一月四日 (o゜□゜)o≪≪≪オハヨォォォォォォッ‼ ゴホッ!
一月四日、朝。僕の目が覚めるのとほぼ同時に、ノアさんがリビングに入ってきた。
ノア「アーサーっ!」
アーサー「ん、ノアさん……? ……あ」
しまった、いつもの癖で……。しかも僕朝苦手なんだよね……。でも、今年こそは、憧れのあの人のように……!
アーサー「お、(o゜□゜)o≪≪≪オハヨォォォォォォッ‼ ゴホッ!」
(僕の咳の音)
ノア「だ、大丈夫かよ? 夢見湖に落ちたショックでバカになっちゃったのか?!」
そんなバカな。
ノア「それよりどこなんだよここ?! 私達、どうなっちゃったんだ......?」
アーサー「……」
どうやらノアさんは、夢見湖に落ちてから今の今まで、目を覚ますことなく爆睡していたようだ。
アーサー「クックックッ……。ならば教えてあげましょう! なんとぉー、この場所はぁっ!」
マリア「アーサー君のお家よ」
僕の家の洗面所兼脱衣所の扉が開いて、中からマリアさんが出てきた。
アーサー「えっ」
ノア「マリア!」
マリア「ごめんなさい、ちょっとシャワーを浴びていたの。朝ごはんを作る前にきれいにしておいた方がいいと思って」
アーサー「シャワー……」
ノア「朝ごはん……」
マリア「ノアも湖に落ちたのだから、一度シャワーを浴びた方がいいと思うの」
ノア「でも着替えが……」
マリア「着替えなら、昨日持ってきておいたわ!」
ノア「で、でも……」
(玄関の扉が開く音)
ショートカットの女子「マリア、買ってきたよ」
僕の家のリビングに、さらに女子が入ってきた。
マリア「ありがとう。ほら、私達が朝ごはん作ってる間に……」
ノア「わ、わかったよ。アーサー! 覗くなよ!」
アーサー「あっ、はい」
女子A「私ベーコンエッグ作るね」
マリア「パンは私に焼かせて! 最近凝ってるの」
女子A「じゃあ、食パンはマリアお願い。あとアーサー君、買ってきた紅茶温めたいんだけど、お鍋か何か貸してくれる?」
アーサー「あっ、はい」
マリア「アーサー君、トースターってこれ使っていいの?」
アーサー「あっ、はい」
今まさに僕の家で、女子三人がシャワー浴びたり朝ごはん作ったりしている。
アーサー「…………」
直感的に思った。僕は、明日死ぬのかもしれない。これで僕も、父さんと、母さんと、フランのところへ行けるのだ。
女子A「それで、アーサー君……」
アーサー「あっ、はい」
女子A「私のことって、わかる?」
アーサー「あっ、は……」
女子A「……」
アーサー「……」
女子A「やっぱり、わからないよね」
マリア「気にしなくて良いわ。アーサー君、あのノアのこともわからなかったんだから」
女子A「ほんとに?」
ノア「おい! あのってなんだよ!」
シャワーを浴び終えたノアさんが出てきた。
女子A「ノ、ノア! 服ちゃんと着て!」
ノア「あ、悪い……。それとありがとな。みーたんも、私達運ぶの手伝ってくれたんだろ?」
マリア「うん、力持ちのみーたんに助けてもらったの」
トースターの中の食パンの表面をじっと見つめたまま、マリアさんが答えた。
アーサー「……み、みーたん?」
既に四人分のベーコンエッグを盛りつけ終えたショートカットの女子が、僕の方を向いた。
みーたん「えっと……同じクラスの魚岡水央、です。みーたんっていうのはあだ名、なのかな。怪力なのは、そういう体質みたい。あんまり嬉しくはないけど」
アーサー「……」
どうやってフォローしたものか。こういうとき、憧れのあの人なら……。
アーサー「マジで?! じゃあ腕相撲しよう」
みーたん「えっ」
ノア「なんだよ自信無いのか?」
みーたん「あ、いや、アーサー君ってこんなキャラだったんだなって……」
アーサー「いくよー!」
ノア「レディー!」
マリア「ゴー!」
(僕の腕が机に叩きつけられる音)
アーサー「痛い……(T_T)」
マリア「じゃあお正月なのだし、負けた方が勝った方にお年玉、でどうかしら?」
アーサー「……それする前に言うべきだよね」
みーたん「いいよ、そんな……」
ノア「遠慮すんなって」
アーサー「……それ払う人が言うべきだよね」
みーたん「あ、じゃあ……」
(トースターのパンが焼きあがる音)
みーたん「ケータイの番号、教えてくれない? アーサー君の……」
直感的に思った。女子と電話番号の交換。僕はもう、今日中に死ぬのかもしれない。これで僕も……。
みーたん「アーサー君の、偽者の番号。あ、ノアにもかかってきたんだっけ。じゃあノアでもいいんだけど」
……ですよねー。
マリア「アーサー君のところにもかかってきたんでしょ?」
アーサー「履歴には残ってるかもね……」
ノア「そういえば、アーサーのは無事だったのか? 私のは防水だったから大丈夫だったけど」
アーサー「僕のも問題は無かったけど。ていうか、偽者の番号なんか知ってどうすんのさ」
マリア「ノアとアーサー君を狙ってるんだったら、私達が調べないと」
みーたん「それに、どうして夢見湖十字架地蔵に呼び出したのかも気になるカラ(★‿★)」
マリア「私達が、調べなイトネ(★‿★)」
ノア「……あれ?」
マリア「どうしたの?」
ノア「履歴が消されてる……」
みーたん「もしかして、気絶してる間に偽者が?」
マリア「アーサー君のは?」
アーサー「……僕のも、消えてる」
ノア「じゃあやっぱり偽者が……?」
……そんなはずはない。わざわざ消すくらいなら、ケータイを壊すなり捨てるなりした方が楽なはずだ。それに少なくとも、僕のケータイはポケットの中に入ったままだった。つまりあの後、僕の偽者が気絶した僕達のところまでわざわざ来たということになる。なのに、僕達は殺されなかった。これではなぜ僕達が呼び出されて襲われたのか、ますますわからない。あいつは一体、何がしたいんだ……?
(誰かのお腹が鳴る音)
アーサー「…………まずは、食べよっか」
ノア「……だな」
今日の朝ごはんは食パンとベーコンエッグと紅茶。四人分の食費は、いつのまにか奪われていた僕の財布から支払われていた。
サナ「私がいない間に、そんなことがあったのかい」
一月四日、昼過ぎ。結局バイトの面接は合格で採用となった僕は、午後からはアイス屋の店番をしながら昨日のことをサナさんに話した。
ノア「ほんと大変だったんだよ」
サナ「しかし正月から湖で心中ごっこだなんて、ノアちゃんも成長したねぇ」
ノア「ばあちゃん話聞いてた?! 何でそうなるんだよ! \(>_<)/」
サナ「ん、違ったかい? ばあちゃんが若い頃はよくやったもんだよ」
やったんだ……。よく……。
アーサー「ところで、サナさんはどこ行ってたんですか?」
サナ「うちのアイスを置いてくれてるお得意様から追加の注文があってね、届けるついでに旅館で一泊して温泉に浸かってきたんだよ」
なるほど、自分で届けてるのか……。ていうか、普段は孫とお店しながら、時々一泊二日の一人旅とか。これは理想の老後すぎる。
ノア「それで今、マリアとみーたんが十字架地蔵周辺を調べてくれてる」
サナ「アーちゃんの偽者ね……。しかし十字架地蔵、か。大事にならないと、いイケドネェ……(★‿★)」
本日発生したことで、特筆すべきことはこのくらいである。ひとでなしスポット、十字架地蔵。それがこの町、夢見市の人々にとって何を意味するのか。後世に残すべき町の誇りか、あるいは…………。ま、どうでもいいか。今考えるべき問題は偽者の僕、もう一人のアーサーについてなのだから。