第36話 生徒会長とクラスメイト
夜になって生徒会室を出て寮に戻ったわたしは入浴の準備をしてリアと大浴場へと向かった。
「リアもだいぶ馴れたんじゃない?」
「そうかもな……でも今日だけは入りたくなかった……」
リアはわたしと浴槽に浸かりながらシャワーを浴びてるクラスメイト数人を眺めながら言っている。もう恥ずかしがってる素振りは見せない。少しぐらい顔を逸らして欲しいところではある。
「ねえねえ、リア」
「ん? どうし━━━━━━」
わたしは立ち上がってとある部分をリアにガッツリ見せると、リアは顔を赤くしたまま動かなくなった。
「リア? 大丈夫?」
「お前よくもやりやがったな……」
「え? ━━━━きゃっ!?」
リアが思いっきり水をかけてきた。そこからはリアと水のかけ合い勝負が始まった。幸いにも他の人がクラスメイト数人だけだったので、「生徒会長あんな子供らしい所もあるんだ」と思われる程度で済んだ。
ある程度疲れたところで切り上げて食堂に向かった。食堂は夕食前にお風呂に行くと空いているのでスムーズに食べられる。
「フェノンちゃん、横いいかな?」
「うん、どうぞ」
わたしの横に嘘探知魔法を持ったクラスメイトが座った。
少し変に思われたかもしれないけど、気にしない。さすがに「はい」と言えないのをバレたくない。バレたら終わりだとわたしは考えて行動する。
「お友だち?」
「うん」
リアを指して言ったので、頷く。リアもわたしの忠告を覚えているようで黙っている。
「私服になるとずいぶん雰囲気違うんだね」
「うん」
わたしが「うん」としか返さないと会話のネタが尽きてきたかのようになってきた。
「きょ、今日は良い天気だったね……」
「うん」
「……何か会話しない?」
「うん」
いつまでも返事をマトモに返さないでカレーを食べきる。
今はこうして一緒に食べてるけど、きっとお母様と戦うことになったらわたしは……
「ごちそうさまでした。では失礼します」
わたしはリアと食堂を離れて部屋に戻った。
「お前少しは会話してやれよ。可哀想だったぞ」
「これでいいんだよ。余計なこと言って変に詮索されるよりはね」
「そうか」
翌日、わたしは朝早くに起きて生徒会室に向かって、壊れた椅子の修理をしていた。
実はこういうこともわたしがやらないといけないらしい。
「……どうしました? 教室ですか?」
「いえ、今日はフェノンさんのことを聞きにきました。昨日は私たちのことを言っただけでしたので……」
わたしの後ろには美紀ちゃんがいた。
美紀ちゃんしつこい。先に自分たちの現状を考えなよ。
「わたしのことを話す必要なんてありません。今すぐ王都に帰って、夜逃げの準備でもしてください」
「……そうですか」
美紀ちゃんはトボトボと生徒会室を出ていった。
「フェノンくんなかなか冷たいこと言うじゃないか」
クルミさんが生徒会室の床から出てきた。
「クルミさん、こんな所に居ていいんですか? バレても知りませんよ?」
「大丈夫さ。それに床の隠し通路を私の部屋と繋げてくれたのはフェノンくんじゃないか」
生徒会室にある隠し通路は元生徒会長が外に脱出する時のために作ったものなのだが、わたしはそれを利用してリアの水魔法で地面を深く削ってもらって、寮の3階にあるクルミさんの部屋まで繋げた。
地下から3階までは梯子を使用していて、1階は倉庫なので、他の人に見えないようにクルミさんに梯子の周りを土魔法で固めてもらって、2階はわたしたちの部屋なので、使ってないクローゼットに穴を開けて3階まで繋げた。
クルミさんはレスキュー隊が使用している鉄の棒でスルーと降りるヤツが良いと言ったのだが、昇る時どうするの? となったので、梯子になった。
「まあ、それはともかくとして話し相手になってくださいよ。ちょっと勇者様たちが来てからだいぶ疲れたので……」
「フェノンくんのストレスの原因は私にもあるからね。いくらでも聞こうじゃないか」
とりあえず思ったこと全て吐き出した。クルミさんは黙ってわたしを抱きしめて話を聞いてくれた。
「わたしは『うん』しか答えてないのにずっと話かけてくるんだよ。おかしくないですか!?」
「彼女は仕方ないさ。陽キャだからね……おっと、お客さんのようだ。じゃああとは任せるよ」
そう言ってクルミさんは床下に消えて行った。すると扉がノックされた。
「どうぞ」
「教室を借りたいんだが、いいかな?」
「構いませんよ。少し待っててください」
わたしは椅子の修理に使ってた工具箱と修理中の椅子を持って石塚くんたちを教室に案内した。クラスメイトたちは椅子に座って会議的なことを始めた。
わたしは持ってきた椅子の修理を再開した。背もたれが壊れているので、新しい板に取り換える。
「待ってください! それどういうことですか!? 王城の話と違うじゃないですか!?」
「王城の人たちが嘘ついてたってこと? でも魔法には何も引っ掛からなかったよ!?」
向こうは話がややこしくなってきたようだ。わたしは手を止めて立ち上がった。
「嘘探知魔法には抜け穴がありますよ」
わたしの発言にクラスメイトたちが一斉にこっちを見た。
この人たちにはさっさとご帰宅願いたいので、一気に上手く言いくるめて帰って貰うとしよう。