要編 1 観閲式
一つの物事は見る人の視線と立場が変われば、多様にその真意は変化すると、常日頃からそう感じています。
要の世界へようこそ。
シーン1 観閲式
第66回、国防大学観閲式で総員による行進が始まろうとしていた。
戦闘用ヘルメットに戦闘服を着用した総勢387人は、整然とした6列縦隊で足踏みをしている。音楽隊のスネアドラム奏者が“抜刀隊“の冒頭ソロを打ち鳴らし始めた。総員の鉄背が引き締まる。
角度をつけた抜刀を右手に握る大隊指揮者は、腹の底からの穢れなき声で「前ぇぇ!!」と号令を飛ばし、総員は一糸乱れぬ歩みを始め、規律と統率の歩調は、スネアドラムが打ち鳴らすリズムを刻んで前進し始めた。
戦闘靴は大地を踏みしめ、意思ある眼差しを前方に据え、肩は微動だにしない。肩から一直線に伸びる白手袋は力強く前に振り出され、その角度とタイミングは大隊全員が同調している。白手群は観閲式を見守る観客に、律して生きる者の気高さを波動させてゆく。
大隊が一段高き最高指揮官の眼下に入ると、第1大隊指揮者は顔前に抜刃を掲げて二拍おくや、顎を引き締めた顔を最高指揮官へと向け、疾風の如く、右手の抜刀を右下に振り下ろす。
アナウンスが入る。「第1大隊指揮を司るのは、国防大学最終学年、広島県出身、尾長 要」
かつて、ゲーテは書いた。【軍隊の音楽はまるで、拳を開くかのようにわたしの背筋を伸ばす】と。
全くその通りだと、要は思う。




