第10話 異世界体力測定
ディアナが練習場から出て行って、昼食を済ませて休憩時間を挟んだあと、フロウによる剣術講座が始まった。
「まずはフェノン様がどういうのが使いやすいのかを選ばないとな。どれがいいですか?」
フロウは木剣が並んだ倉庫からどれがいいのか聞いてくる。
はっきり言おう。わたしには違いがわからん。全部同じに見える。
「見た目は同じですからわかりませんよね。ではフェノン様に1番合いそうな木剣を考えるために体力などを測ってみましょう」
「え?」
いや、いいよ。体力測定とかいいから。なんで異世界に来てまで体力測定やらないといけないの?
「ではまずは50m走からですね。ここからあの旗までがちょうど50mですので、全力で走ってください。準備はいいですか?」
「えー」
「全部終わったらおやつにしましょう」
全く、仕方ないな。ちょっとだけやってやりますか。
わたしは50m走のスタートライン立ち、軽い準備運動を始めた。
「……フェノン様、怪しい人には絶対について行ってはいけませんよ」
「?」
なんで今それを言うんだ? わたしだって外見は幼女だけど、中身はそれなりの年齢だぞ。言われなくてもそんなことわかってるし。
それから50m走、握力、上体起こし、反復横跳び、シャトルランなど、なぜ地球でやるべきものを異世界でやってるのだろうか……?
「最後はハンドボールですね。どうぞこのボールをおもいっきり投げてください」
フロウがボールを投げろと言ったので、わたしはフロウがいる方に向けてボールを構える。
「待ちなさい。ボールはあっちに投げてください」
「ちぇっ」
「3歳児とは思えない行動ですね……まあ、あんな人たちに育てられてましたからね。当然でしょう」
……当然? ほーう、じゃあ投げちゃっていいよね?
「えいっ!」
「ホンブレッツバア!!!?」
フロウは顔面にボールを喰らい、その場に倒れた。
それから5分後ぐらいにフロウは復活した。
「お、お疲れさまでした……では約束通りおやつにしましょうか」
「おやつ!」
先ほどまで練習場の端っこにいたナタリーがわたしを練習場の端にある椅子に座らせると、おやつを持ってくると言って練習場を出ていった。
「…………」
「眠いですか? 疲れてるでしょうし、少しだけ昼寝にしましょうか」
わたしはフロウの膝の上で眠ってしまった。
「フロウさん! フェノン様はこれから座学があるんですから寝かせないでください!」
「ごめんって……でもほら、こんな可愛い娘が眠そうにしてたら寝かせてあげたくなるじゃん?」
「クズはロリコンでもあったか。死になさい」
「え? フロウさん……そんなまさか! エマ様に伝えなければ!」
「俺はロリコンじゃねーから!!」
次に目を覚ますとわたしの部屋にいた。
「おはようございます。フェノン様」
「ナタリー? おはよぅ……」
「お食事のあとは勉強ですよ」
勉強……まあ、ナタリー教え方上手いし、この世界のことなら興味あるからやってもいいよ。
「お食事は部屋にしますか? それとも食堂ですか?」
「部屋でお願い」
「かしこまりました」
食堂ってお母様がいるから嫌いじゃないけど、ディアナやヒツジがガン見してくるから食べにくいんだよ。だから部屋に籠って食べる。
「本日のお食事はエマ様が知り合いから聞いた『和食』というものらしいです」
ナタリーが夕食をテーブルに置くとわたしの目に映ったのは白いお米、焼き鮭、大根おろし、味噌汁とお新香という和食セットだった。
この世界に和食という文化があったとは……いや、袴があったから何となくあるとは思ってたけど、まさか食べられるとは……!
「フェノン様、この『お箸』と言われる二本の棒で食べるらしいのですが……どうやって食べるのでしょうか?」
日頃スプーンとフォークで食べてるナタリーには二本の棒でどうやって食べるのか知らないようだ。
ここはわたしが和食マスター道の先輩として教えてあげなければ!
「……あれぇ?」
おかしい。箸が上手く持てない。……あっ、これサイズが合ってない。明らかにわたしが持つには大きい。上でカチカチ鳴っちゃう。
「ナタリー、スプーンとフォーク」
「はい、こちらに」
箸はわたしが扱うには大きいことがわかったので、諦めてナタリーにスプーンとフォークを要求した。和食マスター道はわたしが大きくなったらナタリーに教えてあげよう。
「いただきます」
わたしは久しぶりの日本食を味わって食べたのだった。




