表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/78

要編  29 青火との向き合い



  シーン29 青火との向き合い


 


 富士子の向かいに座り、樽太郎が話したという、事故の模様もようを僕は聞いている。



  数時間前、その事故現場にいた。



  ファイターに発砲を指示する自分の叫び声。

  握ったグロックの感触。

  防波堤に突入する大型ダンプカー。



  横滑りしながら、はなった黒色のバイク。



  車がつぶされる音。

  運転席から、引きずり出した国男の顔。

  赤いジュラケースの回収を頼むと言った国男の声。

  


  チャンスのこわばった顔。



 サイレンを鳴らして去る救急車。



 おさめたはずの内包に赤い炎がともる。自分の喧嘩けんかをやられましたと、取集しゅうしゅうを求めてげるほどアルファーはやわではない。



  熱量が一気に増して、鮮烈の青火となる。



 襲撃しゅうげきしてきた敵を、今すぐ叩きのめしてやりたい衝動しょうどうられ、青き殺気が立つ。殺意をいだいて、富士子の話を聞く。




 ふと、話を途切れさせた富士子が見つめてくる。怒りをたぎらせている自分を、富士子には見せたくはない。こんな激しさを持っていると、知られたくもない。ふつふつと煮える怒りと殺気を固め、心のすみに追いやった。



 僕の沈黙を戸惑いと勘違いした富士子が、何も知らずに口にした。「父は死なずに済んだ」と。




 その言葉は、僕を狂わせる。やめてくれ。耳をふさぐ。聞いているような顔をして、聞いていない。富士子さん、僕を気遣いながら話してくれてありがとう。ですが、富士子さん、僕は全てを見て、全部を聞いていたんです。あなたが語る何もかもを、僕は知っているんです。すまない。



 この国を外敵から守りたいという、強い信念が僕の中で生きている。そのために血反吐ちへどまみれの訓練を積み、戦友を何人、亡くしても、頭に叩き込んだ交戦規定を守り、影に徹して戦っている。僕らが生きている世界は悪事が得とし、誠実は馬鹿をみると言われてもいる。



 国男の事故は、あなたの父上の事柄は、“ 助かったからよかった“ では、僕の中の僕の心が許さない。ほんの少し思考していれば、防げたはずだという屈辱の念が、僕を侵食する。



  敵は姿を現して、仕掛しかけてきた。

  今夜、その意思を明確にしめしてみせた。

  売られたケンカはすたらせてる。



  これからは熾烈な戦いになっていく。

  しかも、我が国、日本国の地で。



  富士子は涙を流し、国男を守れなかった自分を「恩人だ」と呼んだ。



 内包でクソったれと吐く。僕に対する言葉だ。富士子にではない。勘違いするなよ。そんな思いは富士子にも、誰にも持っていない。端に追いやったはずの鬼火が、よみがる。




 血塗られたこの心は、アラビア中の香水を付けたとしても臭う。

 時はアルファーを出し抜いた。

 復讐ふくしゅうだ。

 殺戮さつりくだ、が始まる。



 海外派遣されている時のような気の張り方でいたか。日本は安全だと、どこかで甘んじてはいなかったか。僕は自分を疑う。



 警護対象者の富士子を、泣かせている。

 なんのために、自分たちは存在している⁈



 富士子が泣き顔で、笑いかけてくる。かろうじて、微笑む。そうせざるをえない自分が憎い。あの時、他に出来ることはなかったか・・・やりきれない。



 天は許したのだ。国男が事故にう事を。

 何か理由があるはずだ。

 見つけ出さなくては、収まりがつかない。



 あなたを守り抜きますと、富士子に誓う。



 話が途切れたタイミングを掴み「タクシーを呼びます」と富士子に伝えた。



 タクシーに乗る富士子の姿は、小さく縮み、1日の疲労を物語っていた。今日一日の中で、食事は摂ったのだろうか・・・ふと気になる・・が…それも言い出せないまま、タクシーのドアが閉まる。車が走り出すとmapの玄関ドアが開き、チャンスとターキーが勢いよく出て来た。



 2人に「頼んだぞ」と言うと、チャンスはミニの運転席前で立ち止まり「はい」とこたえて乗りこんだ。ターキーは助手席に回り込みながら「時系列完成しています」早口にそう言って乗車する。チャンスはスムーズにコインパーキングから車を出し、富士子の追尾に入った。闇の中に小さくなっていく、赤いテールランプを見送る。




 夜空を見上げ、北風にすくわれてゆくおぼろ雲を見ていると、ドアを開けたファイターが「手当ての準備出来てる。もう中に入れ」闇夜には鋭すぎる声で言い、先に店内に入っていく。




 きびすを返して「ありがとう」行って歩き出し、ファイターの背に「お前、いつ寝てるんだ」と聞く。振り返ったファイタは「お前と同じで、俺も作戦行動中は仮眠で持つんだ」大男には似合わない笑みでそう答えた。




 [俺もだ]宗弥が割り込む。僕は[聞いていたのか?]と思わず聞いて立ち止まり、宗弥は[ああ。お前の自責の念まで見えた]と笑う。そして[要、チームのみんなも居るんだ。大丈夫だ]と言った。[そうだな]とつぶやきにも似た音量で返す。宗弥は富士子との会話を・・どこから聞いていた・・・。



 宗弥は[ああ。そうだ。今更、言わせるな]と言ったきり、もう何も言わない。



 続けて、[送る。チャンス。イエーガーとファイターは、今日こそ睡眠取って下さい]とチャンスから入り、[送る。ターキー。いや、寝るのは、時系列を確認してからにしてください]とターキーが言い、金庫室のトーキーは[送る。とにかく、傷口を縫いましょう]と言ってきた。



 僕の顔をガン見するファイターが[送る。無茶苦茶なバイク走行の件は、俺からイエーガーによく、言っとく]真顔でそう通信し、僕は苦笑しながらドアを閉めて、ふと思う。




  人はどこまで優しくなれるのだろう。かと。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ