第41話 ベビーシッターズ
お母様はわたしに時間魔法をかけた。
「あっ、リアちゃん……ごめん☆」
「は?」
リアがお母様の顔を見ると近くから泣き声が聞こえてきた。
「ふええええええええんっ!!!」
わたしは3歳ぐらいにまで戻っていた。
え!? ここどこ!? ナタリーは!?
「おいおいマジかよ……」
「時間魔法って1日1回しか使えないの。それでこの後私は領主のところに行かないといけないの。だからフェノンのお世話お願いね?」
お母様どこか行くのかな? え? ちょっと!? わたし捨てられちゃった!?
「大丈夫よフェノン、ちょっと領主様のところに行くだけだから。今日中には戻るわ。ここにいるのはみんなお母さんの知り合いだから。安心して?」
お母様はわたしの頬を撫でて知り合いだと思われる女の子たちに託された。
「うん……いってやっしゃい」
「いってきます。じゃあ二人ともよろしくね」
お母様は部屋を出ていった。
わたしを抱えた黒髪の女の子がわたしを畳みの上におろした。
畳みなんてこの世界にあったんだ……久しぶりに畳みの上でゴロゴロするのもいいかも……なんか服が大きいような……?
「ちょっと服大きいかもな。クローゼットの中に間違えて持ってきたフェノンの昔の服があったはずだ。それを使おう」
いきなり黒髪と茶髪の女の子たちがクローゼットを漁り始めた。
この二人の女の子は何をしてるのだろうか?
「このワンピースかわいいね。これにしようよ」
「そうだな。おっ、このリボンとかつけたら可愛いんじゃないか?」
黒髪の女の子は言葉遣いが男らしいけど、リボンとかに興味ある感じだね……もしかしてツンデレ?
記憶のないわたしにはリアがわたしをクルミさんへの出汁にしようとしてることなど、知るよしもなかったのだった。
そしてわたしはリアたちに服を着替えさせられた。
「かわいいよフェリナスちゃん!」
「ああ、似合ってるぞ!」
わたしの着ている衣装はフリルの量が異常に多くて、可愛いらしさの塊のような白いワンピースと赤いリボンのついたカチューシャ。
そういえば、わたしこの人たちの名前知らない……
「おねえちゃんたちだれ?」
「あっ、そっか知らないんだっけ? 私はエリーよ。そっちはリア」
「エリーおねえちゃんとリアおねえちゃん?」
「うん、そうだよ。えらいえらい」
わたしはエリーお姉ちゃんに頭を撫でられた。とても気持ちいい。もっと撫でてほしい……
するとエリーお姉ちゃんはその撫でていた手を下ろしてしまった。
「あっ……」
「?」
わたしが不満そうな声を出すとエリーお姉ちゃんは不思議そうな顔をしてもう一度撫でてくる。すごい気持ちいい……もっと撫でて━━━━
「これがいいの?」
「うん……」
わたしはひたすらエリーお姉ちゃんに撫で回して貰った。わたしが満足したのは1時間経った頃だった。
「つ、つかれた……」
「よく1時間耐久してくれたな。悪いがこれで何か飲み物買って来てくれないか?」
「う、うん、わかった……」
エリーお姉ちゃんが部屋を出ていった。さすがに相手のことを全く考えないのはよくないと思った。
そして今度はリアお姉ちゃんが相手をしてくれるみたいだ。
「フェノンちゃん、実は俺、お前の正体知ってるんだ」
わたしは突然過ぎるあまりに言葉が出なかった。
……え? いまなんて言った? 正体を知ってる?
「そうだろ? うんち漏らしの佐藤くん?」
「ぎゃああああああああああああっ!!!」
めっちゃ叫んだ。そしてそのまま近くにあった布団にズボーした。
なんでわたしの正体バレてるの!? 初対面だよね!? え!? もしかしてナタリーたちにもバレてる!?
「(この反応めっちゃおもろい……)
大丈夫だ。俺しか知らない」
リアお姉ちゃんから出たその言葉でわたしはホッと息を吐いた。
この人いったい何者なの……!?
「死にたくなければ言うこと聞きな」
わたしはただ黙って頷くことしかできなかった。わたしはリアお姉ちゃんに脅され、いろんな服に着替えては撮影機で撮られ、着替えては撮られ、着替えては撮られた。
あえて弛い服を着ていた方がかわいいとか言われてゆるゆるな服を着せられたり、幼児らしくコスプレしようとプリキュラの衣装を着させられたりと、どこからこの衣装を用意したのか聞きたかったけど、わたしには聞く権利がなかった。
そして全てが終わり、解放された頃にエリーお姉ちゃんが元同級生の田村さんを連れて部屋に入ってきた。
「……え?」
「本当に小さくなってるんだな。けど私から見ればあまり変わらないような気もするな」
「フェリナスちゃん、この人はクルミさんだよ」
「クルミという。クルミお姉さまと呼んでくれたまえ」
この言葉遣い、態度、性格。間違えなく田村さんだ……! なんでこの異世界にいるの……!? と、とりあえずバレないように従おう。
「クルミお姉さま……」
「うむ、苦しゅうない」
「めっちゃ怯えてるように見えるんだが……」




