第46話 フェノンとクルミさん
予定の時間より少し早いですが、投稿します。
リアが気絶して、裁判が閉廷したあとクラスメイトたちは解散していったが、美紀ちゃんがわたしに話しかけた。
「正直先生はフェノンさんが庇うと思ってました。ですからこう言ってはなんですが……フェノンさんは優しいですね」
美紀ちゃんはわたしの頭を撫でて生徒会室を出ていった。すると今度はクルミさんがやって来た。
「これでスッキリしたか? ……佐藤」
「わたしは佐藤じゃ━━━━」
「誤魔化せてるとでも思ったのか? とっくにバレてたぞ。図書館で私の話をした時の耳の反応でな」
「誤魔化せないようですね」
これ以上クルミさんに何か喋らせるとわたしの精神が焼き殺されるので早めに認めておく。どうせ逃げ道もなさそうだから諦める。
「確かにわたしは佐藤でした。けど、いまは……」
「そうだな。どちらかというとフェノンくんという存在に佐藤の記憶があるだけのような感じだな。前世と今世を上手く使い分けてるのだろ?」
「単純に前世の記憶が曖昧なんですよ。時間が経つ度に少しずつ消えていってるような感じです。中学生よりも前の記憶は何も残ってません。近いうちに全て消えるでしょう」
クルミさんは少し驚いた顔をしていた。そして思ったよりも反応がつまらなかったのか、クルミさんはここで地雷を投下してきた。
「……うんち漏らし」
「ぎゃああああああああああああッ!!!!」
わたしは叫ぶと同時に頭を抑えながら地面をゴロゴロと転がった。
「どうやらこの記憶は二度と消えなさそうだな。一生胸に刻んで生きるといい。うんち漏らしのフェノンちゃん?」
「もうやめてくらひゃい……」
涙目でクルミさんにしがみついた。そしてクルミさんの顔をじっと見つめる。
「……どうやらフェノンくんは根っからの女の子のようだな。だが弄りがいがあって面白い。性的な面ではリアくんを、日常的面ではフェノンくんを弄るとしよう」
お願いですから全部リアくんを弄ろうと言い直してください。わたしはもうイヤです。
「ところでフェノンくん」
「なんですか?」
「フェノンくんはオ◯ニーをしたことは━━━━」
わたしは青白く光ったその拳でクルミさんのお腹を殴った。
何故か抵抗感もなく普通に殴れた。これが女の子としての性なのかな?
殴られたクルミさんは壁に当たったけど、防御魔法的な何かを使っていたのか、その場に立つことが出来ていた。
「せっかくフェノンくんに女の子の魅力を教えてあげようとしたのだが……残念だ。やはりこういうのはリアくんだな。彼女はどうする? 部屋まで運ぶか?」
クルミさんはお腹を抑えて、若干顔を引きずりながら言った。恐らくかなり痛かったのだろう。
「わたしが運びます。クルミさんは保健室にでも行ってください。身体強化を使ったんで、もしかしたら内臓が砕けてるかもしれませんので」
「そうさせてもらうよ……」
わたしはリアを背負ってクルミさんと生徒会室を出て鍵をかける。その後クルミさんと別れて部屋に戻った。
「ただいまー」
「フェリナスちゃん、おかえり」
部屋に戻るとエリーがリュックの中に荷物を入れていた。
「……なにしてんの?」
「これ? 明後日から帰省期間だからね。その準備だよ。フェリナスちゃんも早く準備した方がいいよ」
そう言ってエリーは荷物整理を再開した。
帰省期間というのは1週間ほどあって、魔法学園武闘大会だっけ? 名前忘れた。まあなんでもいいや。
とにかくその大会や校外学習で必要なものを準備するためにある。……というのは建前で、一応この学園に通っているメインの生徒はまだ子供なので、『お母さん会いたいよ症候群』が発生するのを防ぐためにあるらしい。
この期間は寮だけでなく、学園全体に入ることが禁止されていて在校生徒は必ず寮を出なければならない。そこでわたしは思い出してしまった。
……クルミさんたちどうしよう?
「……あとで考えよ」
わたしも必要なものだけを段ボールみたいな箱に入れて準備する。服とかは一応屋敷にもあるので、間違えて持ってきた小さい頃の服を箱に入れていく。
けど、この前みたいに魔力を大量消費すると吸魔石に付与されている時間魔法が発動して、身体が小さくなるってお母様が言ってたので2、3着はここに置いて行く。
完全制服は明後日からの予定なのだが、休みとなっては仕方ない。リアの制服姿は休み明けの楽しみとしよう。
「よし、準備完了! あとは……」
わたしは荷物整理を終えて校門前にあるツバキさんのお団子屋さんへと走って行った。