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要編  20 バイクとドローン


  

  シーン20 バイクとドローン


 徒歩でmapに戻った要がドアを開けると、奥のテーブルを動かして作ったスペースに、黒と赤のバイクが停まっていた。目にした要はそのワイルドなデザインに、一目惚れする。



 赤バイクの前に胡座あぐらを組んで座る宗弥は、iPadのBluetooth を店内スピーカーに繋ぎ`stories `を流しながら、黒Tシャツにブルージーンズ、裸足で、前輪ディスクローターの調整をしていた。


 店内に入って来たのが要だとわかる宗弥は手を止めず「おかえり、HONDAのVFR800Xだ。優雅に走れるぞ。俺は赤、お前は黒、どうだ?気に入ったか?」と聞く。「ただいま、そこらへんの女よりいいボディーしてるな」要はそう言いって歩き出し、宗弥は「お前が軽口を叩くって事は、それだけ胸が弾んだって事だな」と1人納得する。



 その時、金庫室から全長30センチほどのドローンが、プゥーンとかすかなモーター音を立てて、飛んできたのを見上げた要は「トーキーか?」と宗弥に聞き、宗弥は「ああ」と返す。



 ドローンはライトの傘に肩翼が触れそうになると、それを感知して翼を縮めるが、機体のバランスは崩れず、安定飛行し続け、それを見た要は驚きに打たれて「このドローン、リモコンでコントロールしてるのか?」あんぐりとしたまま早口で聞く。ドローンをチラッと見た宗弥は作業に戻り「自立型」と言って、オイル染みのあるタオルを右手に取り「金庫室にターキーもいる。流石だな、2人とも。美しい連携れんけいプレーのハッキングだったぞ。トーキーがフランスの支援を受けて、AI 搭載のドローンを開発してる会社を、情報取るのに時々ハッキングしてただろう。さっき、最強のAIプログラムを2人で手に入れたって訳」とローターを拭きながら言った。



 トーキーがリモコンを操作しながら、店内に現れ「あっ、イエーガー、お帰りなさい」と言い、「ただいま、完成したんだな」と要が言ったところに、ターキーもブツブツと言いながら現れ、左手にのせたPC画面を見て「駆動音くどうおんを、もう少しおさえたいなと・・なると5Vだと・・上昇する時に速度が落ちるよな・・・やっぱりな・・8かな。う〜ん、パワーはそれで解決するけど・・重い分、電源を食うと・・飛行時間は今のまま6時間を維持したいから・・となると・・・配線をいじって、ボディーをけずりますかと」と言って視線を上げ、要を見つけて「あっ、イエーガー、お帰りなさい」と言いながら、要の隣で胡座あぐらを組んだ。



 要も胡座を組み、左隣にいるターキーの左肩を叩きながら「ただいま、御苦労さん、すごい性能だな。実用化できそうか?」と聞く。



 操作しながらドローンに付いて歩くトーキーが、嬉しそうな顔を要に向け「イエーガー、まだこれからです。AI搭載とうさいの自立型ドローンですから、AIに学習させないとなりません。それを元にしてこのドローンは、自分で思考しながら飛ぶんですよ。自分で目的地までのルート上の動く障害や、建物を感知して避けたり、潜ったりしながら、最も最短と思われるコースを、自分で選択して飛行します。それもAIが自分で設定するんですよ。画期的です」と言うと、苦い表情を浮かべ「あっ、もう、面倒ですね。AIを自分と呼んで説明するの。頭がゴチゴチしてしまう」と言った。



 意識を持ったAIを搭載したテクノロジードローンは、AIの価値判断で自己運用する。



 トーキーの顔を見たターキーは話を引き継ぎ「飛行しながら撮影した映像と、あらかじめ入力した地図データを、AIがすり合わせして、自分の位置を割り出すんです。しかも、運行にネット環境はいらない。画期的です」と補足した。



 驚きのままに一気にドローンを見上げた要が「ネット環境がいらないのか。それは凄い。偵察を命掛けでしなくて済むな」と言うと、タイヤをゆっくりと回しながら、親指で表面を押していた宗弥が「そいつが進化したら、俺たち失業しちゃうかも、てか」と茶化す。



 トーキーはマジマジと宗弥を見て「このドローンが編隊を組んで、空から人間の安全を理由に全体監視の体制に入ったら、今よりも効率的に特定の個人を追跡して、攻撃するのも可能になります。近い将来にそうなるんです。国の代表者が征服せいふく者気質だったら、どうなると思います?このドローンはその意をんで、キラードローンになります。しかも、このドローンの全長は30センチです。大抵たいていの所は飛行できます。そして、いつも通り、人間の都合で小型化が進みます」とにがにが々しく言った。



  それを聞いた要も、確かにと思う。



 人を豊かにするテクノロジーは、そのほとんどが軍事転用しても優秀だ。いや、今や反対だ。軍事用に開発されたものが、人の生活を便利にしている。特戦群は最先端テクノロジーの恩恵を十二分に受けている。


 そもそも、今回の作戦の根拠こんきょがそれだ。技術知識を守り、奪取を狙う他国を阻止そしすること。



 トーキーは自分の作り上げたドローンを、目で追いながら「取り扱う者の倫理観と、道徳心が問われるものが、また一つ増えましたね」寂しげにトボリと言う。



 そういえばトーキーは敬虔けいけんなクリスチャンだったなと、要はその顔を見た。トーキーは自分の担当分野で、最先端の技術に触れる。そして、その超一流のエキスパートでもある。内部資料を目にする機会も多い。そのほとんどの資料には、本音と建前たてまえが記してある。



 軍事産業は、開発した国の技術特権となる。



 そして、その特権は開発した国の軍事力となり、軍需品ぐんじゅひんとなって輸出され、外交力ともなり、莫大な富を技術を保有する国にもたらし、福祉の財源になったりもする。先進国で武器輸出していないのは、日本国くらいだ。



 買い言葉で、「1番でなければいけないんですか?」などと、表面だけを飾りつけた正義パフォーマンスをしてる場合ではない。稚拙ちせつさと愚かさと不勉強を、披露したキャッチコピーで、メディアを刺激して次の選挙のために顔を売る。輸出する資源を持たない国は技術力を高め、国家がそれを資金面等々を含めて、後押ししながら保護してゆき、国内にその地盤を作っていかなければならない。



 「1番で」などと口にするセンス、アンテナがズレきっている。どこの意をんでいる。



 全員がトーキーの言わんとする事を、理解していた。悲しげな顔をしているトーキーを見てるのが嫌で、払拭ふっしょくしてやりたくて要はあえて、トーキーに聞く。「トーキー、食事はったのか?」と呑気のんきに、宗弥風に。口元に笑みを浮かべたトーキーは「まだです。ファイターが朝ストレッチしながら、カレーとシーザーサラダに、ハンバークを作って出かけてくれました」期待感満載きたいかんまんさいの声で言った。



 ファイターの料理はプロ並みで、時間ができると何かしらの料理を作る。



 作戦や訓練でチームの神経がささくれだったり、精神的に追い詰められてくると、手の込んだ料理をチームに振る舞う。チーム長の要は何度となく、ファイターのこの気遣いに助けられていた。



  特にファイターカレーは、全員の大好物なのだ。



 立ち上がった要が「食事にしないか?」と言うと、宗弥は「いいね」と応え、「了解」とトーキーは明るい声でいい、ターキーは「噂のカレーですね、了解」と言って、近くのテーブルにパソコンをおいてカウンターへと向かう。



 トーキーもドローンを自動飛行モードに切り替えて、カウンター内に入る。自動モードのドローンから、要は自由を感じた。生きてるようだと。



 要の隣で宗弥が「いよいよ明日は、富士子とごタイメーンだな」とリズミカルに言うが、顔付きを見ただけで、緊張しているとわかる要は「だな」とだけこたえた。



 要に顔をよせた宗弥は「俺、ここ2、3日、眠りが浅いよ」と声をひそめて言い、自分の左の手のひらに付いた黒いオイルを、右手の親指でギュウギュウと押しながら、手のひら全体に広げてゆき、様々な感情が入っているであろう黒色が薄くなってゆくのを見た要は、自分も3日前から、眠りに落ちるのが難しいのを思い出す。



 深夜、右隣の寝台を使っている宗弥が、緩慢かんまんに寝返りを打ち、いつもの様に所構ところかまわず爆睡とはいかないかと、その気持ちをさっしていたが、なぜに自分までもが不眠をかかえ込んだのかがわからない。



 心身に変調はない。だから別にいいかとも思ってはいる。が、理由のなさが時に気分を重くする。その気のおりが心底におりかさなっていた。



 無口になった要の表情を読んだ宗弥は「要、食事のあと明日の下見をねて、寺までバイクの試運転に行かないか?」と軽快な口調で誘う。「そうだな、中央高速の直線はたまらないだろうな、行こう」宗弥の顔を見た要はうなずき、宗弥も「いい感じで加速できると思う」満足気な表情で要にうなずき返した。






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