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要編  30 dogとCATと、情報士官にロシア人兵士



 シーン30 dogとCATと、情報士官にロシア人兵士




 慎重な手付きでパワーハットをがしたファイターは傷口を見るなり「けてるじゃないか!!」きむしるような憤怒の声を頂点ごえさせた。要は犬歯を見せて笑ってみたが、ファイアターの怒りに油を注いだだけで、口を真一文字にして鼻腔を膨らませたファイターは、無言をつらぬき宗弥とは違う繊細な手つきで縫合し始めた。怒りをたぎらせながらも指先は震えず、スナイパーの精神力を見せ付けながら、しゅくしゅく々と針を進めるファイターは僕を見ようとはしない。太古から神とて教会に雷を落として炎上させたりもする。今は口を閉じておいた方がいい。



 その後。怒りが冷めやらぬファイター。苦笑を隠さないトーキー。反省を顔に貼り付けた僕の3人で国男の時系列を検討に入った。ファイターたちを振り切った以外、国男の行動に時間的な不自然さはなかった。倉庫に直行したということだ。



「アルファーが担当する前にも、接触していたのでは」と言ったトーキーに、「だな、可能性大だ」と同意して、ベータが上げた全ての日報閲覧を本陣に申請するよう指示した。




 「多分、不可だろう」丹念に医療器具を消毒しながら言ったファイターに内心で軸を一にしたが、どうしてもベータの日報を読みたい僕は「今夜の事故を踏まえてを強調する文章でいけ、宛てはこのアドレスにだ」言いながらスマホを出して検索し、見つけ出したメールアドレスをトーキーに見せた。トーキーが「これは・・」と息をのんで驚いた。「そうだ。コロンブスの直アドだ」と言葉を返す。「あるとは聞いていましたが、初めて・・知りました」と言ったトーキーは文面の書き直しに入った。



 トーキーの送信を待って、イタリアにある国際NGOdogに関する事、ダンプカーで突入したdogの取引先のCATという会社に雇われていた元ロシア人兵士の事、アメリカ情報士官に関する事を3人で話し合い、この件は国家間のものに引き揚げて本陣に調査するよう具申すると決めた。




 ロシア人兵士の退役経緯は資料通りか、GRU所属の友人に問い合わせすると言ったファイターが店内に入って行きながら、スマホでメールを打ち始める。



 その背を見送りつつ僕に歩み寄ったトーキーは立てた右手の親指で自分の首を指し、真一文字に引く。僕は内耳モニターをオフってトーキーに頷いた。するとトーキーは「例のジュラケースですが、今、僕のべットの下にあります。ターキーと赤外線スキャンしてみたんですが、数枚の書類と液体パックが入ってました。強引に開けたり、何度かまでは推測するしかありませんが、暗証番号を2回ないしは4度ミスすると書類と液体パックは、ふたに内蔵されていたシュレッダーで破棄されるか、薬品で溶ける仕組みになっているようです」潜めた声でそう言い、僕は「わかった。ケースは金庫に保管してくれ」と頼んだ。「はい」と応えたトーキーは2階へと上がっていく。



 やはり、液体デイバイスの紙資料だったか・・・パックの中身は液体デイバイスに違いない。なぜだ!なぜ、そんな行動に出た!!国男を説得して本陣に申告させたい。だが・・それは・・・越権行為になりうる。クソ!!!



 2階から降りてきたトーキーは僕に頷き、自分が日報を上げると聞かなかったが、僕が書くと押し切って、トーキーを先に休ませる。書き終えて本陣にメールし、iPhone Watchを見ると1時間も経っていた。



 ため息をつき、たったこれだけの事をするのに、何を手間取ってるんだとうんざりする。シャワーを浴びよう。心身ともに末期の充電切れだ。サランラップを取りに店内に入っていくと、ファイターは向かいあわせに置いた椅子に、体を預け足を乗せて仮眠を取っていた。



 ファイターも、返信を待ちながらの充電中か。




 金庫室の2階に上がりながらシャツを脱ぎ、サニタリールームの自分のカゴに放り投げて、サランラップを左手首に巻き、シャワー室の換気を止めてシャワー室に上半身を入れ、給湯温度を45度に設定する。シャワーヘッドの向きを奥壁に向け、温水を出しっぱなしにした。湯気が立つ中で、シャワーを浴びるのが好きなんだ。



 簡素ベットが並ぶ部屋に入っていくと、向かいで就寝しているトーキーの上掛けが、足元に蹴飛ばされいるのに気づく。上掛けを掛け直してやりながら寝顔を見る。幼さが残る顔で、爆睡していた。



 よほど疲れているのか、いつもは寝息一つ立てないトーキーが、今夜は口をわずかに開けて、呼吸音を立てている。無防備な寝顔を見て無理もないと思う。




 トーキーは富士子の警護任務の後、mapに戻ってターキーとCIAと国防省のスパコンに潜り、苦心して事故現場でチャンスが撮影した男の情報を引き出した。



 名前はチャーリー・Jr.クルーズ、ペンタゴンの技術開発機関DARPA所属。



 国男のスマホに履歴に残っていたゼネラルダイナミック社・ロバート・ゼロなる人物も、この男だった。国男とJr.クルーズの通話履歴は今日の1本だけで、窓口になっている人物が、国男の周辺にいるという事だ。誰なのか・・・今のところは、不明。本陣は調査に入った。



 その後、トーキーとターキーはダンプを突入させた男を、CIAの資料から元ロシア兵士だと突き止め、この男の口座をたどり、イタリア国際NGOdogへとたどり着く。



  そのNGOの詳細も、2人は調べ上げる。




 代表者はイタリア人・アナスタシア・ミケランジェロという女性で、父親から資金提供を受けてNGOを立ち上げ、アナスタシアの父デルトロ・ミケランジェロは、投資会社の2代目CEOだった。2009年10月に起きたギリシャ危機のあおりを受け、下落したドイツ国債を投資対象のメインにおいていた為、徐々に経営難に陥っていく。




 それと並行するように、アナスタシアの国際NGOdogの活動も下火になっていき、銀行取引は月に数件、もしくは全くない月もあった。



 デルトロの投資会社は倒産寸前、ユートピア国が資本の70 %出資して、設立したCATなる会社に吸収合併されいた。



 CATの代表はイタリア人・カルロ・ゴールデリ。



 時を同じくして、国際NGOdogの国際援助金の送金が多額になっていき、銀行取引も月数百件に増えていく。




 現在、CATの経営には全く関わってはいないが、執行役員に名を連ねたデルトロには、月10100ユーロの報酬が支払われ、アナスタシアは今でもdogの代表だが、一年半前に行方不明になっていた。



  その消息は、今、現在も不明。きな臭い。



 トーキーとターキーの報告を聞いて、国男を亡き者にした後、何らかの方法をとった誰かが、どこかの、なんびとかの意思の元、盾石グループへの介入を目論もくろんでいたのではないか、僕は推測を口に出した。




 ファイターは「悪質だな。このゴールデリは、いつからデルトロの会社を狙ってたんだ」と苦い顔をし、トーキーが「ドイツ国債を勧めたのが、誰なのか調べますか?」と言った。「いや、それは本陣にやってもらおう。Jr.クルーズ、 dogとCAT、デルトロ、アナスタシアの資料を本陣に送信してくれ」と指示する。



 トーキーにとっても、今日は長い1日だったろう。

 国男についている宗弥の穴埋めで、ターキーは富士子の警備任務に出た。




 ロッカー前に移動して着替えとタオルを整えながら、事がめくれ始めた今、コロンブスはどう対処する気なのか、その心の内を知っておいた方が良いだろうと思い、メールすると決めてシャワー室に向かう。



 スマホが小さく振動して、後ろポケットからスマホを取り出してクリックした。初めて作戦上の事で、先に報告がなかった宗弥から、総員に向けてのメッセージだった。



 “ 国男の病室、最上階508号室に決定。西浜医師との面談約束10:00(ヒトマルマルマル)。場所、病院屋上“




 “了“とだけ返信する。不信は抱かず、緊急に至急が重なった今日だ。いたし方無いと思うにとどめる。



 着脱して湯気が立ち昇るシャワー室に入り、前に戻したシャワーヘッドの下に身体を入れ、耐えられる限界までシャワーの温度を上げる。高温に皮膚がピリピリと反応したが、れると次第に筋肉がほぐれてゆく。だが、今日一日で溜め込んだ心の澱は、内心に居座り続けて洗い流せず、諦めて、いつもの手順に戻る。



 シャワーに背を向け、右手で備えつけのシャンプーへッドを3回押して左手に落とし、右手にもシャンプーをからめて、指先を立ててゴシゴシと髪を洗い、硬くなった頭皮の血行も促す。



 そうしているうちに頭の中が少しずつ、リセットされていく。



 納得がいくと反転してシャンプーを洗い流し、一歩下がってボディージェルのボトルヘッドを右手で4回押し、左手でボディージェルを受けて両手で泡立て、丹念に、丁寧に、身体を洗う。疲れている時に限って、なかなか納得がいかず、しつこく洗うクセが僕にはある。



 宗してる内に左肩の打ち身が熱をもち、脈を打っているのに気づき、温水を水に近い温度まで下げて、うな垂れた姿勢で左肩を中心に掛け流す。



  熱が取れるのを待っていると、突然、富士子の泣き顔が脳裏を横切った。


  涙の大きさを思い出す。


  記憶を洗い落としたくて、顔を上げて水を浴び続ける。



 シャワー室から出てて身体を拭き、洗濯仕立ての下着と黒のカーゴパンを着て、バスタオルを両肩に掛け、洗面台に置いてあったサランラップを右手に持ち、裸足で1階金庫室に降りてゆく。OA機器前に座り、コロンブスにメッセージを打ち始めた。



 その気配に気付いたファイターは、スパゲッティ用のバジルソースを仕上げに掛かった。



 ファイターは金庫室に入って来ると、ガンラックの下にある長机の下から、救急キットボックスを取り出して、OA機器の長机の上にボックスをおき、湿布と包帯、留め具を出して、僕の左肩に湿布を貼り始めた。



 PC画面から視線を離さず「ありがとう」と、キーボードを打ちながら言うと、頭上から「肩の骨がくだけなくてよかったな」低音の声が落ちてきた。その言葉に反応した僕は目を細め、送信をクリックしてファイターを見上げる。


 

 右の口角を上げたファイターはニヤリと笑い、2枚目の湿布を貼りはじめた。



 その顔を見て茶化しだとわかり、ニヤリとし返す。「お前の悪い癖だ。見ているこっち」とファイターが言ったところで、コロンブスからの暗号メールが着信した。



  コロンブスも、今夜は不眠不休か。



 ファイターは3枚目の湿布を貼りだし、おいおい、一体、何枚貼る気だよと思いながら、解読し始める。



「なんと、おっしゃってる?」と聞いたファイターに、お見通しかと、勘の働く奴だ思いつつ読み上げた。「明日、早い時間に情報士官の写真、氏名、会社名を三沢に問い合わせする。だが、存在なしとの返答になるだろう。dog並びにCAT、至急、調査敢行ちょうさかんこうす。コロンブスは興味を示した。トーキーとターキーのお手柄だ。それから・・監視警護の再編成決定。富士子担当、アルファー。国男並びに浮子担当、ベータとする。日報については不可とのことだ」僕の問い合わせに返事は記されていなかった。



 コロンブスには、何か考えがある。返答がないのが、その証拠だ。




 「ベータ長、サラマンダーのお出ましか」とファイターはため息をつき、「ロシア兵士の経歴に間違いはなかった」と言った。「そうか。ありがとう。ロシア人兵士の資料も、コロンブスに送信する」と言ったら、ウィンクを返して来たサラマンダーの顔が思い浮かんだ。



 業火ごうかに焼かれて生きている男。明日からサラマンダーとの共同任務が始まる。今夜は眠れそうにない。コーヒーを飲みながら月をながめるか・・・。



 要のその横顔を、ファイターは見ていた。






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