第33話 脅されるフェノン
今日は休日で授業もないので、クルミさんに呼ばれ、図書館を訪れていた。
「フェノンくん、来たようだね」
「あまり来たくはありませんでしたけどね……」
わたしはクルミさんから目を逸らしながら言った。
「だろうね。まあ、ここじゃなんだ。場所を変えよう」
わたしとクルミさんは人気のない生徒会室に移動した。
本当にイヤな予感しかしない。
「これが何かわかるかい?」
クルミさんが見せて来たのは昨日のサプライズの際に使われた拳銃の形をしたクラッカー。脅しに使っているのか知らないが、銃口からヒラヒラしたモノが出てるので、もはや意味がない。
「リアくんは諦めて自分のことを話してくれたよ。どうだい? フェノンくんも話す気になったかい?」
「ちょっと何を言ってるのかわかりませんね。話すって何を話すんですか?」
「いい加減諦めたまえ。さもないと君は後悔するよ」
「後悔……ですか?」
わたしは首を傾げて余裕そうな素振りを見せる。内心はもうバレてるんじゃないかと超絶焦ってるんですけどね。
「どうしても言うつもりはないのだね?」
「言うことがありませんからね。さっきから何を言ってるんですか?」
「そうか━━━━」
どうやら上手く誤魔化せたのか、クルミさんは諦めた素振りを見せた。その様子を見てわたしは少しホッとした。わたしはもう何も怖くない。
「うんち漏らし」
「あうっ!?」
あまりに唐突過ぎてマトモにダメージを受けた。わたしは泣きながら許しを請いた。
「お、お願いですから黙っててください……それ以上口を開かないで……」
「ふっ、どうやら本当に公衆の面前で漏らしたようだな。リアくんから聞いた通りだ」
「……え?」
もしかして……気づいてない? というかしれっとリアわたしのこと売ったの? ちょっとあとでお話をしないと━━━━
「リアくんの秘密を黙っておく代わりにフェノンくん最大の弱点を教えてもらったのさ。ちなみにその時はどんな気持ちだったんだい?」
「……ちにたい」
「そうだろう? 今のフェノンくんは今までにないぐらい可哀想な顔をしているからな。もっと追い詰めたいと思ってしまう」
クルミさんは笑顔でそんなことを言ってるけど、わたしの精神状態は既にボロボロである。
これ以上追い込むのはやめてください。そんなことされたらまたギャン泣きしてしまいます。そしたら生徒会長としての威厳が……
「そんなフェノンくんに頼みがあってね。もちろん聞いてくれるよね?」
わたしはただ頷くことしかできなかった。
クルミさんの話では近々この魔法学園に勇者様たちがやってくるらしい。その際にクルミさんをかくまってくれとのこと。王都から逃げて来たのでクラスメイトたちとは顔を会わせたくないらしい。
どこからそんな情報を手に入れたのか聞いてみるとクルミさんと領主の間にはパスがあって、領主から情報を聞いたり、逆に領主に情報を伝えたりしてるんだとか。だからクルミさんとの繋がりがあって、尚且つクルミさんの言うことを聞いてくれるわたしの要求を基本的に呑んでくれてるらしい。
領主としても何を仕出かすかわからない元生徒会長よりもクルミさんとの繋がりがあるわたしの方が扱いやすくて助かるからわたしが生徒会長であることに文句を言って来ないようだ。
それはさて置き、勇者様方はこの街の近くに住んでいる『古代種殺し』と呼ばれる人を探してやってくるらしい。
どこかで聞いたことがあるような気がするんだけど……あっ、お母様だ。たしかあのお父様が言ってた。
「どれくらいに来るんですか?」
「領主の話だと3日ぐらいだと行ってたな。気をつけろよ。全員普通の相手じゃない。この学園にいる人たちの数倍は強い。戦闘だけは避けるようにしてくれ」
「大丈夫ですよ。こう見えて温厚派なんで」
するとクルミさんは何か文句があるかのように変な顔をした。
「フェノンくんは領主の息子に何の考え無しに突撃した人だからそのセリフを信頼できないのだが……」
「それを言われてしまうと反撃できないのでやめてください」
もうそれだけはただの事実なのでクルミさんから目を逸らして少し頬を赤く染めて言った。
「まあ、そんなわけでよろしく頼むよ。それまでの間、私は寮に籠るとするから上手く誤魔化してくれよ。上手くいったら今度一緒にお団子屋さんに行くとしよう」
「……約束ですからね」
こうしてわたしとクルミさんの取り引きは成立した。いや、正確にはわたしは脅されていたので、成立せざるを得なかった。
ちなみにその頃、リアやエリー、1年生のモブたちは制服を作るためのサイズを測られていた。
「リアちゃんのミニスカート可愛いね!」
「何も言うなァーー!!!」