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一月十四日 ノアリスの方舟 2




アーサー「モードレッド!」



僕は叫んだ。



アーサー「……いるんだろ? モードレッド!」



モードレッド「……騒々しいな。まったく、何時だと思ってるんだ。」



曲り角の陰から、モードレッドが姿を現す。もう日付は変わっていた。


アーサー「ノアさんを助ける方法は?」


モードレッド「何だ藪から棒に……」


アーサー「話、聞いてたんだろ? ノアさんを助ける方法は?」


モードレッド「……なぜ俺に聞く。俺が協力すると思うか?」


アーサー「ノアさんが死んだら、困るでしょ?」


モードレッド「……俺がか?」


アーサー「お前は今まで、ノアさんの目の前で僕を襲い、ノアさんに自己犠牲をさせることでゾンビを嫉妬させ、呼び出そうとしていた。もしノアさんが死んだら、それができなくなるよね?」


モードレッド「…………よく、わかったな」


モードレッドが大袈裟にため息をついた。


アーサー「……」


モードレッド「……そうだ。あのジューマは、ノアリスが自己犠牲をすることでこの世界へとやって来る。だが今日見ていて思ったんだが……変に演出するより、この世界の本人に見せつけるほうが効果的らしい。まさか、平行世界の自分と共鳴するとはな」


アーサー「……お前の発言は今も録音してある。詳しい話は、ノアさんを助けてからだ」


モードレッド「……さっきから何の話をしてるのかわからんが……そいつを助けるってのは、具体的にどういうことだ?」


アーサー「どういうことって……だから、ノアさんを人間に戻す治療薬とか、持ってないの?!」


モードレッド「人間に戻す……そいつは人間だろ?」


アーサー「話聞いてたんだよな?! お前いい加減に……!」


モードレッド「……悪かった悪かった。代わりに良いことを教えてやる。そいつは、死んでない」



ノアさんは死んでない。モードレッドは、そう言った。



アーサー「えっ……?」


モードレッド「気を失ってるだけだろ」


アーサー「でも歯形が……」


モードレッド「あぁ、噛まれたらしいな……。それが?」


アーサー「ゾンビに噛まれたんだから、感染……」


モードレッド「何でゾンビに噛まれただけで発症するんだ」


アーサー「いや、え……」


モードレッド「映画の見過ぎだな」




マリア「ノア!」


モードレッドが鼻で笑って立ち去りかけた丁度その時、マリアさんとみーたんさんが僕達を見つけ、ノアさんに駆け寄ってきた。



マリア「ノア! ……ノア?!」


アーサー「…………気を失ってるだけだよ」


みーたん「まさか……モードレッドが……?」


アーサー「それは……」


モードレッド「俺の機嫌が悪い時に、突っかかってくるからだ」


アーサー「え……」


……モードレッドは、一体どういうつもりなのか。まさか本当にモードレッドが……いや、ノアさんはゾンビに噛まれたと言ってたし……。


メリー「ちょっとこれ、ほんとに人の仕業なの……?」


遅れてメリーさんとサナさんがやってきた。


サナ「……知り合いの医者のとこに連れて行くから、そこのあんたも手伝って……あら?」


いつの間にかモードレッドはいなくなっていた。まぁ、あいつが手伝うわけないよな。


アーサー「すみません、僕がいたのに……」


サナ「大丈夫だよ、ノアちゃんは私を置いて死んだりしない」


サナさんはそう言って、ノアさんにしがみついたままのマリアさんの頭を優しく撫でた。


サナ「ほら、マリアちゃんもしっかりしな!」



マリア「…………うん」



そのまま僕達は、サナさんの知り合いがやっているという病院へと向かった。みんな親には友達の家に泊まると伝えていたらしく、みーたんさんとメリーさんは一旦ノアさんの家に、マリアさんとサナさんはノアさんに付き添い、僕はひとまず家に帰ることにした。


明日、というか今日のこともあるので寝るには寝たが、寝た気はしなかった。モードレッドはああ言っていたが、もし病院で発症したらとか考えると、とても安眠はできなかった。


朝になってすぐに身支度を済ませ、昨日サナさんに頼まれていた物などをメリーさん達と用意してから病院へ向かった。






ノアさんは、命に別状はないとのことだった。傷は多いが致命傷となるものが無かったらしく、明日からはがんばれば学校にも行けるそうだ。


その後僕はサナさんとノアさんの要望で、一応三百六十五日営業のアイス屋を開店させるため、午後からだがアイス屋に戻ることになった。そして鍵を預かり病室を出たところで、昼ごはんを買いに行っていたマリアさんに呼び止められた。



アーサー「……明日の朝?」


明日の朝学校で、二人でカルタの練習をしようとのことだった。


マリア「そう。七時半に教室集合がいいと思うのだけど」


アーサー「僕はいいけど……明日くらい、ノアさんとゆっくりしたいんじゃない? あ、ノアさんも来るってことか」


マリア「……ううん、今じゃなきゃ、ダメなの」


マリアさんは、何か決意したような様子だった。


マリア「二人だけじゃなきゃ…………ダメなの」


アーサー「そ、そっか……わかった。じゃあ、また明日学校で」



マリア「うん……学校で……」






本日発生したことで、特筆すべきことはこのくらいである。モードレッドの発言を改めて思い返してみて、考えるべきは二つ。一つ目はあのゾンビ、ジューマは平行世界からやって来ているということ。そして、この世界の自分と共鳴するということ。だとするともう一人の僕、モードレッドの正体は、平行世界の僕である可能性が高い。となると、ノアさんを襲ったゾンビの正体、ノアさんに嫉妬してそうな人は、平行世界の…………。ま、どうでもいいか。ひとまず噛まれても、ゾンビになることはないことがわかったのだ。もうそこまで恐れることは無い。昨日はあまり眠れなかったが、今夜はどうやら安眠できそうだ。

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