第62話 二人目と三人目
悲鳴の聞こえた場所には人だかりが出来ていてた。
わたしはクルミさんにお願いして強引に中に入れてもらった。
「アスト、どうしたの!?」
アストは擦り傷などの軽い怪我をしていた。
部屋の様子を見る限り、ここで誰かが暴れたみたい。
「ああ、いきなり黒いローブを被った人が現れてな。彼女たちを殺そうとしたんだ。一応魔王様の加護があったお陰で全員守れたが、また来ると思うぞ」
アストに守ってもらうお父様の妻たちがちょっと羨ましく感じた。
わたしは車イスから立ち上がってアストの腕にしがみついて少し頬っぺを膨らませた。リアは羨ましそうにわたしを見てた。
「大丈夫よ。私たちの中には魔王様以外を好きになる人なんて居ないからね」
わたしの頭を撫でながらお父様の妻の1人が言ってきた。
しかし、わたしが安心仕切ったその瞬間にリアが大胆な行動に出たのだ。
「「「「っ!?」」」」
なんとあろうことかリアがアストの左腕にゆっくりと近寄ったと思ったらいきなりしがみついて、そのまっ平らな胸をアストに押し付けたのだ。
突然過ぎてアストも反応が出来なかった。クルミさんは「上手く行ったな」みたいな顔をしてたからグル確定。
わたしの頭を撫でてた人はどうしたらいいのかわからない顔をしてた。
「えっと……頑張ってね……?」
「うん……」
そのまま立ち去って行った。するとアストの表情に変化が見られた。
なんと顔を赤く染めたのだ。わたしの時はそんなことせずにただアストのアストを覚醒させてるだけなのにリアの時だけは顔を赤く染めたのだ。
「アスト……?」
わたしはアストを睨む。ここでアストがリアの方が好きとか言われたらわたしの精神が保てない。もう二度と屋敷の部屋から外に出ることは無くなるだろう。
「すまん。フェノン、お前に興奮してただけだ。それで周りから見たらこの状況って恥ずかしいものなんじゃないかって思えて……」
アストの表情は嘘丸出しみたいな感じだったけど、そう言って貰えてどこか安心した。
「……二人目ってダメか?」
アストはリアにも興味があるようだ。確かに男勝りで可愛い服を着た時のリアの表情は同性のわたしでも何か感じるものがある。
わからなくはない。けど━━━━━━
「わたしを捨てないで……」
「あっ、いや! 捨てない! 俺様はフェノンが1番だ! あくまでフェノンが1番だ。結婚する時も初めての子供もフェノンがいい!! だからその上で二人目を愛しちゃダメか……?」
そんな可哀想な捨て猫を拾ったみたいな顔をしないで欲しい。断れないじゃん……
「約束だよ……?」
「ああ、約束だ……フェノンの次になるけど、俺様と結婚してください!!」
アストは言った。
お父様の妻についてたメイドさんに。
「「「は?」」」
この空間に居た全ての人が呆けた声を出した。
そしてその原因となった本人はお父様の妻のメイドさんに手を差し伸べている。
確かに凄い可愛くて、他の嫁さんたちに好まれるほど良い性格でしてたけど、それは何か違う気がした。
「よ、よろしくお願いします……」
上手く行っちゃったよ!? このタイミング、この流れでまさかのOK出ちゃったよッ!?
「せ、セツナ、よかったわね……」
「はい!」
というわけでアストの二人目の婚約者が出来ました。
メイドさんの名前はセツナ。セツナは若干顔を赤くしつつも笑顔で答えた。
実はこのセツナというメイドさん、アストの初恋の人だったらしい。アストが5歳ぐらいの時にルーズベルト領の屋敷で働いていたが、お父様の嫁の1人が彼女を気に入って連れて来てしまったらしい。
その時にアストは今度彼女に会ったら告白すると心に決めたとのこと。
まあそんな裏話は置いといて、告白されたのが自分ではなかったと知ったリアはドンヨリしたオーラを放っていた。
「あ、あの、もしよかったら彼女も誘って上げてください……」
セツナさんのご慈悲によりアストの視線がリアに向かう。
何かこの流れは良くない気がする。近いうちに嫁の数がお父様を超越するような気がする。
けれど、この流れでリアだけというのは可哀想な気がして、わたしはアストの裾を引っ張って頷いた。
「フェノン、いいのか?」
「いいよ。けどわたしのこと忘れないで」
「ああ、わかった。リアちゃん……いや、リア。俺様と結婚してくれ!」
「よ、よろこんで……」
はい、たったの1日で嫁三人。さすがのラノベ主人公もこれには驚きだよ。
その場を目撃した男性はアストを羨ましそうに見て、女性は「お前ロリコンだろ」という感じだった。
アストが侍らせてるのは二人の少女と合法ロリなのだ。しかもこちらには将来的に成長が望めないわたしがいる。
もしアストに称号を与えるとしたら『ロリを愛する者』になるだろう。
「フェリナスちゃん! 何があったの!?」
今さらこの部屋に来たのか状況を全く把握してなかったエリー。彼女は今までどこで何をしていたのか。
けどエリーが来たお陰でわたしたちは本来の目的を思い出した。
「そういえば襲われたんだっけ?」
「ああ、すっかり忘れてたな」
とにかく状況確認をするため、わたしたちは部屋を探ったりその時に誰がどこに居たのか等聞き当たりに行った。