第38話 フェノンと生徒会
わたしはいろいろと説明するために、教室に戻るのだけれど、その前に戦闘で制服が汚れてしまったので、わたしだけ一度寮に戻って袴に着替えてから教室に戻り、説明を始めた。
「えっと、わたしのおかあさまです」
「エマです。フェノンがお世話になってます」
いいえ、逆です。わたしが彼らをお世話してたんですよ。
「ドMの変態なのであまり罵らないようお願いします」
「ちょっとフェノンそういうのは……!」
お母様の呼吸が少し荒くなっていたけど、それは無視した。ここを気にしたら負けだから。
「ごほん。概ねの事情は把握してるので大丈夫です。大体お話をしますと……」
お母様はわたしの知っていることほとんど全てを説明した。
「「「王子の娘ッ!?」」」
「本当に不本意ながらそうです」
どうせわたしはあのゴミクズの娘ですよ。
わたしは両手を後ろで組んで、何もない場所を蹴って拗ねる。
「本当に不本意そうに言うな……」
「それよりフェノンさんの袴姿かわいいね」
「ふぇっ!?」
あまりに突然的に褒められたので、少し変な声が出た。しかも褒めたのが男子生徒でとても照れくさくて、わたしは顔を下に向けた。
「そういうのはいいのでそろそろ帰って貰えると……」
「別にいいじゃない。せっかくフェノンと仲良くしてくれてるんだからもっと居てもらいなよ」
「え? でもそれだと困るというか……」
わたしは少しもじもじとしながら小さな声で呟いた。
クルミさんのお食事が無くなるし、わたしも彼らと付き合うのは少し疲れるし……
「フェノンくん、もういいさ。彼らには残って貰った方が助かるからね」
「クルミさん!?」
何故かクルミさんが教室内に入ってきた。そしてクラスメイトたちは驚いた顔をしていた。
真っ先に立ち上がったのは生徒愛の塊である副担任。
「田村さん生きてたんですね!?」
「なぜ私が死ぬ?」
クルミさんが王家の事情を知らないのを思い出したわたしはクルミさんに軽く説明した。
「なるほど、私は自殺したのか」
「言い方を考えてください」
そして我慢が出来なくなったのか涙目になりながらクルミさんを抱きしめる副担任。でもクルミさんの方が背が高くて、美紀ちゃんは新米教師なので不思議とクルミさんが保護者のように見えた。
わたしはその光景が少し面白くて肩を震わせる。
「フェノンくん笑ってばかりいると恥ずかしい思いをさせるよ」
「すいませんでした」
すぐに謝った。するとクルミさんのイヤらしい笑みが見えた。嫌な予感しかしない……
「フェノンくん? 許して欲しければ『はい』と言うんだね」
やっぱりそれか……!
クルミさんは今にも早く言えよという顔をしている。お母様もわたしが『はい』と言えないのを知っているので、にやけてわたしを見てる。その片手には撮影器があった。撮る気満々である。
でもわたしは言うしかなかった。自分で羞恥の道を歩むしかなかった。
「……あい」
わたしのその言葉が教室中に響いた。周囲が少しざわめき始めた辺りでわたしは羞恥の限界を迎えてその場でショートした。
「フェノン!?」
倒れたわたしは生徒会室にあるソファーに運ばれた。
「フェノンくんには負担を掛け過ぎたかもしれないな。まだ7つのようだしな。賢すぎてあまりそんな感じはしなかったよ」
「フェノンはなんでも1人で背負い込もうとするから、誰かから言ってあげないとやめないのよ。だからクルミさん、フェノンをよろしくね。何かあったらこれで連絡を」
お母様はクルミさんに宝石みたいなものを渡した。
「これは?」
「フェノンの宝石で作った通信機よ。魔力を通せば動かせるわ。それじゃあ私は王城に行ってくるから。またねフェノン。すぐに戻って来るから、心配しないでね」
お母様はわたしの頭を撫でて生徒会室を出ていった。それから小一時間ぐらい経って、わたしは目が覚めた。
わたしの首元には吸魔石があったので、恐らくお母様が新しく用意してくれたのだろう。けれど、周囲を見回してもお母様の姿はなかった。
「おかあさま?」
「フェノンくんのママンなら王城に行くと言ってたよ。それでフェノンくん、早速相談なんだが……」
クルミさんの相談というのは現在の生徒会のメンバーを一新して、勇者様方をゴミのようにこき使って利用するというものだった。
確かに日本の生徒会の知識がある人の方が助かる。この学園にはない役割とかも手伝って貰えるかもしれない。
クラスメイトと領主へのお願いはクルミさんからしてくれるそうなので、わたしは元生徒会メンバーへの説明をすることになった。けれど、全員あっさりとOKを出した。理由は全て「元々そんなに仕事してないし、会長大変そうだから……」だった。
じゃあお前らが手伝えよ! というツッコミは心の中に収めておいた。ついでに何も仕事しない先生にも「お前クビ」と一言突きつけてきた。
「そういうわけでよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくな」
「お世話になるからね。これぐらいしないと!」
「フェノンさんも何かあったら先生を頼ってくださいね」
こうして新しい生徒会メンバーが決まったのだった。




