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25 帰り道

 少しのつもりが随分遅くなってしまった。それでも彼女は普段通り自分の席で僕のことを待っていた。辺りは既に夕陽が地平線に吸い込まれ始めていて、彼女は色付き始めた薄い月を見上げているようだった。校庭に出た時、グループの中にいる志津子を見つけたが、僕は気付かなかった風を装い、歩を進めた。

 鏑木山を臨む道を歩いている時に夕陽が沈んでしまい、沼地に行くのは諦めた。辺りに闇が覆う速度が以前と比べ圧倒的に速まっていた。彼女の家と僕の家に行く為の分かれ道に辿り着いた時には、既に夕闇が落ち着いていて、今日に限って自分の責任で帰りが遅くなったのだし、彼女の家の前まで送ることにした。

 暗くなった道を歩くのは不安だろうと思って僕は普段通り家族の話をしていた。しかし彼女はどう言う訳か、顔を伏せたままで笑ってくれなかった。

「どうかしたの?」

彼女が何を思っているのかは想像がついていたのだが、不安になってついそう訊ねてしまった。彼女は暫く黙って歩いていたが、蟋蟀が鳴く最中、聞き取るのがやっとの声で呟いた。

「…さっき……放課後…何処に行っていたの?」

彼女は顔を上げ、大きな瞳で僕を見た。瞳は、暗闇で鮮やかな翠玉色が落ち着いた様相を呈していた。しかし色の無い右の瞳は濁って全く窺い知れない。僕はいつの間にか彼女の瞳を見ることには慣れていたのだが、思わず眼を逸らしてしまった。

「何でもないよ。ただ話していただけさ」

明るくそう言ったが、彼女は、うそ、とだけ呟いて口を尖らせた。動作の一つ一つを可愛らしいと思った。ただ、彼女は真剣に僕の答えを待っているようだった。

「さっき校庭を通った時、うちの教室の女子が四五人いたのが分かった?」

彼女は頷いた。恐らく彼女は視線だけで自分の教室の女子を見分けられるようになっている。

「その子達は、君の味方になりたいんだってさ」

それだけ言うと彼女の様子を窺った。彼女は何も言わず俯き、僕の袖を掴んでいた。

「よかったじゃない。これで友達が増えるかもよ」

少し冗談めかして言ってみたが、それでも閉ざされた口が開かれることは無かった。

 彼女の家の前まで辿り着き、僕が踵を返そうとすると、彼女は俯いていた顔を上げ、再び僕を見上げた。僕は、今日はこのまま帰るよ、と言おうとしたのだが、彼女が別のことを言おうとしているのが分かって、止めた。

「…あなたは……あなたはあたしの…味方…よね?」

彼女は十分過ぎる程の時間を掛けてそう言った。彼女は眉間に僅かに皺を寄せ、苦しそうな顔で答えを待っていたが、僕もひどく胸が苦しくなって、微笑を作るのが精一杯だった。僕は彼女の反応を見ないまま、さよならを言い、踵を返した。 




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