第51話 宝石少女の涙
石原くんはわたしを抱っこして王城を出ると冒険者ギルドに入ってわたしを椅子に座らせた。
「あの、先ほどはありがとうございました」
「いや、たまたま忘れ物して王城に戻ってきてよかった。というか喋れたのか……」
「あっ、それは……」
わたしは昨夜のことから王城であったことまで全てを話した。
途中で「くまさん」と言いかけて顔を赤くした。
「なるほど、カルロス王子が……それはわかったが、確かフェノンちゃんだっけ? ルーズベルト領に俺と同じ勇者がいるの知らないか?」
「知ってますよ」
「本当か!?」
石原くんは大きな声で顔を近づけて聞いてきた。おそらく王家からは行方不明になってると聞かされているのだろう。
「アイツらはいまどこに!?」
「その前にわたしも聞きたいことがあります。街にいる勇者様たちは聞いてた人数の半分でした。それで、他の仲間はどこに行ってるんですか?」
情報だけ言うと先走って逃げられてしまう可能性があるので、先に聞く。
「他のヤツらは今日と明日は外に遊び歩くように言われてな。みんな王都中をウロウロしてるさ」
それなら話が早いかな? さっきの件もあるからもうこのまま王都出た方がいいだろうし。
「ここだとアレなのであっちで話しましょうか」
わたしは石原くんを連れてお母様の部屋に入り、そこで屋敷にクラスメイトたちを泊まらせていることを含め、わたしやお母様のことまで全て話した。
「つまり王家が嘘をついてるってことか……」
「信じるんですか? こんな誰だかわからないような人の言葉を?」
「さすがにこの状況で嘘ついてるようには考えられないし、さっきのアレを見ればどちらが正しいのかなんてすぐにわかるしな」
なんとも心強いことに石原くんはすぐに信じてくれた。
わたしはお母様を叩き起こして馬車を用意するように言って、石原くんと他のクラスメイトたちが泊まっているという宿に向かった。
「というわけなんだ。そういうわけだからみんなで王都を出よう」
「まあ、石塚くんたちと再開できるならいいけど……」
不安げな顔をしながらわたしに近寄ってくる。何かと思ってわたしが首を傾げてると頭に手を置かれ、撫でられた。
「フェノンちゃんが苦しんでる時に私たちは外でパフェなんて食べてるなんて……本当に何もしてあげられなくてごめんね……」
何故か同情された……けど、撫でられるほど先ほどのことを思い出してしまい涙が溢れてくる。
「うっ、ううっ……」
「ごめんね。辛かったよね……いいんだよ。まだ小さいんだからお姉さんたちにたくさん甘えても……」
「ううっ……うああああああああああ!!!」
女子生徒に抱きしめられて頭を優しく撫でられる。するとわたしは堪えきれずに大声で泣いた。
他のクラスメイトたちは「なんで俺は力があるのにこんな女の子1人救えないんだ……!」みたいな顔をして泣いてるわたしを見る。
その後石原くんの案内のもと、クラスメイトたちはお母様の宿に向かう。
わたしは女子生徒に抱っこされて、泣きぐしゃった顔を他の人に見られないよう、胸に埋めているので案内はできない。
「フェノン!? 大丈夫!?」
「うん……」
女子生徒はわたしをお母様に預けた。そして全員でお母様が用意した馬車に乗り込み、馬車を走らせる。
1番問題があるのは王都に出入りする際にある検問だが、これは透明化と魔力の壁をお母様が上手く扱って城壁の上を通って検問をくぐり抜けた。
お母様との会話が始まったのはそこからだった。
「……なるほどねー。『エルフ殺しのお香』を使ってまでフェノンと無理やりなんて王家も随分焦ってるのね」
「焦ってる?」
やはり石原くんたちは事情を知らないようだ。
おそらくこのあと王家の人たちは『勇者』を使ってわたしを誘拐するつもりなのだろうが、まさかわたしが勇者たち全員を奪い去って行くとは思わなかっただろう。
これでこの国の戦力は大きく削がれたことだし、この国はもうすぐ安泰するだろう。
だからそれまでにわたしは━━━━━━━━
「王家は借金まみれなのよ」
「借金?」
「そう、そしてその借金は普通じゃ到底返すことの出来ないレベルの借金……」
「そんなの聞いたことも……!」
「あるわけないでしょ? まさかカジノごときに国の予算を注ぎ込んだなんて言えないものね」
その瞬間にみんな理解したようで、わたしの方を見る。借金を抱えているにも関わらず、王家がわたしを狙うということはわたしにはそれほどの価値があるということに━━━━━━
「これは私たち家族以外には王家の本当に上層部の人、というか皇帝陛下しか知らないことなんだけどね。フェノンにはそれほどの価値があるのよ。
それこそ借金を全て返済して経済に余裕を持つことができるほどにまでね」
結構盛って話してるけど、実際のところルーズベルト領にいる勇者様方は全員知ってるし、何ならリアやツバキさんも知ってるし……結構バレてない?
「皇帝陛下しか知らない秘密って……」
「それ以上はダメよ? 女の子の秘密を握るのは犯罪なんだから」
お母様がそんなことを言うと他の女子生徒たちも同時に頷いた。彼女たちにも何かヤバい秘密でもあるのだろうか……? とりあえず勇者は全員ゲットしたけど、この先大丈夫かな……?




