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九州大学文藝部・2021年度・新入生号

かいだん、かいだん

作者: 水彩度

※本作品はインターネットミーム「ロア」の形式に基づいています。


※すべてのロアは、実際の人物・団体・出来事とはおそらく関係がありません。


※もし同様にロアを作らなければならなくなった場合には、その数を九つまでに留めるよう十分にご注意ください。

信じようと、信じまいと―




ある日、女性は幼いころよく読んでいた本が急に懐かしくなり、ネットで検索をかけた。すると、記憶にあったものと表紙の動物のキャラクターのポーズが違ったので、友人に聞いてみることにした。「表紙の動物って後ろ向いてたっけ?」「え、ちょっと怖かったけど頭を九十度に曲げてなかった?」その本は誰に聞いても、思い出す表紙の絵が違うのだそうだ。




信じようと、信じまいと―




料理をする人が共通して経験する奇妙な現象がある。料理を作っていると、五本入れていたはずのウインナーが食べるときには四本になっていたり、八片にして入れたはずの野菜が七片に減っていたりすることがある。しかし、減った分を毎回正確に把握していると、料理の度に減る量が増えるため、決してそのことを気にかけてはいけないのだという。




信じようと、信じまいと―




アメリカの小さな飲み屋で、翌日出勤すると飾っている絵がすべて逆さまになっているという現象が続いた。店長が困っていると、勇気あるアルバイトの青年が一晩の見張りを申し出た。次の日、青年は死体で発見された。店長はそのことを誰にも語りたがらなかったが、噂によると死んでいた人物は、DNAは青年のものだったが、顔は全くの別人だったという。




信じようと、信じまいと―




岐阜県某所に伝わる書物には、昔そこでよく獲れていたという魚のことがくわしく書かれている。名を「しなし」といい、その地域が凶作に見舞われた際には重宝したのだという。ある寺には「しなし」の標本が保存されているというが、それが日の目を見ることはない。魚の頭に胎児の骨格がくっついたようなそれに、みな気味悪がって近づかないのだそうだ。




信じようと、信じまいと―




霊が見えるという人々が共通して言うことがある。「何か視線を感じるなと思って確認しても後ろに誰もいない。そんなときは上にいるんですよ」しかし人間というものは、そう言われるとつい上を向いてしまうものである。この言葉はそんな人間の性質をうまく使った「足元にいる何か」に気づかせないための、彼らなりの優しさなのだ




信じようと、信じまいと―




昨今人気のユーチューブだが、数ある動画の中で一つだけ必ず削除される動画というものが存在している。それは都内某所の一般的な港を映したものであり、数年前から多くの投稿者が編集を変えて数百と投稿しているが、数日後には必ず削除されてしまう。しかしその動画の削除申請者が、当初からずっと一人の同じ人物であることはあまり知られていない。




信じようと、信じまいと―




少々掟破りの長い文章になるが、最後に私がこのロアを書くに至った話をしようと思う。


私は久しぶりにネット上で過去のロアを読んでいたが、何度も読んだはずのそれらの中に、見たこともない話が紛れていることに気が付いた。おなじみの「信じようと、信じまいと―」から始まる四行にも満たない話だが、まとまめると以下のようなものだった。


人は人生の中で何万、何億と文字を書くが、書写のような決められた通りにそのまま書いたものではなく、自分で創造して書いた文章には必ず「使われない」文字があるのだという。


例えば「あす」ではなく「あした」という表現を使うことで「す」を避けるように、無意識に避けている文字がそれぞれ存在するのだという。


そしてある程度のまとまった文章を書いたあとに「ない文字」を抜き出すと、それは特定の言葉になるのだそうだ。しかもそれは、その人にとって最も「見たくない」言葉だという。


当然、私も気になって筆をとることにした。同じようにロアを書いて、「ない文字」を探してみようと思っている。正直なところ、好奇心が半分と、恐れが半分だ。まだ検証はしていないが「あの言葉」にならないことだけを祈っている。




ところであなたは「見たくない言葉」と聞いて、いったい何を思い浮かべただろうか?


本当に怖いのは「それ」を見つけてしまうことではなく、想像してしまうこと、あるいは―

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読者を巻き込む仕掛けがザ・怪談ってかんじでいいですね。 [気になる点] 「巻き込む仕掛け」が実際にこの本文自体に仕込まれているのか、あるいは本当に読者の想像に任されているのか気になって仕…
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