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要編  31 悪夢



  シーン31 悪夢




 簡素ベットに入る。睡魔はすぐに訪れ、深海のような漆黒の闇に僕を誘った。光栄いたみいる。




 暗黒の中、戦闘服を着用していた。なぜか、強い警戒心を抱きマシンガンを低姿勢で構え、1人歩いている。気持ちが切迫せっぱくしていた。だが、どうして、何に迫られているのかがわからない。



 その上、膝下から下は暗く、足裏の感覚だけで歩いている。




 どこまで進んでも闇は続き、暗視ゴーグルを装着しようとしゃがみ込んで、嗅ぐように周囲を警戒しながら腰ベルトに左手をあてがうが、そこにゴーグルケースはなく。




 はたと見るが、‥・・ない。ヤバすぎる。この闇夜で裸眼は危険だ。持っていたはずだ‥確かに。サブマシンガンをえ直してスコープを覗き、警戒レベルを引き上げて、進路をなぜか、根拠もなく、左に取って僕は歩き出す。



 歩きながら暗視ゴーグルケースを、どこで落としたと考える。いや、そもそも・・・持って来ていたかと迷いが生じ、全身から嫌な汗が噴き出し始め、出撃する前、総員で確認して、申し合わせをした、、、はずた。自信がなくなってくる、、、クソ!




 今度は、意思に反して足がパタリと止まる。チームはどこだ⁉️ いきなり考え出す。思考を制御できない。コントロールしようと“ 落ち着け“ と念じるが、内心は焦るばかりで、もう止まらない。さっきまで左隣に宗弥がいたはずだ❗️左を見る。宗弥の姿はなく、気配さえ感じ無い。ファイターは⁈、トーキーは⁈、、大体だいたい、なんの作戦だった!!ごちゃごちゃとした考えが、僕に噛みつきだす。なんなんだ!!僕は一体どこにいるーー!




 そこに突然[送る。イエーガー、そうじゃない。誰もいなかったんだ。初めからお前は1人だ]と内耳モニターに入り、聞き覚えがない声に“誰だ!!“と気を取られた。





 脳が内耳モニターからの声に、“ そうだった僕は、最初から1人だ。そうだった“ と汚染され始める。自分に対する信頼の均衡きんこうが崩れ始め、内心に不安の霧が広がる。畜生!!




 それでも、声の主を確認せずにはおれず、僕は[送る。イエーガー。本当にフレミングは、トーキーは、ファイターは、最初からいなかったのか?]と通信するが、返事は返って来ない。




 汗がねっとりとしたものに変わり、体にまとわりつき始める。最悪だ。まとわりつかれては気持ちが落ち着かないだろうがーーー女じゃあるまいし!と毒づく。が、むなしさだけが残る。ちきしょう!とにかく、チームと合流しなければ。




 ひたいから流れ落ちた汗が目に入り、視界をさまたげる。左手で汗を乱暴に払う。その左手はグローブをはめていなかった。今度は戦闘グローブをなくしていた。




 どこで、外した⁈ さっき腰ベルトをさぐった時、手袋はしていた。いや、すでになかった。記憶が混濁こんだくしだす。




 そこに女の泣き声が聞こえ、助けなければと足早に向かう。嗅覚が危険だと警戒音を鳴らし出す。が、僕は足を止められない。クソ!なんでた!なんで向かう!!行かなくていい!危ないんだ!混乱した僕に[送る。イエーガー、違うよ。お前は私の虜だ]とさっきの声が語りかけてくる。そうだ、僕は虜だった。思い出したかのように素直にしたがう。




 理性が手順通りに一旦立ち止まって、偵察ていさつ行動を取り、進まなければ死ぬぞと警告されながら、僕はいのちが初めた事は、命が終わらせたほうがいいと思う。




  10m先に女がいた。




 足が勝手に立ち止まり、うつむき泣く女の様子を観察する。女の表情は髪がかかって見えない。慎重に近づいてゆく。迷った末に、右手でそっと女の左肩に触れ、座るようにうながした。僕も女のそばにしゃがみ、周囲を警戒しながら「大丈夫ですか?」と声を掛けた。




 顔を伏せたままの女が「カラスが千鳥の子をさらって行ったの。千鳥はね、庭先の桜の下で見つけたのよ。可愛がっていたのに。カラスに盗られてしまったわ。可哀想に、今ごろきっと」泣き声を大きくする。




 「頼む。静かにしてくれないか」と言うと、女が顔を上げた。富士子だった。




 驚いて「何があったんです!怪我はしていませんか?」声を張った僕が聞く。




 青白い富士子がコクリとうなずき、赤い目にうっすらと笑みを浮かべて「人殺し。何人殺せば気が済むの。ここから先は、知らないわよ」と言った。




 氷つく。僕は富士子に目をむく。富士子だ。どう見ても、富士子だ。「今度会う頃には、雨と嵐の風の中にいたしましょう」富士子が笑う。




 いきなり立ち上がった富士子は後ろに2歩下がると、きびすを返して駆け出した。「待ってくれ」と僕は引き止める。必死で言葉を発するが、僕は口がきけない。富士子が闇に消えゆく。




 後を追う。僕は富士子を追う。富士子が見つからない。走る。走るたびにズブズブと、僕は足先から地面に埋もれていく。もがきながらもなんとか前進するが、腰まで埋もれ、胸まで達した頃、富士子の甲高い笑い声が聞こえ、スッーっと富士子が、まるでスポットが当たったかのように姿を現した。



「そこにいてくれ」そう言おうとした瞬間、ベットから飛び起きた。息を弾ませながら周りを見渡す。




 常夜灯が薄くともった部屋に、もちろん富士子がいるわけも無く。




 寝汗を吸った黒の長袖シャツが、身体に張り付いて気持ち悪い。乱暴に脱ぎ捨てて、枕元にあるスマホを取り上げ、富士子の位置を確認する。




 発信器の点滅は、自室のベットの位置にあった。スマホをカーゴパンツの左後ろポケットに入れ、息をつく。





 ベットの上で胡座を組んで、深い呼吸を繰り返すが、起きた時と同じで、頭の中はごちゃごちゃとしてまとまらない。こういう時は汗をしぼるのに限ると、両足を床に下ろして、座ったままロッカーの扉を開け、1番下に置いてあるランニングシューズと、着替えの長袖シャツを手に取り、床に脱ぎ捨てたシャツを拾い上げて立ち上がる。




 宗弥のベットは寝た形跡はなく、きちんと畳まれた上掛けがベット足元にあった。




 その隣のファイターは仰向けの体勢で、深く規則正しい呼吸を繰り返し、分厚い胸板を上下させている。サンタクロース姿のカーネルおじさんが寝ているようだ。




 トーキーは静かで金庫側を向き、上掛けはきちんと胸元まであった。丸まって寝ている。猫みたいだ。




 チャンスとターキーのベットも、使われた形跡がない。




 部屋を出てサニタリールームに行き、自分の洗濯カゴに汗で濡れた長袖シャツを入れ、ランニングから帰ったら洗濯だなと思いながら階段を降りる。




 一階の常夜灯が、一瞬、揺れた。




 背中を廊下のはしに付け、闇に同化して移動する。入り口近くでしゃがんだ。




 床にシューズを置き、その上にシャツをのせ、かかとを上げて指先に体重をかけ、両ひざを大きく開いて室内をうかがうように嗅ぐ。誰かいる。誰だ⁈ 嗅いだことのない匂いがする。侵入者だ!!どうやって、ここに入って来た!!クソ!!!国男が襲われた昨日の今日だ。あり得る!




 動物的な勘だけで、一気に押し入った。振り出した拳の先に、宗弥がいた。寸止めする。




 驚きの宗弥は、ガンラックに背を向けたパイプ椅子に座っていた。僕は慌てて「すまん」と謝り、宗弥に店内を指さす。頷いた宗弥は「おっかないな。頼むよ。まったく」ぶつぶつとぼやきながら、立ち上がって店内に入って行く。宗弥の匂いではなかった・・・どういう事だ・・。悪夢の・・せいか。




 店内に入りながら僕は「国男さんの容体は?」と神妙に聞く。




 宗弥はカウンター前を横切りながら「変わりない。ベータの2人が日が変わった瞬間に、ICU 前に現れたぞ。しかも脇の下に銃を携帯してだ。ベータはやる気満々だな。だが、おじさんの事だ。完全に任せる訳にはいかない。シャワーを浴びて着替えたら、様子を見に戻るよ」不満気に鼻を鳴らした宗弥は、ベータ介入が気に入らないのだろう。宗弥は昨夜、富士子が選んだテーブルに向かい、富士子が座った椅子に座る。




 カウンター内に入りながら、僕はそれを視界のはしで見ていた。やはり、気が合うんだなと思う。うつむいて「そうか。ベータはやる気か。お前もコーヒー飲むか?」と聞く。顔を上げた宗弥は「もらう。昨日、バイクお釈迦にしたって?その左肩の包帯はその時のか?」と言い、「ああ。大した事じゃない」と答える。




 宗弥の顔を見る。目があった宗弥は「体調はどうだ?」と僕に聞く。無意識に「問題無い」ポロリと言ってしまった。口から出た言葉に気を取られたまま、コーヒーメーカーをセットする。左右の手の平を内側に向け、脇の下に入れて腕を組む。悪夢を見て飛び起きたと、なぜ正直に言えなかったと考える。宗弥にはいつも、正直な気持ちをストレートに話してきた。




 何故、今、それが出来なかった・・・視線を下げて、なお考える。




 答えはすぐに出た。嫉妬と小さなプライドだった。自分を理解した。この小さな心は、どうあっても僕の心に居座り続けるだろう。ならば・・・捨てよう。「宗弥、さっき悪夢を見て飛び起きた。そんなことは初めてだ。その夢に富士子さんが出てきた」と話す。




 宗弥は聡明な目で要を見つめ「富士子が好きなのか?」静かに聞く。




 僕は・・宗弥を真っ直ぐな目で見た。



 幾分いくぶんかの時間はかかったが、僕は正直に口を開く。「わからない。本当だ。自分の気持ちがよくわからない。それに僕では、富士子さんに不釣り合いだと思う」と。




 宗弥は「お前の自己評価が低いのは頂けないが。要、それは富士子が決める事だ」と真摯しんしに返す。




 聞いて、あっと息を飲んだ。ぼ・く・は、富士子を、最優先に考えていなかった。恥じ入る、深く底抜けに、恥ずかしい。男として、さ・い・て・いだ。ぼ・く・は。自分の事しか考えていなかった。度量どりょうでも気質でも、宗弥にかなわない。チキショウ!!




 だから、僕はと思いながら「いま気づいた。そうだよな、考えが足りなかった」誠実な気持ちで口にする。




 ニヤリと笑った宗弥は「気をつけろ、要。富士子は、ああ見えて、ファムファタールだ。最初の犠牲者はこの俺。残念だろうが、お前じゃない」左右のバランスが取れない表情で言う。俺の感が当たれば富士子もお前に興味を持った。だが、それは教えない。どうしてかって?富士子は俺のものだからだし、男は自分で切り拓くもんだからさ。




 室内に、コーヒーメーカーの電子音が響く。



 宗弥から、視線をらせない。



 椅子から立ち上がった宗弥は、カウンターを挟んで僕の前に立ち「マグカップとってくれ」と言い、僕はうなずいて、食器棚の扉を開け、カップ同士が当たらぬように注意して、2つのマグカップの取手を右手で掴み、左手でコーヒーポットを取り出してコーヒーを注ぐ。




 その様子を眺めていた宗弥は、要の左手首のパワーパッドを見て「そこ、4針縫ったって、ファイターからメッセージきたぞ」と言い、僕は「小言をもらった」と言って小さく笑う。




 顔をしかめた宗弥は「俺はもらいたくない。ファイターの小言は、文字よりもこまやかだ。身体の管理にうるさいには良いことだけどな」と言った。




 差し出した2つのマグカップから、宗弥は左手で一つ取り上げてテーブルに戻る。カウンターを出て、宗弥の向かいに座り「少しは眠れたのか?」と聞く。「3時間ほど微睡んだ」と言った宗弥がコーヒーを飲む。



 「宗弥、今日は病室の監視カメラの設置と、西浜医師との顔合わせもある。富士子さんの警護をベータに頼もうと思うんだが」考えていたことを口に出す。



 カップから視線を上げた宗弥は「そうだな。西浜さんにチーム全員の顔を、覚えてもらった方がいいだろうな。これからは、何が起こるかわからないんだから」最後のワンフレーズに、怒気がはらんでいた。



 カーゴパンツの左後ろポケットからスマホを取り出し、本陣経由でサラマンダーに共通暗号のメッセージを打つ。宗弥はコーヒーを楽しみながら、その様子を見ていた。



 送信してコーヒーを一口飲み、「国男さんの事故以降、情報が続々と上がってきてる。トーキーが要点ようてんをまとめてメッセージしたと思うが、今の時点で何らかの関わりがある国が、3ヵ国になった。これからは、それぞれの国に帰属する諜報員、工作員、金で雇われた人間との攻防こうぼうになる。噂を聞きつけた各国の諜報機関ちょうほうきかんも、介入してくるだろう。アルファーはそいつらと入り乱れての作戦進行なる。特にユートピアはいつも通り、自国の為なら所構ところかまわず、何でもありで来る。宗弥、僕は今日からチームに、銃の携帯を指示しようと思ってる」指針ししんを口に出した。



 宗弥は「お前は女心にはうといが、特殊部隊チーム長としてはこの国のトップだ。思うようにやれ」と言ってうなずき、コーヒーを飲み干して「要、朝飯食べよう」と言いながら、椅子から立ち上ってカウンターへと歩き出す。



 腰を上げようとしたのと同時に、僕のスマホが鳴る。立ち上がりながら確認する。

 



 “承知した。準備が整い次第、お前に連絡を入れる。昨夜の事故情報も、ベータは共有している。俺は頭に血が昇った。血管が数本切れたよ、きっとな、確実に。まるで脳卒中にしたいのかと思える展開だ。この国で勝手なことはさせんよ。お前は表から行け、俺は裏で遊ぶ。それから、どうも情報漏れしてるふしがある。気をつけろ“サラマンダーからの鬼返信だった。本陣を通さずの直メッセージ、サラマンダーなりの誠意なのだろう。登録して返信を返す。



 “自分も同じです。血管切れました。情報漏れの件、承知しました。気をつけます“



 コーヒーの入ったマグカップを持って、カウンター内に入っていくと、宗弥はすでに冷凍庫をあさっていて、ファイターの作り置きカレー、ジップロックLサイズ2つを見つけ出していた。




 そのジップロックを右手でかざした宗弥は「朝カレーにしよう。どうだ?」ぶっ飛び笑顔で問いかける。




 その笑顔を見て、僕が女だったら惚れるな、1発でと思いながら「いいね。飯は?」と聞く。「ファイターにぬかりなしだよ」と応えた宗弥は、大盛りサイズで一人前ずつに小分けされ、綺麗にラップ包みした白米が、一袋に3個ずつ入ったジップロックL2袋を要に見せ、ジップロックのたてそろえるようにしてカウンターにおき、コンロの下から大鍋を出し、水を注ぎ入れてコンロにかけた。



 湯煎か、宗弥らしいと思う。なんだか、いつの日も変わらない宗弥に笑みが出た。宗弥がこの顔を見たら” そうだ。俺は習慣を変えられない、愚か者さ”とまた言うだろう、早々に顔を引き締める。




 右手のマグカップをカウンターにおく。その手でジップロックを取り上げ、小分けしてある白米を一つ取り出して、宗弥が電磁波がとか、栄養が劣化れっかするとか、大体とか、あれこれツベコベ言い出さない内に、問答無用で電子レンジにセットする。



 食器棚からカレー皿を4枚取り出してカウンターに並べ、マグカップを右手で取り上げ、白米の出来上がりをコーヒーを飲みながら待つ。




「おはよう」と言いながら、ファイターとトーキーが店内に入って来た。




 ファイターは宗弥の姿を見て「フレミングお帰り。朝食はなんだ?」と言い、「朝カレーだ」と答えた宗弥に、「いいね」と応えてカウンター内に入ってくる。




 前を通るファイターに、コーヒーを飲みながら「お前が入ると狭くなる」と言ってやる。ファイターは僕をチラリと見て「サラダを作るんだ。フレミングに、左手首の傷を見てもらったのか?左肩はどうだ?」と聞く。




 「まだだ。問題ない」不機嫌に答え、そこに電子レンジの電子音が鳴る。




 カウンターの上にマグカップをおき、左手でカレー皿を取り上げて電子レンジの扉を開け、白米を包んでいるサランラップの端を、右手でつまみ上げて引き出そうとした。カウンターを挟んで、その要を見ていたトーキーは「イエーガー、じかは、またやけどします。これを使ってください」と言って、カウンターにあった布巾ふきんを差し出し、僕はそうだったと思い「ありがとう」と言いながら布巾ふきんを受け取って、サランラップの端を摘み直すが、ラップがフニャフニャになっているのを見て、心許こころもとないと感じて布巾を広げて掴み取った。



 「熱っ!」声が出た。「おい!!」2つの声が同時に飛んでくる。



 その声は器用に包丁を使って、きゅうりを空中からボールに削ぎ切りしている宗弥と、調理台でキャベツの千切りしているファイターからだ。




「頼むよ。文学部」宗弥が、余計な一言を付け足す。顔をしかめた僕は、右手の布巾の上でポンポンと跳ねさせているラップ包みの白米を、大きく跳ね上げ、左手のカレー皿で受け止める。




 皿をカウンターに置こうとすると、トーキーが皿を受け取り、僕の両手に1つずつ、冷凍白米を手渡す。「おっ、ありがとう」と言って、右手の冷凍白米を軽く握りしめ、左手の冷凍白米を電子レンジにセットした。




 水が沸いた大鍋に宗弥は冷凍カレーを入れ、フタをしながら「要、後で傷見てやる」と言い、「頼む」と返す。宗弥は要に一笑して、冷蔵庫から卵のパック取り出してカウンターに置く。ファイターが「目玉焼き、スクランブルエッグ、どっちだ?」と宗弥に聞き、「スクランブルエッグが食べたい」割って入った僕はリクエストする。




 宗弥はコンロの下からボールと、引き出しから攪拌かくはんき器を取り出して、トーキーに渡し「卵、全部割っていてくれ。あっ、牛乳あったか?」とファイターに聞く。ファイターが「ああ」と返し、宗弥は「要、頼む」と言った。




 冷蔵庫から2ℓの牛乳パックを取り出して、トーキーに渡す。




 電子レンジの電子音が鳴り、今度は布巾でサランラップの端をつまみ、扉の内側を滑らせて、左手のカレー皿に移していると、スマホのメッセージ受信音が鳴った。トーキーが「変わります」と言いながら、カウンター内に入って来る。




 「頼む」とまかせて、スマホを確認した。サラマンダーからだった。




 送られてきた暗号打電は、日にちを使って解読するもので、今日は何日だったかと考え、頭の中に浮かんだ数字が合っているか不安になった。「今日は何日だ?」と誰に聞くわけでもなく言うと、全員が口を揃えて「8日だ。です」と答え、「ありがとう」と言いながらカウンター内から出た。




 脳にあった数字も“8“だった。自信が持てなかった内心に、頼むよ、文学部。と毒付き、カウンター前のスツールに座って解読する。




 “本日07:30(マルナナサンマル)までに、盾石家にチームを配備する”




 「えっ!」っと声を上げていた。店内の時計を見る。そこではじめて6時前なのに気付く。短時間睡眠の感覚はなかった。




 「どうした?」と宗弥に聞かれ、「いや」と歯切れ悪く答える。3人にサラマンダーからのメッセージを伝えながら、警護任務についているチャンスとターキーにチーム内暗号を打つ。




 “ 07:30時、ベータチームと交代せよ。その後、mapに戻られたし“ と送信すると、すぐにチャンスから、“了。相手の特定はどうすれば良いですか?“と返信がきた。




 “ 匂いを嗅げ。僕たちと同じ匂いがするはずだ“ と送り、宗弥、ファイター、トーキーの顔を見る。悪夢を見たにしては、いい朝だった。



  



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