第5話 お母様とナタリーの過去
わたしはナタリーに連れられてお母様の部屋に居た。
「フェノン、お父さんについてだけどね。ごめんね。ツラい思いさせちゃったよね?」
「うん……」
お母様はお父様について話してくれた。
お母様は凄い冒険者でSSランクっていう世界で1人しか居ないランクなんだと。そしてクソジジイは王国の王子様らしい。
お父様は本当にクソ野郎でいろんな女を侍らせて、優秀な子供だけを選んで、外交手段に使う計画があるらしい。お母様は王命で呼び出されて、断ることも出来ずに無理やり結婚させられてしまい、わたしを産んだらしい。
おまけにSSランクのお母様は国の脅威になりかねないからとこんな田舎にまで放り出されたらしい。
「おかあさま……」
「フェノン?」
「国ってどうやったら消せるんですか?」
そんなクソなやつが王子とか言ってるならその父親だって一緒だよな? 滅ぼしていいよね?
「そんな怖いこと言わなくもお母さんに任せてくれれば大丈夫よ。あの人たちは近いうちに私の用意した舞台で勝手に内側から滅んでくれるからね」
少しずつお母様の声が低く、冷徹なものに変わっていった。
わたしよりも遥かにお母様の方が怖いことを言ってるような気がするのですが……
「それよりフェノン、もうすぐ星刻印の精錬で外に行くけど、絶対に魔力を外に出さないでね」
「どうしてですか?」
「フェノンの魔力は他の子たちと比べてもかなり多い。いまはまだ精錬をしてないから一般人の半分ぐらいだけど、精錬後はたぶん私の半分ぐらいになる。
だから他の子たちはフェノンの魔力に耐えられないかもしれない。フェノンだって他の子たちが傷つくのは嫌でしょ? だから魔力は外に出さない。わかった?」
つまり多量過ぎる魔力は魔力の少ない人には毒ってことでいいのか? ……お母様チート過ぎません? 普通は転生者であるわたしの方がチートである筈なのにどうして……?
「うん、わかりました。おかあさま」
するとそのタイミングで扉がノックされて、ナタリーとは別のメイドさんが入ってきた。
「お食事の準備ができました」
「すぐ行くから先に行ってて。フェノン、行くよ」
「うん」
お母様とナタリーに手を繋がれて食堂へと向かい夕食を食べて、ナタリーと部屋に戻った。
「この屋敷って他にメイドさん居たんだね」
「私だけではこの屋敷の清掃などは一切出来ませんからね。先ほどのはディアナです。使用人の中では最も若いですね。ですが、仕事はもちろん、笑顔も完璧……です……よ……」
ディアナね……うん、わかったから露骨に目を逸らしながら話さないで。
「ちなみに欠点は?」
「やや怒りやすいのと毒舌のところですね」
え? それってもしかしてメイドに罵ってもらえるんですか? それはもうありがとうございます……とはならない!! わたしはどちらかというと甘やかしてくれる方がいい! 何故なら罵られるとメンタルが持たないからだ!
「ナタリーはおかあさまといつ知り合ったの?」
「私ですか? 私がエマ様と会ったのは村でしたね。当時まだ7歳だった私は果実を取りに森に行ってたんです。それで日が暮れるちょっと前に帰ると村が魔物に襲われてまして……そんな時、エマ様が私を守ってくれたのです。
その後は村も滅んだし、嫁に行くのも嫌だったのでエマ様について行くことにして、今こうしてフェノン様のお世話をしてるのですよ」
ナタリーは自分の村が滅んだことをあっさりと話した。
そんなにあっさりと割り切ることが出来るのはこの世界だから? それともナタリーの頭がおかしいのか? ……両方か。
「フェノン様、今失礼なこと考えてましたね。ダメですよ。私の頭がおかしいとか考えては。そんなこと私が一番分かってるんですから」
わかってるんかい。もしかしてナタリーの頭がおかしいのが常識で、ナタリーが正常だと思ってるわたしが非常識だったと言いたいのか。
なるほど、そういうことか。それなら全ての辻褄が合う。(言いたいだけ)
「フェノン様、入浴はいかがなさいますか?」
「いまいくぅ」
「かしこまりました。では行きましょう」
わたしはナタリーに手を繋がれ、大浴場へと向かった。