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1夏休み

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 薄白い粘膜に包まれた体を不器用にくねらせ、無数に聳える緑の隙間を彷徨する———蛙の子に静寂は似合わない。無思慮な尾鰭で空間を掻き乱す。

 幻想的に浮遊する緑。同化し身を潜める半透明の蜻蛉の子。微塵も動かず獲物を眼で追っている。

 瞬間―――全身をバネにして蜻蛉の子が蛙の子に飛び掛った。半透明な体の残像に空間が切断され、白い直線が描かれる。蜻蛉の子の鋭い牙が無情にも白濁した粘膜に突き刺さり、蛙の子の黒い頭は見る間に赤く染められてゆく。蛙の子は必死に暴れる。蜻蛉の子は決して牙を離そうとしない。やがて蛙の子が痙攣を始める。痙攣は急激に激しさを増し、次第にその力を失ってゆく。動かない―――動かない。牙が肉を貪る。美しかった世界に土煙と肉塊が舞い散る―――視界が奪われた。

 凝り固まった肩の筋肉を揉み解しながら顔を上げ、別のポイントへ移動する。剥き出しの太陽に照らされた夏の沼地は、ただでさえ小さな湖面を蒸発させ、このままでは枯渇してしまうのではないかと思わせるほど面積を狭めていた。僕は、沼地とは言い難い小池の中央付近にまで足を踏み入れて、体温ほどに上昇した水中の世界に生きる者達を飽きもせず観察していた。


 長すぎる夏休みの幾日かを教室の友達と遊ぶこともあったのだが、大抵は一人学校のプールへ行き、その帰りに沼地に寄るだけの毎日だった。夏休みの終わりが近づく頃には、家から学校へ、学校から沼地へ、沼地から家への往復の道程を最短距離で歩けるという意味の無い自信が生まれていた。

 蛙の子が続々と卵から孵る頃、延々と続く変化の無い道程を、諦めを持って歩いていた。


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