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一月六日 (頭と頭がごっつんこする音)




トンネルを抜けると、雪だるまがあった。


アーサー「うおっ?!」


髪の毛に見立てたつもりなのか、長すぎる枯れ草が被せてある。井戸とかブラウン管テレビとかから出てきそうだ。雪も、土や氷が混ざってしまっていて所々ひび割れている。どこから拾ってきたのか、首にはボロボロの制服のネクタイが結びつけてある。雰囲気抜群、普通にびびった。



アーサー「びっくりした……」


ノア「わっ!!」


アーサー「うわっ?!」


振り返ると、そびえ立つ夕日色の教会堂の前で、ノアさんがしたり顔で仁王立ちしていた。


ノア「びっくりした?」


アーサー「びっくりした……」



一月六日、夕方。僕はまた夢見湖のほとりにいた。ただし前回とは逆。教会堂がある側である。もちろんもう一人の僕に呼び出されたからだが、今回は電話ではなく、時間と場所が書かれた紙切れがポストに入っていた。そしてその時間にその場所で、ノアさんとみーたんさんに出くわした。


みーたん「やっぱりアーサー君も呼ばれたんだね。アーサー君の、偽者に……」


アーサー「みーたんさん……」


みーたん「み、みーたんさんっ?」


ノア「あだ名が長くなってる」


聞くとみーたんさんのあだ名は、最初はみーだけだったらしい。それが今はみーたんになって、そしてついに今、みーたんさんになった。いや、さんは敬称だからあだ名に入るか怪しいけども。


ノア「みーたんのみーは水央のみーと巫女のみーのダブルミーニングなんだっけ」


アーサー「巫女……?」


みーたん「私の実家が神社で……ていうか、そうじゃなきゃこんな格好しないよ」


そういえばみーたんさんが着ているのは、いわゆる巫女服か。


アーサー「神社の巫女さんが、何しに教会へ?」


ノア「巫女が教会でサボタージュだよな?」


みーたん「だから、留守番!」



聞くと、夢見市では毎年お正月に、異宗派交流という名のただの宴会が行われているそうだ。そして今年はみーたんさんの実家の神社が会場になったらしく、お酒の飲めないみーたんさんはこの教会堂の留守番を任されたらしい。


ノア「ここの牧師は飲み会全員参加ってことかよ」


アーサー「ていうかお酒ダメな宗派とか無かったっけ?」


みーたん「詳しいことは教えてもらってないけど、とにかく私はここの留守番しろって」



夢見湖十字架地蔵の対岸、モノクロの教会堂。今はちょうど夕日が当たって、レンガ屋根から落ちる雪解け水も煌めいている。教会の前で巫女服姿の彼女が対岸の十字架地蔵を見つめるというのも、何というか絵になる。



ノア「みーたん、どうかしたか?」


みーたん「いや、十字架地蔵のそばに……誰かいたような…………」


ノア「ドッペルアーサーか?!」


アーサー「ドッペルアーサー」


多分偽者の僕のことなんだろうけど……。まぁ、語呂は良いか。


みーたん「でもそれは無いはず。対岸からこっちへは来れないから」


どういうことかというと、普通の湖なら、湖の岸に沿って進めば湖の周りを一周することもできる。だが、夢見湖はそれができない。船などを使えば対岸に渡ることはできるだろうが、陸地の部分は急斜面、かつ木々が所狭しと生い茂っているところがあり、それ相応の格好をしなければ無傷で通るのは難しい、らしい。そのため、教会堂のある側へ行くには、回り道をしてトンネルを通るのが一般的なのだそうだ。


ノア「船なんか無いし、みーたんのその格好じゃ無理だな」


アーサー「そもそも手紙には、十字架地蔵前じゃなくて教会堂前と書かれてた。なのに、なかなか現れないね」


ノア「そういえばそうだな」


アーサー「よしじゃあ手分けして……」


ノア「いや、単独行動は危ないって。 一人であいつに見つかったら……」


みーたん「私もそう思う。一緒に探そう」


アーサー「じゃあ……そうしよう」


もうすぐ日も暮れてしまう。かくして僕達は、教会堂の周りの枯れ木の森にて、ドッペルアーサーの捜索を始めた。






みーたん「アーサー君、後ろ!」


アーサー「っ?!」


ノア「なっ!?」


(枯れ木の軋む音)


枯れ木の内の一本が、今まさに根元から、僕の方に向かって倒れてきていた。


ノア「アーサーっ!」


ノアさんが僕を押し飛ばそうと向かってくる。だがそれでは、ノアさんが下敷きになってしまう。というか僕は既に、ノアさん達のいる方向へ避けようと体を傾けていた。今思えば、なぜ逆方向に避けなかったのだろう。




(頭と頭がごっつんこする音)




アーサー「いっ……」


ノア「たい……」


(枯れ木が地面に倒れた音)


木の下敷きにはならずにすんだが、壮絶なおでこの痛みに僕とノアさんはその場にしゃがみこんでしまった。




((鐘の音))




アーサー「っ!?」



ノア「うあー痛かった……アーサーは大丈夫か……?」


アーサー「……」


みーたん「……アーサー君?」



((鐘の音))



この鐘の音……。頭の中に木霊するこの感じ……。


ノア「おいアーサー?」


みーたん「そ、そんなに痛かったの……?」


最初に聞いたのは初夢から覚める時。そして二度目は、もう一人のアーサーに襲われて湖の岸に辿り着いてから、気を失う寸前。まさか……。




もう一人のアーサー「お前も聞こえるのか、このうるさい耳鳴りが……」




ノア「出たな……!」


みーたん「こ、この人が……」


倒れた木の向こう側に、もう一人の僕が立っていた。



アーサー「この、音って……」


もう一人のアーサー「アーサー・ドレイクという人間にかけられた呪い……みたいなもんだな」


アーサー「呪い……」


つまりこの鐘の音が聞こえるのは僕と彼、アーサー・ドレイクという人間だけ……? ということは、ドッペルアーサーが現れる時に聞こえるというわけではないようだ。



みーたん「あなたが、ドッペルアーサーですか」


もう一人のアーサー「ドッペルアーサー?!」


みーたん「えっ、違うの?」


ノア「いや。この服装、こいつで間違いない! こいつがドッペルアーサーだ!」


もう一人のアーサー「……長い名だな」


気にするところはそこなのか。やはりあだ名というものは、短くあるべきものなのかもしれない。


ノア「じゃあ……アーサーだから……」


ノアさんが暫し考え込んだ。


ノア「…………そうだ、モードレッド! モードレッドでどうだ?!」


もう一人のアーサー「ほお、叛逆の騎士ってわけか」


なんと気に入っている! どうやら今日から僕の偽者の名前は、モードレッド・ドレイクになった!



((鐘の音))



アーサー「またっ……?!」


治まっていた鐘の音がまた、頭の中に鳴り響き出した。


モードレッド「あぁ、やはり帰ったようだな」


ノア「か、帰った……?」


みーたん「誰が、ですか?」




モードレッド「ゾンビだ」




急に出てきた現実味の無い単語に面食らう。ゾンビって、あのゾンビなのか?


アーサー「ぞ、ゾンビ……?」


モードレッド「そんなことよりノアリス、次はいい加減成功させろ」


ノア「えっ……?」


モードレッド「自慢の自己犠牲をな」


モードレッドはノアさんにそう告げると、いきなりみーたんさんを蹴り飛ばした。


みーたん「っ!」


ノア「うわっ!?」


そのままみーたんさんはノアさんにぶつかり、二人は僕を下敷きにして倒れ込んだ。



みーたん「……ごめん二人とも、大丈夫……?」


ノア「みーたんこそ、大丈夫かよ!」


みーたん「私は平気……あ」


ノア「ん? …………しまった!」


僕達が倒れている隙に、モードレッドは姿を消していた。


ノア「あいつ、どこ行った?!」


アーサー「……ノアさん、もう暗くなったし、今日は帰ろう。明日から学校だし」


ノア「…………そうだな。みーたん、肩貸すぞ」


みーたん「あ、ありがと……」






本日発生したことで、特筆すべきことはこのくらいである。今日わかったことはまず、ゾンビという存在について。僕の偽者もといモードレッドによれば、そのゾンビという何かが現れたとき、僕も彼も、脳内に鐘の音が響き渡るらしい。問題はそのゾンビが何なのかなのだが、ひとまず今日は疲れた。今夜は早く寝るのが正解な気がする。明日から、新学期なのだから。

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