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第31話 生徒会長羞恥事件


 わたしが目を覚ますと保健室のベッドにいた。



「目が覚めたかい?」

「クルミさん……?」



 何故かクルミさんが横で本を読んでいた。

 そういえばわたしどうして寝ちゃったんだっけ? ……あっ、そうだ。白い煙を見たら急に眠くなっちゃったんだった。



「フェノンくんが生徒会室で倒れているのをリアくんが見つけたそうでね。彼女は真っ先に私の元に来てくれたよ」



 クルミさんは片手に本を持って足を組んだ状態で説明してくれた。でも近くにリアの姿はなかった。



「リアは?」

「彼女はいま生徒会室にいるよ。なんでも睡眠作用のある魔道具が使われたらしくてね。担任と一緒に調べてるはずさ」



 クルミさんの話だとわたしが発見されたのは今朝のことで、わたしが椅子から落ちて倒れてたのを朝食を持ってきたリアが見つけたらしい。とりあえずわたしは現場である生徒会室に向かった。



「フェノン! 起きたのか!」

「リア、ありがと」



 リアはわたしに何かの石ころを見せてきた。たぶんこれが話にあった睡眠作用のある魔道具だと思われる。



「そうそう、これが投げ込まれたの。それで白い煙がもわーって出てきたところで眠くなったんだよ」



 わたしがリアの持ってる石を指さして言うとリアと先生は顔を合わせて頷いた。



「「生徒会長の癖に語彙力低いな」」

「うるさい! こっちがわかりやすいように説明してあげたの!」



 とりあえずわたしが倒れてた場所に行くと死体の事故現場みたいに数字の書かれた札と人の形をした紐が置いてあった。



「わたし死んでないよ!? というかここまでリアルにやらなくていいから!!」



 わたしの持ってた羽ペンをチョークの線で囲まないで欲しい。

 机の上には倒れる直前までわたしが作業をしていた地図と校外学習の決定書類があった。



「……あれ? 場所決めたっけ?」



 書類にはアルカデアの首都と書かれていて、既に校長のサインまで入っていた。



「もしかして犯人の狙いはコレか? でもなんのためにこんなことしたんだ?」

「そんなことわたしが分かるわけないでしょ」



 リアの疑問の答えとして考えられるのは何かしらの目的があるということ。

 ……わたしって天才だなーこんなことまで分かっちゃうなんてー。



「とりあえず犯人はこの街に何かしらの目的があるということだな?」



 先生がすごいドヤ顔で聞いてくる。でも残念ながらそれはわたしがさっき考えたことと全く同じ。つまり、何もわからないのである。



「これはずいぶん立派な殺人現場じゃないか。フェノンくんは死んだのかい?」

「死んでません。茶化さないでください」



 開いた生徒会室の扉に腕を組ながら寄りかかっているクルミさん。意外とさまになってて文句が言いにくい。



「とにかくこの事は次の全校集会で話すべきだろう。校長先生は来ないだろうからフェノンくんが話すことになるだろうね」

「……ほえ?」



 突然わたしに振られたので変な声が出た。そして自分自身で「わたしを魔道具で眠らせたのは誰ですか?」と聞かなければならないことを考えただけで羞恥心を感じる。



「フェノンくんは見てて飽きない。常に顔が赤くなる」

「わたしそんな人じゃありません!! クルミさんのせいですよ!」

「はっはっはっ、そうかもな。まあ、今のは冗談だがな」



 わざとらしい笑いをするクルミさん。こっちはそれどころじゃないのに……



「まあ、今回は被害があったわけじゃないし、無かったことにするか」

「わたしガッツリ被害者ですよ!?」



 先生があっさりと無かったことしようとしたけど、わたしがそれに対して反射的にツッコミを入れてしまった。



「じゃあ集会で話すのか?」

「……無かったことでいいです」



 わたしは今回の事件を無かったことにした。


 そして2日ぐらい経ってわたしはクルミさんと仕立て屋さんに制服を取りに行った。



「これね。あとコレ」



 仕立て屋さんのおばさんは制服と一緒に1枚のマントを取り出した。



「え? こんなの頼んでませんよ?」

「あの時メイドさんが発注したのよ。試着していく?」

「そうですね。試着していきます」



 わたしは試着室に入って制服を着てみる。すると少し弛いけど、成長することを踏まえればちょうどいいかもしれない。

 そこにマントを羽織るとそれっぽくなった。



「ようやく生徒会長らしい見た目になったな」

「今までが袴でしたからね。制服は凄い違和感を感じます」

「そうか。フェノンくんは制服姿でもかわいいぞ。よし、抱っこしてあげよう」

「や、やめてください……!」



 手を出してきたクルミさんから少し離れる。また公開処刑されてしまうと反射的に距離を取った。その距離、およそ30m。



「学習能力が凄まじいな。たったの1度でこの距離とは……」

「折角なのでこれで帰ります」

「はいよ。今のうちに素材を確保しておくから絶対来るんだよ」

「うん。わかりました。ではまた」



 わたしは袴を袋にしまって、制服のまま仕立て屋さんを出た。



「フェノンくん、ああいう時の返事は『はい』だ。いい加減学習したまえ」

「クルミさんこそ学習するべきです。同じネタは繰り返すとつまらなくなりますよ」

「それもそうだな。今度はリアくんを弄るとしよう」



 リアが犠牲になることが確定した瞬間だった。わたしは軽く笑って話を流した。



「そういえばフェノンくんはリアくんから何か変なこと聞いてないか?」

「変なことですか? そうですね……あっ、そういえば昨日おやつがないとか騒いでましたね。まあ、食べたのわたしなんですけど」

「そ、それは後で謝ることをおすすめするよ……」



 少しそれじゃない感を出したクルミさん。

 言い訳をさせてもらうけど、リアだってこの前わたしのおやつ勝手に食べたんだよ。今回はその仕返しだから謝る必要はない。悪いのは全てリア。



「そうじゃなくて地球とか日本とかそういう単語を聞いたことはないか?」

「……ありませんよ」



 少しバレた時のことを考えてしまって返事をするのが遅れてしまった。そのお陰で妙な勘違いを引き起こしてしまったのではないかと少し慌てた。



「……そうか。ならいいんだ。じゃあ抱っこするぞ」

「え!? ちょっとクルミさん!? 降ろして! 降ろしてくださいよぉぉ!!!」



 クルミさんは校門前でわたしを抱っこしてそのまま学園内に入って行った。

 それから2日間わたしはクルミさんの口を聞かなかった。



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