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落語調 昔話

落語『屁ったれ嫁御』

作者: 家紋 武範

ようこそのお運び様で。相変わらずおしゃべりをして皆さまのお暇を頂戴しております。


恵みの秋と申しますように、秋には色んなものが実ります。

ご婦人方のお好みのスイーツですな。

梨や柿、栗なんかも実ります。昔は甘いものがなかなか手に入りませんでしたので、こういうものを求めたようです。


もっともアタクシは栗も好きですが芋も好きですな。


昔は芋を『十三里』と言いました。

栗より旨い十三里。

里は昔の距離の単位で、栗すなわち『九里』。よりで『四里』。合わせて『十三里』と言うわけでございますな。


……いえ、まだ拍手ははようございます。

話しにはまだ続きがありますから。


また栗に及ばず『八里半』。生焼けのは五里五里ゴリゴリで『十里芋』なんてことも言いました。


しかしながらご婦人方は、お芋を遠慮なさいます。

と、申しますのも『屁の元』でございますからな。

お腹が張ってくるといけないと言うことで遠慮なさるようでございます。


嫁の屁は五臓六腑を駆け巡り


なんて諺もあるくらいで、ご婦人方はなかなか「ブゥ」とやれないようでございます。


下品な話しでございますが、ご婦人だけに限らず、男性の方でも好きな方はおられませんね。昔の江戸の火消しの組も『いろは』から始まりますが『へ組』は『屁』に繋がると、当時の江戸っ子は嫌ってつけなかったといいます。



さて、ある男が嫁を貰いました。

これが大変に器量も良く、働き者でお姑さんやお舅さんとも仲がよく非の打ち所がございません。


ところが暫くいたしますと、旦那さんの前に三つ指をついて頭を下げます。


「なんでぇ。どうしたってんだよあらたまって」

「いえねお前さん。縁あって夫婦となりましたが、私実家に帰らなくてはいけなくなりました」


「穏やかじゃないねどぉも。家が別の人間が一緒になるんだ。そりゃ環境に慣れないこともあるだろう。しかし実家に帰るってのは」

「いえ、どうしても帰らなくちゃならないんです」


「なんだい。オレのイビキがうるさいかい?」

「そんなんじゃないんです」


「おっかさんの小言がうるさいかい?」

「そんなんじゃないんです……」


あれやこれや聞いてみますが埒が明きません。

旦那さんの方でも意味もわからず帰られるのも嫌ですから、優しく聞いておりました。


「怒らないから言ってご覧よ。治せるところは治すから」

「いえ、旦那さんじゃないんです」


「はぁ……。では誰で」

「私なんです」


「お前がどうしたってんだい」

「あのぅ。そのぅ」


「大丈夫だよ。お言いったら」

「あのぅ。……オヘェでございます」


「なんだって?」

「ですから、オヘェでございます」


「おへぇってのはなんだい」

「やだよ。恥ずかしいから上品にの字をつけたってのに」


旦那さん、首をひねってようやく分かりまして、膝をぽんと叩きました。


「なんだい。屁かい。屁なんてなんぼでもタレなさいな」

「やだよ。タレるだなんて」


「まったく、そんなことで悩んでたのかい。いいよ。さっさとおしよ」

「でもお前さん。嫁に来てから一度もしてないから、大きいと思うんだよ。だからその柱につかまっておいでよ」


「何を言ってんだ。柱につかまってなきゃ吹き飛ばされるってかい。望むところよ。さっさとやってみなってんだ」

「そう? ほんとにいいの? じゃぁしますよ?」


と言ってお嫁さん、パァンと一発ぶっ放してみれば、旦那さん吹き飛ばされて雨戸を突き破り外に放り出されてしまいました。

驚いたお嫁さんは一時砲撃を中断し外に駆け出します。


「お前さん、大丈夫かい? ほら。しっかりおしよ」

「……う、うーん。いや恐れ入ったねどぉも。まるで大砲だね。戦車のようだよ。うん。しかし、どうだ。思いっきりやってスッキリしただろう」


「それがまだ十分の一も出てやしません」

「なんだって?」


旦那さんは呆れて頭を捻ります。

あんな砲撃をどこかでぶっ放したら、山も崩れるかもしれない。ひょっとしたら死人がでるかもしれませんがいい方法を思いつきました。


戸板の下に大きな石を置いて斜めにし、そこに嫁の頭が下になるように置きます。

そこで嫁が足を上げて屁をひれば、空に向かって出るということで、これなら誰にも迷惑はかかりません。


これはいいものを作ったと、お嫁さんも早速戸板の上に乗って天に向かってドカーンと一発放ってみますと、雲を突き破って空の彼方に飛んでいきました。


「ああスッキリしたァ」


とお嫁さんが言いますと、空からキラキラと砂金やら小判やらが降ってまいります。どうやら嫁の砲撃は天界の金蔵の底に当たったようで、宝物が次から次へと落ちてきました。


「こりゃ天の恵みだ」

「やったねお前さん。さっさとお拾いよ」


「あたぼうよ。おや、あの木の上に見事な首飾りが引っかかってるじゃねぇか。お前、あれに一撃を与えて落としてくれよ」

「何いってんだいお前さん。もうあたしゃ打ち止めだよ。お前さんこそ出ないかい?」


「バカヤロウ。恥ずかしくて人前で屁なんてできるかい」



お時間でございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章から漂う感じが上品な気がします~(∩´∀`)∩ ←実はもっと下品なほうが好きだったりしますww [一言] >栗すなわち『九里』。よりで『四里』。合わせて『十三里』と言うわけでございます…
[良い点] くすっと笑えて、読み心地もいいです。 [一言] 面白いので、もっと長く読みたいです。
[良い点] 落語としても読みやすくまとめてあって、オチもわかりやすい。素晴らしい出来だと思います。 [一言] 個人的には三本足の犬が一番好きです。これからも更新頑張って下さい。
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