第29話 えぐられる精神
お風呂場に入ったわたしとリア。中に人が誰も居なかったのを確認したリアは安心したからなのか、ため息を吐いた。
「じゃあ身体洗いっこしよっか?」
「黙れ銀髪幼女」
「せっかくリアと背中流し合いっこできると思ったのに……」
わたしはしょんぼりしながらリアの横に座る。鏡を見るとわたしの耳が垂れ下がっているのが見えた。けど、リアは何も言ってくれないので、黙って自分の髪を洗い始めた。
「おや、フェノンくんじゃないか。奇遇だな」
頭をシャンプーでわしゃわしゃと洗っているとクルミさんが入ってきた。横を見るとリアが鼻血を出して思考停止していた。意外と初のようだ。
「洗ってやろう」
そう言ってシャワーを流してくるクルミさん。そのあとリンスもやって貰って身体まで洗って貰った。
「リア、これが女の子同士の常識なんだから見習ってよ?」
「……」
反応がない。思考停止した童貞のようだ。
そんなリアを見て、クルミさんはリアに近づいた。そして、クルミさんはリアの胸に手を置いて揉み始めた。
「おいっ!? ちょっとフェノンやめろ!? ーーっ!?」
まさかのそれだけで反応が復活したリア。クルミさんを見て驚いた様子。
……というかいまわたしが胸を触ったみたいに言わなかった? わたし触れてないからね? リアはわたしのことを本当になんだと思ってるの?
そしてクルミさんの豊かな胸がリアの顔を包みこもうとしたので、さすがにこれは止めた。リアが死ぬ。二重の意味で。
「クルミさん、先に入ってますね」
「ああ、わかった」
わたしはリアの手を引いて、リアと一緒にお風呂に浸かった。
「いきてるぅ?」
「ああ、なんとかな……」
リアに反応を求めると少しだけ反応した。どうやら目は死んでるようだが、他は大丈夫そうだ。
「でもこの人数は少ない方だよ? 本当ならもっと多いし」
「もういい……大浴場来ない……」
どうやらリアの精神は完全にやられてしまったようだ。さすがにこれ以上の無理強いは可哀想だと思う。けど、かわいいからこれからも一緒に入りたい。そう悩んでいると、天使と悪魔が舞い降りた。
『『これからもリアを大浴場に入れましょう』』
わたしの中の天使と悪魔は声を揃えて同じことを言った。つまりこれが正しいのだ。なのでこれからはユニットバスの使用を禁止することにした。
「彼女はどうしてここまで女性に対して弱いんだ?」
「わたしは知りません」
すごい言いたいけど、それはわたしの正体がバレることに繋がるので絶対に黙っておく。
「嘘を言うなら自分の耳を制御するべきだな。フェノンくんの耳は正直過ぎる。まあ、言いたくないのなら言わなくてもいいさ。別にそこまで知りたいわけじゃないからな」
何かすごい引っ掛かることを言われた。
「耳ですか?」
「自覚なかったのか? そうだな。今みたいに疑問を持った時は上下に一回動く。悲しい時、落ち込んでる時は下に垂れ下がってるし、興味津々な時は上下に動き続けてる。
隠したければ自力で治すか耳当てを買うんだな」
わたしよりもわたしの耳に詳しいクルミさんに驚いた。でも耳が動くのは疑問に思った時と落ち込んだ時、興味がある時だけらしいので、別に治さなくても大丈夫だと思う。
「ちなみにさっきは上下に動き続けてたから何か言いたいけど、言えないことなのだろ? ならそれは胸にしまっておくといい」
「そうですか……ありがとうございます。そろそろ上がりますね。また会ったらよろしくお願いします」
「ああ、また今度な」
リアを連れてお風呂場を出て脱衣場に行く。そして髪を乾かして部屋に戻った。どうせ授業もやることないし、出る価値もないので、部屋で横になった。
「フェノン、許さんぞ……」
「え?」
「うんこ漏らしが」
その言葉を聞いた瞬間、わたしは涙目になった。
「脱糞野郎。うんち。ホモガキ」
「ふぇっ……」
わたしはその場で泣き崩れてギャン泣きした。それでもリアは暴言を続けた。するとわたしの精神は完全に崩壊し、幼児退行を果たした。
あとからクルミさんに聞いた話だと、わたしの泣き声は寮中に響いてたらしい。
そして慌てて帰ってきたエリーがわたしを抱きしめて、泣き止むまで頭や背中を撫でてくれた。
「おねえちゃん……リアがわたしをいじめたの……」
「(あっ、フェリナスちゃんが壊れた)
……そっかぁ。リアちゃんには私があとで怒って置くからね? 疲れたでしょ? 今はたくさん寝ていいからね?」
「うん……」
わたしはエリーに抱きしめられたまま、深い眠りについた。
「リアちゃん? これはどういうことかな?」
「い、いやこれはその……」
「とりあえず寮にいる人たちに謝りに行こうか?」
「はい……」