第67話 地獄絵図
エリーを含めた王家の全員の首が飛ぶので苦手な方はご注意ください。
今ここに新たな伝説が誕生しようとしていた。
わたしはその少女の姿を見てアレはわたしとは違うものだと本能的に理解してしまった━━━━
「かかれ!!」
王都軍の兵士たちが1人の少女に襲いかかる。
そして、少女が自分の髪留めに触れると、少女の髪が光輝く銀色に変わり、身体に鎧を纏い、黄金に輝く聖剣を手に持った。
「『モミジ』!」
少女がそう言うと聖剣は何処からか現れた炎を纏い兵士たちを切り裂き、周囲を燃やした。
「『ティナ』!」
今度は聖剣が水を纏い、兵士を切り倒しながら周囲の炎を消した。
「今だ! 放てえぇぇ!!!」
しかし王都軍も反撃に出るため、大量の矢を少女に射ち放った。
「『アテナ』!」
少女の手に持った聖剣が大きな盾に変化し、雨のように降り注いだ全ての矢を容易く撃ち払った。
先ほどから少女が言ってるのは誰かの名前なのだろう。けれど、何故それを言うのだろうか?
そう考えてるとお母様が説明してくれた。
「ティアちゃんはありとあらゆる時間、世界に生きる人々の力を受け継ぐ力を持ってるのよ。
けれど、受け継ぐにはその人の力が込められたモノが必要なの。
そして、そのモノを集束させたのがあの聖剣よ」
お母様は詳しく説明をしてくれた。
どうしてここまで詳しく知ってるのだろうか?
そんなことを考えてるとお母様が「お母さん凄いでしょ!」と言わんばかりの顔をしていた。
もしかしてあの聖剣、お母様が作ったわけじゃありませんよね……?
「お母さんが作ったのよ!」
「自分で言わないでください」
「エマ、お前なぁ……」
さすがのお父様も呆れている様子だった。
そして少し目を逸らしてた隙に少女は1番偉い人である将軍さん以外の全ての王都軍を撃破してた。
「あっという間に1人だね」
「ふっ、貴様の力などもう完璧に見切った」
「そう? じゃあ避けられるといいね?」
そう言うと少女の姿が消えた。そして気づいた時には将軍の後ろに居て、少女はその剣を振るった。
「なにっ!?」
それを間一髪で避けた将軍に対して、少し楽しそうに笑った少女。
「今の避けた人なんてエマちゃん以来だよ。もっと楽しませてくれるよね!?」
「まだ力を残してたというのか。仕方ない私も全力で戦おう。『アクセルブースト』!」
すると今度は二人の姿がその場から消えた。
そして何度も剣と剣がぶつかり合う音が空間に響く。
その内に将軍がその場に落ちてきた。
「ここまでやれる人なんて久しぶりに見たよ。でもこれで終わり。『イリス』」
少女がその名前を呟くと聖剣が虹色に光出した。
「楽しかったよ。おじさん。言いたいことはある?」
「お前に惚れたぞ……結婚してくれ」
このタイミングでプロポーズ!? 頭大丈夫!?
「ごめんね。早く帰らないと旦那に叱られちゃうんだ」
「そうか……悪かったな」
人生最後の告白を断られてるよ! しかもこの女の子結婚してたの!? そっちの方に驚きが隠せないんだけど!?
「うん、楽しかったよ。みんな向こうで待ってるから、大丈夫だよ」
「ああ、頼む」
少女が虹色に光る剣を振り下ろした。
なんか将軍さん凄くいい人だったんだけど。なんというか……自分に素直。
そして、その場に残ったのはお偽父様と先ほどから話に全く入れてないエリー。
「ゴールランド家、君たちを生かしたのは間違いだった。エマちゃんを呼び出した日に始末するべきだったよ━━━━━━」
少女は少し後悔したような顔で言った。
この女の子にとってお母様がどれほど大事な人なのだろうか?
「でも、もう関係ないよね? 私の娘同然のフェノンにさえ手を出したんだから。知ってる? 親バカって極めると自分の子供が少し傷ついただけでその相手を殺しちゃうんだよ?」
何か怖いことを言い始めたヤバい神様。
それは親バカじゃないと思う。ただのヤバいヤツ。
「ひいっ!」
「……違うかな?」
少女はお偽父様に剣を向けていたが、少しすると剣を背けた。
「少し甘いね。自分の罪をきちんと認識すべきだよね」
少女は指を鳴らした。するとその場には居なかったはずの王家一族たちが手足を縛られ、口に詰め物をされた状態で座らされていた。
……この神様、幼女って言われただけなのにだいぶエグいことするよね。ちょっと目を瞑ってよ。
「じゃあ1番目! 長男! いっきまーす!」
「待っ━━━━」
そんなノリで首を切り落とそうとしないで欲しい。さすがに長男が可哀想。
そこからテンポよく、テンションよく、笑顔よく、王家の首を刈り取っていく少女。お偽父様はただ「ああっ……」とか言いながら涙を流してるだけだった。
ちなみにエリーの首は地面に転がっている。こんなのが友人枠だったとか本当に嫌なんだけど。
「ラスト! お姫様! いっきまーす!!」
「やめろおぉぉぉぉおおおおおおお!!!」
号泣で少女にしがみつこうとするが、少女に軽くあしらわれて終わった。
そして、最後の時。もう見苦しいだけだったので、少女はあっさりと剣を振り下ろした。
剣を振り下ろすと少女は武装を解除してわたしに近づいてきた。
するとそのままわたしのお腹に手を突っ込んできた。
「……え?」
不思議と痛くはないのだけど、何か不思議な感覚があった。
「ふむふむ……領主の息子ね」
「うひゃあっ!?」
いきなり女の子の大事な場所を強く握られたような感覚が全身に走る。
そして少女から流れ出た何かが全身を駆け巡り、不思議な感じになった。
「フェノン、私は恋する女の子の味方だから絶対に幸せになれる祝福を与えたからね。私はフェノンのためならいくらでも協力するよ。何かあったらまた呼んでね?」
少女が指を鳴らすとわたしたちはアルカデア王国の王城に戻っていた。
「ありがとうございました……」
わたしはもう姿が消えてしまった少女に心からお礼を言った。




