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一月一日 アケオメ━━━━=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ!








店員A「アケオメ━━━━=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ!」






アーサー「……?!」



一月一日、昼。僕は訪れたアイスクリーム屋に入るなり、元気な店員に出迎えられ面食らっていた。


店員A「…………」


アーサー「え……」


バイトの面接用に作ってきた顔が引きつった。一方、この後の面接で採用が決まった暁には、上司か先輩として敬うことになるであろう、ハイテンションでポニーテールなアイスクリーム屋の店員Aの方はというと、したり顔で仁王立ちしている。


アーサー「……」


ひとまず、僕は客ではない。僕はこのアイスクリーム屋にバイトの面接で来ているのだ。そのことを彼女はわかっているのか……それすらわからない。


アーサー「あ、えっと……」


だが、この程度は想定内のはずだ。元日にバイトの面接という暴挙。アイスクリーム屋なのに三百六十五日営業という年中無休の無駄遣い。これだけの非常識さを兼ね備えていれば、店員の一人や二人、おかしくたっておかしくはない。であれば、この問題の正解は……。



アーサー「こ……」



それに、これはいい機会だ。今年こそは、言動だけでも、憧れのあの人のように……!






アーサー「⊂('ω'⊂ )))Σ≡=━━コトヨロ━━━ッ!」






店員A「…………」


アーサー「あ、あれ?」


店員A「そ、そうじゃなくてさ、いや、そうなんだけどさ」


どうやら店員Aが求めていたものとは違ったようだ。確かにそうだ。これでは、店員Aのしたり顔の意味がわからない。彼女はどこか得意げだった。何を自慢していたのか? 考えられるのはさっきのアケオメ━━━━=≡Σ((( つ•̀ω•́)つだが、求めていたものが⊂('ω'⊂ )))Σ≡=━━コトヨロ━━━ッ!ではないとすると……。



アーサー「…………」



僕は羞恥心を紛らわすため、思考をフル回転させていた。


店員A「だからその……」


(襖が開く音)


店員B「あ、アーサー君?!」


気不味い雰囲気を打ち破ってくれたのは、奥の部屋から出てきた三つ編みの少女だった。


店員B「ノア、 新しいバイトさんってアーサー君のことだったの?!」


襖が開く音という、いかにも和風な音で僕は我に返る。そういえば、このアイスクリーム屋にはもう一つ非常識があった。それはここが、どこからどう見ても日本家屋の古民家であるということである。アイスクリーム屋、なのに。さっきだって、半信半疑で井戸のある庭を通って来たのだ。そして円相が描かれた暖簾をくぐったところで奇襲、じゃなくて新年の挨拶をされたのだ。


店員A「そう! それだよそれ! その反応! やっぱマリアはわかってるなー」


店員Bのびっくりした顔を見て、店員Aの表情が明るくなった。


店員B「だって、新しいバイトさんがクラスメイトだなんて思わなかったわ!」




そういう、ことか……。



アーサー「もしかして二人とも、僕と同じ学校だったり……?」


クラスメイトA「やっぱり気づいてなかったのか……」


クラスメイトB「で、でも、仕方ないわよね? 去年はほとんど関わりなかったのだし……」


クラスメイトBが慌ててフォローする。去年僕と関わりがあった人なんてほとんどいない。他人のことを覚えるのが億劫な僕には、正解を出すのは不可能だったようだ。


クラスメイトA「まぁいいや」


気を取り直したクラスメイト二人の自己紹介が始まった。


ノア「私はノアリス・ワンダーマン。気軽にノアって呼んでくれ! それからお前と同じ夢見市立清明院高校の一年生で、ここ、アイスクリームパーラーどらねこの……バイトリーダーだ!」


マリア「私の名前は、マテリア・グレイル。みんなはマリアって呼んでくれてるわ。今年はよろしくね、アーサー君(ᵔᵕᵔ˶)」








アイス屋なのに、僕はみかんの積まれたこたつに入る。


マリア「外は寒かったでしょ? あったかいココアです」


アイス屋なのに、ホットココアとバウムクーヘンが出された。というかこの三つ編み少女が同級生とは……。


マリア「少し待っててくださいね」


マリアさんは襖の向こうへと消え、ノアさんもいつの間にかいなくなっていた。



(風鈴の音)



アーサー「風鈴……?」


どこからか風鈴の音が聞こえてきた。そういえば、入るときに暖簾の横にかけたままになっているのを見た気がする。


アーサー「……いただきます」


風鈴の音を聞きながらこたつに入ってバウムクーヘンをほおばる……。ここは本当にアイス屋なのか。この後僕は本当に、バイトの面接なのだろうか。


アーサー「…………」


とは言え面接というのは、何も雇われる側だけのものではない。この人達の下で働いていけるのか、こちらもこの面接で見極めなければ。



マリア「……ノア、どういうこと?」


隣の部屋から話し声が聞こえる。僕はそっと、襖に耳を近づけた。


ノア「だからアーサーのことは、ばあちゃんに内緒ってこと」


マリア「内緒って……どうして?」


盗み聞きしてみると、どうやら僕は採用決定らしい。マリアさんとノアさんがこの後初詣に行くため、その間の店番が必要だったようだ。


ノア「そんなことばあちゃんに言ったら、ばあちゃんが店番代わるって言い出すだろ? そしたらばあちゃんが初詣に行けなくなっちゃうし……」


なるほど。どうやらそのばあちゃんというのが、このアイス屋の店長のようだ。今は初詣にでも行っていて居ないのだろう。


マリア「でも、勝手に雇っちゃっていいの?」


ノア「だから内緒なんだよ」


マリア「それって……これからずっとってこと?」


ノアさんがさらに声を潜めた。


ノア「……こたつの部屋に、扇風機があるだろ?」


確かに部屋の隅に、ほこりの被った扇風機が一台置いてある。ビニール袋くらい被せたらいいのにと思ったが、僕も人のことはあまり言えない気もする。


マリア「やっぱり忘れてたのね? 大掃除の時に片付けるって約束したのに……」


ノア「いやそれでさ、出しっぱなしにしたせいか壊れちゃったんだよ」


マリア「えっ!」


あらー。


ノア「だからアーサーが壊したってことにして、それを理由に今日の夕方にはクビにする。もちろんばあちゃんが帰ってくる前に私達が戻ってきて、だ。そうすれば、ばあちゃんにバレることはない。……どうだ、完璧だろ?」



アーサー「……」



なにこの……ブラック企業。



ノア「じゃ、手筈通りに……」


マリア「……うん」


これはまずい。ちょっと信じ難いのだが早く何とかしなければ、僕は触ってもいない扇風機を壊したことにされて即日解雇されてしまう。つまりこのままでは、正月から濡れ衣&タダ働きだ。なにこのブラック企業。


アーサー「…………」


襖が開いてノアさんとマリアさんがこたつの部屋に入ってくる。頭が真っ白の僕には、その光景はスローモーションのようにすら見えた。……しかし、ほぼ同時にスカーフを巻いたおばあさんが一人、暖簾をくぐって店に入ってきた。




ノア「……ばあちゃん!?」


ばあちゃん「ただいま、いやー寒かった寒かった」


マリア「あ、あけましておめでとうございます、サナさん……」


どうやらこのサナというおばあさんが、さっき話に出てきたこのアイス屋の店長。そしておそらく、ノアさんの祖母なのだ。


サナ「あぁ、マリアちゃんはもう寝ちゃってたんだったね。あけましておめでとう。今年もノアちゃんをよろしくね」


ということは多分、僕は助かったかもしれない。


サナ「おや、見ない顔だね。…………ふーん。しかし正月から男を連れ込むだなんて、ノアちゃんも成長したねぇ」


ノア「ちょっとばあちゃん?! いや、そいつは……あ、新しいバイトのやつだって!」


言っちゃった。バイト雇ったってばれちゃった。


サナ「なんだいそうなのかい? あんた名前は?」


アーサー「あ、アーサー・ドレイクです、よろしくお願い……」

サナ「彼女は?」


アーサー「か、彼女?」


サナ「そ、彼女。うちのノアちゃんなんかどうだい?!」


ノア「ばばばばあちゃん!」



!?



サナ「ノアちゃん、ばあちゃんはね、未だに彼氏の一人もできないあんたを心配して……」

ノア「な、な、なんで私がアーサーとつ、つ、つきあ……」


マリア「…………」


ノアさんがサナさんに気をとられているのを見て、マリアさんが僕の方にやってきた。そして目は合わせず小声で呟いた。


マリア「……ノアの計画は失敗みたいね?」


アーサー「えっ……」


どうやらマリアさんは、僕が盗み聞きしているのに気づいていたらしい。


ノア「そ、そんなことより……初詣は、初詣はどうしたんだよ?!」


サナ「あんたらも行きたいだろうと思ってね、早く帰って来たんだよ」


ノア「そんなの、アーサーのやつが店番してくれるのに」


サナ「そうだったのかい? 店はいいから、アーちゃんも初詣行ってきな」


アーちゃん?


ノア「な、なんでアーサーと一緒に行かなきゃなんないんだよ」


どうやらアーちゃんとは、僕のことのようだ。


サナ「そうかい? ……じゃあまあ、ばあちゃんと二人で店番するとするかね。今日はお客さんもそんなに来ないだろうし、奥の部屋で、ひめはじめでも……」

ノア「ばばばばあちゃん!!」


ノアさんが真っ赤になっている。


サナ「そんなんだからノアちゃんは彼氏の一人もできないんだよ。じゃあまぁ、二人が行ったら……」


そしてノアさんが、涙目のまま僕を睨み付けた。


ノア「……帰って」


アーサー「え?」




ノア「いいから…………、帰れーo(T□T)o!!」










と、本日発生したことで特筆すべきことはこのくらいである。日記というかラノベっぽくなってしまった。一年くらいは、書き続けたい。


しかし冷静になって考えてみると、わざわざ正月に呼び出しておいて濡れ衣&タダ働きさせようとしたうえに結局追い返すとは。ただの他人に、これほどのことを平気でできるものなのだろうか。つまりこれは、よほど僕のことが好きか、あるいは…………。ま、どっちでもいいか。

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