要編 16 覚悟
シーン16 覚悟
特殊戦群・部隊長コロンブスは急務性があると判断してベータチームから、アルファーチームに作戦を移行すると決定を下しなのはアルファーチームに所属する・素水宗弥の父・樽太郎が盾石国男の第1秘書を務めており、宗弥は盾石富士子と幼少期からの幼馴染で、富士子の父・国男、家政婦の浮子とも親しく、盾石家の事情にも精通しているからだった。
宗弥は当然のことながら、この任務に苦悩する。父を、幼き日から尊敬している人を、愛する人を、真っ直ぐな誠実さで、関係を築いて来た人たちをスパイするなんて、宗弥じゃなくても困惑しただろう。
宗弥の心労はいかばかりか・・。しかし、任務には忠実でありたい。その心情は手に持つロウソクが灯す、かすかな光を頼りに薄明かりの中、切り立った尾根を歩くような心持ちだった。踏み出した足の着地点が数㎝ズレれば、拠り所として来た人たちとの関係が、崩壊しかねないと考えれば、恐ろしかった。
要はそんな宗弥の苦悩に、気付いていたが黙っていた。特殊戦群の隊員は高度な感情調整を受けている。強固な自制心をも身につけてもいる。自分の戸惑いや苦悩を感知されていたと知ったら、宗弥のプライドは大きく傷つく。だから、要は何も言わない。
加えて、要は宗弥を大学時代から知っている。実に人間臭いユニークな言動を取りながらも、宗弥は人を尊重し、誠実で献身的だ。医師を目指して国防大の医学部に入学し、邁進して、事実、優秀な医師になった。人格者で、強い意思を持つ男。それが宗弥だ。自己で乗り越える。要はそう信じて疑わない。
問題は己だと、要は思っていた。
今回アルファーは宗弥のプライベートに足を踏み入れる。事によっては土足でだ。そこまで必要と思えば、これまで躊躇なくそうしてきたが、、、今回は、、、宗弥の家族といってもいい。緻密な判断と行動を自分に要求したいが、いかんせん僕は愛を知らない。デリケイトさはあるかと聞かれれば速攻で、そんなものは持ち合わせていないと断言できる。そんな自分が指揮を執ると思えば不安が募る。
それに一旦作戦に入れば、心のスイッチは自然とONになり、私情など一切、感じず、任務遂行のみに全てを傾けてしまう自分がいる。気をつけなければ、最も重要な監視対象者は宗弥が一途に気持ちを寄せ、崇めるように愛している盾石富士子だ。
その富士子がユートピア国と内通している可能性も考えておかなければならない。自分の目で富士子を見ていない今、その疑念は払拭できていない。もし富士子が内通していれば、宗弥を外したアルファーで事を沈めてしまわなければならず、今の段階でそこまで考慮済みと宗弥にバレれば、宗弥との軋轢を生み、チーム内と作戦進行はギクシャクとしたものになるだろう。
親友の近親者と任務を帯びた接触。
準備期間のない急ぎ仕事。
身を表に晒しての任務。
掴めていない敵の動向。
国内での作戦進行の難しさ。
特戦部隊の内密性の維持。
この作戦には不確定要素が多く、いつもと匂いまでもが違う。
あげればキリのない理由が、要を不安にする。