もレモン水を飲み干す。





 いつもより、酸味が強く。

 スッキリとしていく、喉越しを感じた。確かに美味い!!




 ふいに、なぜ、ここに宗弥がいないと不自然に思う。今朝、宗弥は「それは富士子が決めることだ」と言って笑った。左右のバランスが崩れた笑顔だった。ERの待合室で、樽太郎さんを待つにしても・・・出かけるのには早い時間に、宗弥は、1人先に出て行った。僕が富士子の夢を見たと話したからか・・・・夢に見ただけだ。ただ、それだけだ。いつもそばを離れようとしなかった宗弥の影に・・“ 1人がいいのか?“と語りかけてみる。





 スマホが振動した。後ろポケットから出して、メールを読む。





 “ ダンプカーを運転していたロシア人の現場写真、DNAを、ロシア当局にしめして情報を得た。この情報をもとに同盟国に情報提供をつのり、国男の事故、並びに、液体デイバイスの技術奪還を工作しているチームを断定した。メンバーはロシア人、フデチョフ(軍歴あり、クリミア紛争時、死亡。なぜ死亡扱いと発表されたか、ロシア当局調査中)、大陸系アジア人2名、(2人の詳細不明、写真無し)、パキスタン人1名、パティダ・ベル(2016年ロシア連邦軍との合同演習参加時、行方不明) の計4名。身元が判明したロシア人と、パキスタン人は、2年前からイタリア国際NGOdogに雇われていた。この2人は傭兵ようへいとして、重宝ちょうほうされていた可能性大。16ヶ月前にパキスタン人ベルが、7ヶ月前にロシア人のブデチョフが、イタリアから離脱している。(その後の行動、不明。各国情報局に依頼し、足取り調査中)大陸系アジア人2人に関しても、詳細がわかり次第、随時ずいじ報告入れる。なお、我々が提供した情報を元に、イタリアSISDEが捜索を行い、一部白骨化したアナスタシア・ミケランジェロと思われる遺体を、一族が所有する別荘近くのコモ湖にて発見(現在、身元鑑定中)“ コロンブスからの直暗号メールだった。揺さぶりがきいたか・・。





 読み終えて窓越しの朝焼け、赤い空を見る。アナスタシアはやはり、もう、この世にはいなかった。勘が当たった。アナスタシア殺害がめくれ上がるとは、素人か!雑な仕事ぶりだ!と、チグハグな怒りが湧く。どうして、そう急いだ・・急遽きゅうきょ、対処の必要な事案が浮上したか・・・だとしても・・なぜ、国男を襲撃しゅうげきする・・・あっ!!!液体デイバイス・完全体を・・富士子は完成させた。だから!!急いだ!・・・・だとしたら、敵の工作チームは誰から、その情報を得た。富士子の周りにいる人間は、本陣とベータが調査済みのはずだ。






 誰だ・・・ 誰からだ!スマホに視線を戻して、コロンブスからのメールを再読する。





 大陸系アジア人、2人、詳細不明の文字に嫌な匂いを感じ、背筋に冷たいものが走った。この2人を割り出さなければ・・・・富士子の周辺人物とつながるかもしれない。コロンブスにメッセージを打つ。“ 富士子が液体デイバイスの完全体を、完成させている可能性はないでしょうか、それを知る人間の中に、敵との内通者いるとは考えすぎでしょうか。再度、国男、富士子、浮子の周辺人物の調査をお願いできませんか“ と送信した。





 本陣の身元調査を、すり抜けた奴がいる。考えたくもない。身震いが出た。冷気の身震いに、獣の身震いをかさねて寒気を振り落す。





 その仕草を見ていたファイターは、怪訝けげんになった自分の表情を、隠すかのようにうつむく。何か、良からぬ感触を、イエーガーはメールから嗅ぎ取った。イエーガーのこの身震いは・・・不吉の証拠。前回見たのは・・あいつが狙撃され・・殉職した日だ。あの日もこんな穏やかな朝だった。前兆、啓示、暗示か、クソ!





 チャンスとトーキーが食事を終えるのを待って、コロンブスからのメール内容を伝える。





 ファイターは怪訝な表情に陰鬱いんうつさを加え、トーキーはレモン水を飲み干し、顔に精悍せいかんさが増す。チャンスはいつの間にかに、握っていたスプーンをカレー皿に落とし、大きな音を立て「すいません」と小さく謝った。ターキーは唇を噛んで、鋭い眼差しを硝子コップに向ける。ターキーがmapに来てから、初めて見せたたけだけ々しい表情だった。





 それぞれが、様々な感情をかかえていた。





 アナスタシアの結末に、

 軍籍上がりの傭兵が、日本に潜伏している事に、

 アジア系2人の詳細不明に、

 怒りを感じ、不穏ふおんを読み取って、考えをめぐらせている。





 その空気感が気に入らず、僕は「いつも通りでいこう」おだやかに言って、コップに残っていたレモン水を口にするが、しかし今度は、スッキリとはいかなかった。咳払いをしてそのまま強引に話しだす。





 「10:00(ヒトマルマルマル)から、西浜医師とアルファーの顔合わせだ。その時、西浜医師に了承りょうしょうしてもらい、国男の病室に監視カメラと盗聴機を設置する。病室での作業はファイターとトーキー、僕でおこなう。ターキーはmapで待機、トーキーが戻るまで仮眠をとれ。トーキーとターキーの2人は、mapのPCと病室拠点のPCをリンクさせ、ネットワークの再構築を頼む。チャンスは西浜医師との対面後、拠点病室で仮眠。19:00(ヒトキュウマルマル)から国男の病室ドア前で警護に付け。いいか、普段の任務となんら変わりない。特別に何かを考える必要もない。今回も通常通りで十分だ」と声を張る。





 各自が「了解」とこたえ、チャンスは「了解」と言った後、両頬りょうほほを両手でパンパンと叩く。





 レモン水をコップに注ぎ入れながら「ファイター、早めに出て盾石家に寄らないか、サラマンダーが来ているはずだ。挨拶しに行こう」と言うと、ファイターから「純粋にそれだけなんだろうな?」と言われ、すがすが々しい少年の微笑みであろう顔を、わざとファイターに向けて「当然だ。こうなったら、チーム間の協調は大切だろう、ファイター」一段とおだやかに、聡明そうめいな口調を心がけて言い、ニコニコと笑顔を絶やさず「トーキー、追跡型・盗聴発信器はあるか?」と聞く。ファイターが「やれやれ」と口にする。





 「あります。最新の液体デイバイス基盤きばんの物が」と答えたトーキーに、尻尾しっぽがあって、もし、それが見えたとしらブンブンとご機嫌に振って、次の指示を待っていた。





 トーキーに悪い顔をしてみせた僕は、口元が耳から耳まで届きそうな笑顔を作り「じゃあ、その発信器をベータの指揮官車と、サラマンダーに装着そうちゃくさせてもらおう。情報共有は、基本中の基本だからな。そうだろう、ファイター」宣言するようにファイターに振る。





 トーキーは「はい!!」と答えて、金庫室へと走りだした。





 ターキーはその背を見送りながら「いいな」と呟き、チャンスは「そうか。そいう手もあるんですね」と納得顔をする。重い空気を一天させた要を、ファイターはビックパパみたいな笑顔で、出来の良い子を見るような目で見る。





 目を細めてファイターをにらみ、「その顔はよせ」と言ってやった。






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