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第7話 星刻印の精錬


 明日は遂に星刻印の精錬の日。つまりわたしはいま、着せ替え人形となっている。



「これなんてどうかしら?」

「フェノン様はこちらも似合いますよ!」

「そうね。フェノン、次はこれに着替えましょう」



 もう勘弁してください……もう三時間近くこんなことやってるんですから、兄貴! これ以上やったら本当に死んじまいますよ!



「はい、フェノン。袖通して」

「んいっ」



 もちろんわたしに拒否権などなく、永遠に着替えさせられている。



「はい、完成。どう?」



 わたしが着ていたのは前世で実際に着たことはないが、一度着てみたいと思っていた(はかま)だった。

 なんであるの? ここ、一応ファンタジーなのに……



「フェノン様、死んだ魚の目をしてますが、心無しか喜んで見えますね」

「そうね。これにしましょうか。フェノン、お疲れさま。おやつにしましょうか」

「うん……」



 おやつはケーキやスコーンなどのいつものセットに加えて、今日はシュークリームがあった。

 わたしはおやつをナタリーのあーんで食べて、ゆったりとする。



「美味しかった? 街で見つけた新作なんだけど……」

「おいしかったです! また食べたいです!」



 元々シュークリームはそんなに好きじゃなかったが、ここまで美味しいとは……これは嵌まるな。



「そう、よかった。また今度買ってきてあげるからね?」

「うん!」



 そして一晩が経ち、わたしはナタリーとお母様と街の教会に向かった。街までは馬車で移動している。



「フェノン、もうすぐ着くよ」

「ふぁい」

「楽しみで眠れなかったの?」

「うん……」



 ファンタジー世界の街に行くのが楽しみ過ぎて眠れなかったんだよ。

 街に着くと馬車から眺めてるだけでさすがファンタジーという感じですぐに眠気が覚めた。



「フェノン様、きちんと座ってないと危ないですよ」

「ぁい」



 馬車から降りると大きな教会があり、すでに星刻印の精錬を行うための準備が出来ていた。

 もっと明るいパレードのようなものかと思ってたけど、毎月22日に行われているらしく、そんなに毎月盛大に祝ってるほどの余裕はないらしい。

 星刻印の精錬はその月に4歳を迎える子供たちが受ける儀式であり、わたしのように3歳の子供も混ざっていることもある。


 ちなみに星刻印の精錬というのは主神 グリッドサーモン様から星刻印をいただくことで自身の魔力適性が分かるとともに、大幅に魔力増加をすることが出来るらしい。



「フェノン様、こちらですよ」

「んいっ」



 わたしはナタリーと手を繋いで教会に入った。お母様は馬車で待ってるらしい。


 教会に入ると中には5人ぐらいの保護者付きの子供たちがいた。もちろん教会で行う儀式に(はかま)を着てくる異常者はウチだけである。

 他の子供たちは普通の洋服でオシャレをしていて、それっぽくなっている。



「では儀式を受ける人たちはこちらへ来てください」

「フェノン様、いってらっしゃいませ」



 シスターさんから呼び掛けが入るとナタリーに見送られた。



「そちらの男の子から順に1人ずつ奥の部屋に来てください。ではどうぞ」



 男の子はシスターさんに案内されて奥の部屋に入って行った。この順番で行くと間違えなく最後である。

 それから時間が経ち、男の子が出てくると次は別の男の子が入り、それを4回繰り返してようやくわたしの番になった。



「こちらの水晶に触れてください」



 わたしはシスターさんに言われた通り、水晶に触れる。すると水晶は()()()()()()



「「……え?」」



 わたしとシスターさんの二人の抜けた声が重なった。その後、シスターさんはわたしに仏像にお祈りするように言われ、仏像の前で片膝をついてお祈りする。



「あれ? ここは……?」



 気がつくと白い空間にいた。

 さっきまで教会に居た筈なのに……



『君で最後かの?』

「ふぁいっ!?」



 後ろから声を掛けられ、神様的な人が来たのかと普通に返事をしようと後ろを向くと、そこにはおじいさんが魚を焼いていた。



「なにしてるんですか」

「見ればわかるじゃろ。ワシの大好物の鮭を焼いとるんじゃ。さっさと星刻印渡して昼飯にしたいんじゃから早くこっちに来んか」



 オモッテタノトチガーウ。見た目はわたしの思ってたのと同じなのに中身が酷すぎる。なんで儀式中に魚焼いてるの? 星刻印の精錬より魚?

 わたしは魚を焼いてるおじいさんの近くに行く。



『ほれ、左手を出しな……ん? ちみ、属性は?』

「光らなかったです」

『光らなかった? そんなはずは……あったの』



 あったんかい!! 絶対お前のミスだろ!!



『仕方ないじゃろ!! 宝石変換なんて妙なものあったら誰だって勘違いするじゃろが!!』

「逆ギレ!?」

『属性無かったら星刻印渡せないじゃろが!! もうええわ!! この辺にあった適当なヤツで!!』



 おじいさんは手元にあった適当な印鑑を持って、わたしの左手に押した。



「おいジジイ!!!」

『口が悪いぞ? フェ・ノ・ン・ちゃ・ん?』



 うざっ……もう二度と会いたくない。この魚だけ貰って帰ろ。



「ごちそうさま。お・じ・い・さ・ん?」

『それワシの昼飯!! 返せ!』

「やだ。いっただきまーす!!」

『やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』



 鮭を食べる直前で意識が遠のき、目を開けると教会に戻っていた。そして左手を見るとさっきの印鑑が押されていた。


 あのクソジジイ! 次会ったらお母様にボコボコにしてもらうから!! ……ん?


 先ほどまでお祈りしていた仏像の前に鮭が置いてあった。



「あっ、この鮭って……」



 なーるほど? これはつまりアレだよね?



「終わりましたけど、二度と鮭を出すなって言われましたよ?」

「そうですか……いますぐ、代えましょう。確かじゃがいもがあったはずです」



 シスターさんが取りかえたことで、お供え物が鮭からじゃがいもへと代わった。

 そして、わたしはナタリーの元に走って行った。








『ワシの鮭が消えたァーーーー!!! あのTS小娘風情が!! ……なんじゃこれ? じゃがいも……?』

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