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一月十九日 傷ついたのは生きたからである




高見順の小説『仮面』にはこう書かれている。



傷ついたのは生きたからである。



もしそうなのだとしたら、僕は…………。ま、どっちでもいいか。捨てる画鋲が倍になっただけ。トイレを舐める必要もない。僕は……幸せになった。書き残したいことがやっと、見つかったのだから。








ノア「ただいまー」


サナ「おかえりノアちゃ……おやみんな揃って。三……いや、四P?」

アーサー「サナさーん?!」


一月十九日、小雪が舞う放課後。一年生百人一首大会を終え、僕とノアさん、マリアさん、みーたんさん、メリーさんの五人は、アイスクリームパーラーどらねこへとやって来た。掃き掃除をしていたサナさんは、相変わらずいつも通りである。


アーサー「孫の寿命、縮まってますよ」


マリア「私達は焼肉のお誘いに来たの」


前回から一週間も経っていないが、前回は色々あって後味悪いし、お口直しということでまた焼肉、という謎理論である。またも言い出したのは、マリアさんだった。


サナ「じゃあまたカラオケも行くのかい?」


メリー「またサナさんの一人子守唄合戦ー?」


みーたん「今回は私も練習してきたから」


メリー「コーヒー……じゃなくて、紅茶買って行こう」


今回は別に面と向かって誘ったわけではないのだが、何だかんだ言いながらもメリーさんはついてくることにしたようだ。誰のためなのかは……知らないけど。柏矢倉氏の方は相変わらず不参加らしい。ただ今日に関しては先約があったようで、義理の姉と出掛けることになっていたそうだ。


メリー「そういえばノアは?」


マリア「鞄を置きに行ったけど、遅いね」


サナ「まぁちょっと待ってな……お、来た来た」


マリア「……えっ!」


戻ってきたノアさんは、前回マリアさんに選んでもらった白いワンピース、のようなものを着ていた。


マリア「それって……」


ノア「ばあちゃんに手伝ってもらって直したんだ。血が落ち切らなかったとこは無事だった部分のを持ってきたりしたから、ちょっと小さくなっちゃったけど……」


サナ「一昨日の晩言われたんでびっくりしたけど、なかなか面白かったよ。最近ミシンなんか使ってなかったからね」


ノア「マリアが選んでくれた服だし……それにマリアも、もうちょっと短い方がかわいいって言ってたもんな!」


マリア「ノア……」


メリー「でも冬にする格好じゃないわよね。下に制服のズボンでも履けば?」


ノア「お前もミニスカートにしてやろうか」


メリー「何でよ?!」


そう言えばうちの高校の女子の冬服ってズボンなんだよね。夏服はスカートに袖無しだし、なんか極端だよね。


サナ「でもちょっと寒いだろ? 戸締まりのついでに、何か羽織るもの持ってくるよ」


ノア「ありがと、ばあちゃん」


メリー「……」


マリア「…………おーしくーら、まんじゅーっε=(ノ‥)ノ 」


するとマリアさんが、ノアさんに抱きついた。


マリア「こうすればあったかいもんね?」


ノア「マリア……」


みーたん「……何で私挟まれてるの」


訂正。マリアさんとノアさんが、みーたんさんを挟んだ。


ノア「これでみーたんもこっちの色だな」


みーたん「オセロなの……?」


マリア「メリーも黒にしてあげるわ!」


みーたん「こっちが黒なの……?」


マリア「お前も、ミニスカートにしてやろうか━━━━=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ!」


みーたん「や、やろうか━━━━=≡Σ((( つ-ω-;)つ?」


メリー「それ感染するわけ?! こ、こっち来んな!ちょっ ……くっつくなー!」








(無音)




アーサー「…………え?」



端から見れば幸せそうな顔をした四人を、離れてぼーっと眺めているといつの間にか、四人ともまるでパソコンのバグのようにフリーズしていた。



アーサー「空が……赤い」



空が赤く染まっていた。雪が宙に浮いたまま止まっている。動いているのは、僕ただ二人だった。



アーサー「お前は……」



アーサー「……私は、三人目のアーサー」



目の前に僕と全く同じ格好、清明院高校の冬服の上に例の部活ジャージ上着を着た、三人目の僕が立っていた。違う所は右目の眼帯と真っ黒な髪、そして喋り方だった。


アーサー「二人目の私はモードレッドと呼ばれているようだね……。では私のことは、マーリンとでも呼んでもらうとしよう」


アーサー「マーリン……?」


マーリン「……しかしアーサー君。せっかく時間が止まったというのに、彼女達には何もしないのかね」


アーサー「…………もしかして、君もサナさん側の人?」


マーリン「……その例えは彼女に失礼ではないかね」


アーサー「サナさん以上、だと……?!」


マーリン「そういう意味ではないのだが……。おっと、そんなことを言ってる場合ではなかった。ではさっそく」


(マーリンの咳払い)


マーリン「コングラッチュレーションズ!」


マーリンが大袈裟に両手を挙げた。


マーリン「君は無事、チュートリアルをクリアしたようだ」


アーサー「チュートリアル……?」


マーリン「ソシャゲでいうところのリセマラタイミングと言った所だね。まぁ、残念なことにガチャは無いようだが」


アーサー「え、えっと……」


マーリン「む? 例えが悪かったかな。とは言え君の趣味と言えばソシャゲかアニメくらいだろう。最近はひとでなしスポットにも行けてないようだし。この例えが、君には正解だと思ったのだが……」


アーサー「あ、例えか……」


マーリン「ハハハ、無論だとも。やはり君は面白い人間だよ」


アーサー「……えっとつまり、これで終わりじゃなくて、これが始まりってこと?」


マーリン「そのとおり。君の問題はジューマだけではない。……他人の命を大切にしたまえ。人間は、コンティニューできないからね」


アーサー「…………」


マーリン「それで一つ、確認したいのだが……」


気づくとマーリンは、その下に死体が埋まっていると言う桜の木にもたれかかり、腕を組んでいた。


マーリン「先日君は君の妹、フランスロット・ドレイクから手紙を受け取った。それに間違いはないかね?」


アーサー「どうしてそれを……!」


あの手紙がフランから来たかもしれないということは、誰にも言っていなかったはず。みんなには、モードレッドから来たことにしていたはずだ。


マーリン「と言うか本当に、フラン君からの手紙なのかね? 正直素人に、筆跡鑑定ができるとは思えないのだが」


アーサー「……あれは、フランからの手紙だ」


筆跡も文体も、あれはフランのものだ。


マーリン「……ふむ。君がそう言うなら、そうなのだろうね」


そうであってほしい。僕はもう、あれがフランからの手紙でないことが判明するのを恐れるまでになっていた。真実を知りたくなくて、僕はこの件に関しては何一つ、行動に移すことができていない。僕はシスコンでは無いと思うが、それでも死んだはずの家族が生きていたら、それは僕にとって喜ぶべきことだ。生きている訳がないのは、僕が一番わかっているのだけど……。


マーリン「ありがとう、情報提供に感謝するよ。そのお礼と言っては何だが、チュートリアルクリアの報酬として一つ進言しよう」


アーサー「進言?」


マーリン「心無し地蔵へ行くと良い。マリア君の、両親と会えるだろう」


アーサー「心無し地蔵……?」




急に空が白くなった。



ノア「アーサー?」


目と鼻の先に、ノアさんの顔があった。


アーサー「……あれ?」


マーリンはいなくなっていた。マリアさんとみーたんさんは、メリーさんを挟んでいた。


ノア「どうかしたのか?」


アーサー「…………どうしたんだろうね?」


これはさすがに、幻覚でも見たのかもしれない。疲れてるのかな。


ノア「……心無し地蔵が、どうかしタノカ?(★‿★)」


アーサー「っ……!」


サナ「あ、ノアちゃん!」


丁度良いところに、サナさんが戻ってきた。


サナ「今焼肉屋の大将に電話してみたんだけどね、夜は予約が入ってるみたいで……今から一時間だけなら、空いてるって!」






僕達は大急ぎで焼肉屋へ行き、大急ぎで焼肉を食べてから、大いにカラオケ屋でカラオケを楽しんだ。

本日発生したことで、特筆すべきことはこのくらいである。三人目の僕、マーリン。憧れのあの人にどこか似ていたような気がするが…………。ま、どうでもいいか。あれが幻覚だったとしても、最近ひとでなしスポットに行けてなかったのは事実だ。次に書き残すべきことは決まった。心無し地蔵……。明日にでも、行ってみるとしよう。

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