第15話 散魔期
最初だけナタリー視点です。
フェノン様が4歳の誕生日を迎えてから早くも半年が経ちました。
「フェノン様、朝ですよ。……フェノン様? 入りますよ?」
私が扉を開けると、フェノン様は泣きながらベッドの上で女の子座りをしていました。
もしかしておねしょしてしまったのでしょうか? フェノン様もまだまだ子どもですから仕方ありませんね。
「なたりぃー……魔力が溢れちゃうよぉ……」
「……え?」
フェノン様はいつも私の予測の一歩先を行きます。確かに魔力が部屋中に散らばっているようです。ここに入るのは少し危険かもしれません。
「エマ様を呼んできますね」
「うん……」
私はフェノン様の部屋を出てエマ様の部屋に向かいました。
フェノン様は基本的に世話の掛からない子ですので、こういう時のフェノン様はとても新鮮で保護欲をくすぐられます。
「フェノン様が!」
「把握!」
私がエマ様の部屋に入るとまだ殆ど何も言ってないはずなのにエマ様が椅子から立ち上がってフェノン様の部屋に向かいました。
こういう時のエマ様はとても変態っぽく見えますが、頼りになります。
ナタリーが部屋を出ていってからすぐにお母様が部屋に入ってきた。
「フェノン大丈夫?」
「うん……でも魔力が止まらないよ……」
これどういうこと? こんなこと今までなかったのに……
するとお母様はわたしの近くに歩み寄ってきた。
「ちょっといい?」
お母様はわたしの手を握り、目を瞑った。その状態を続けること5分。お母様はようやく目を開き、わたしの手を離した。
「これは『散魔』ね。フェノンは魔法が使えないから体内に魔力を溜め込みやすいの。散魔は体内に溜まった魔力を定期的に外に排出する現象よ。フェノンの魔力量なら1週間ぐらいで終わるから気にしないで」
「うん……」
魔力を放出するって……今はまだ外の魔力を繋いでるからいいけど、これ切り離したら宝石になっちゃうんじゃ……?
そう思った矢先に外に出た魔力との繋がりが限界を迎えたのか、魔力との繋がりが切れて魔力が宝石へと変わった。
「え?」
魔力は部屋中に散らばっていたので、いろいろな宝石が部屋中に落ちてきた。そしてわたしとお母様は宝石に埋もれた。
「フェノン大丈夫!?」
「あ、ありがとうございます。おかあさま……」
お母様が宝石に埋もれたわたしを引きずり出して、肩に担ぎながら部屋から離れた。
とりあえず広くて外からは見えない練習場に行くことになり、練習場に移動した。
「とりあえず吸魔石持ってくるからそれで試してみましょ。ナタリー、フェノンをお願い」
「はい!」
ナタリーがわたしの近くに来ると、お母様が練習場を出ていった。
……吸魔石? 名前からして魔力吸ってくれそうな石だけど、わたしの魔力ってわたしから離れたら宝石になるんだよ? 大丈夫?
「フェノン様、外に出た魔力はすぐに切り離してください。さっきみたいに宝石に埋もれてしまう可能性もありますので」
「うん」
それからわたしはお母様が戻ってくるまで少しずつ放出した魔力を切り離して宝石に変換していった。
「フェノン、これに触れてくれる?」
「うん」
戻ってきたお母様は透明でキレイな石に触れるように言ったので、わたしはその石に触れる。
するとその石にわたしの外に出た魔力が吸い込まれていった。
そして一番恐れていたはずの魔力の切り離しもあっさりと成功し、魔力が吸魔石の中で宝石に変化することもなかった。
「上手くいったみたいね。『コネクト』」
お母様が何かの魔法を使った。すると吸魔石とわたしの間に何か糸みたいなものが通ったように感じた。
「石から手を離して大丈夫よ。この石から10m以上離れない限り、フェノンの魔力が外に漏れることはないわ」
わたしはお母様の言葉にホッと息を撫で下ろし、その場に座り込んだ。
「おかあさま、ありがとうございます……」
「気にしないでいいのよ。私の娘なんだから」
お母様はわたしを抱っこして頭を撫でてくれた。
「よしよし、怖かったよね? もう大丈夫だからね。お昼寝にしましょうか?」
「うん……」
わたしはお母様とベッドに入ると簡単に眠ってしまった。
「ホント、寝るのだけは早い子で助かるわ。さて、宝石の後始末をしないとね。今回もディアナの虚魔法で消しちゃえばいいかな? ナタリー、ディアナを呼んできて」
「かしこまりました」
ナタリーは部屋から退出していった。
「そろそろフェノンの今後も考えないといけないわね。冒険者学院の推薦、どうしたらいいのかしら?」
※冒険者学院は12歳以上の子どもたちが通うことが出来る冒険者になるための資格を手に入れる場所です。自動車学校と同じようなものです。