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トオル号二話 テイクノート  作者: 伊藤むねお
9/9

さようなら

 地震による被害は、宮城県の沿岸部を中心に十数人の死者行方不明者が出た。それでも地震規模に比べてこの程度で済んだのは、過去にも3.11のような何度か強い地震に見舞われていたことでハード・ソフトの両面に渡って耐震力がついていたのだろう。沿岸部にも鉄筋で作った高い避難場所が多数あった。

 菊田家も家屋自体は全く問題がなかった。室内で暖まり元気を取りもどしたミミコは生垣を弁償すると申し出たが、大事な時に車を使わせて貰ったのでアイコということで話がつき、ミミコは手を振って車で去った。トオルも手を振ったが、その動作と表情には名残惜しさがこもっているようにシズにはみえた。

 テイクノート大漁の日だった。

 家の中はひどかった。特にダイニングキッチンのある一階がひどい。トオルがテレビをもとの台に乗せ、スイッチを入れるとすぐに地震の速報がみられた。マスオがクッションになった犠牲で壊れなかったようである。

 トオルが握ってくれたおにぎりを頬張りながら暫く特別報道番組を見ていたが、やがて疲労を感じ、片づけは翌日ということにして、みな服を着こんだままで布団に入った。

「僕が起きてますから、みなさんは安心しておやすみください」

 一番頼りになるトオルが不寝番をしてくれるということで、みんなは本当によく眠ることができた。


「あらまあ・・・」

 朝、ダイニングキチンをみたミキが驚きの声をあげた。

 一番手を焼くはずだった食器類の破片は、トオルが夜の間にきれいさっぱりと片づけてくれていた。破片はすべて細かく割られ、むっつほどのダンボール箱に詰められて庭に出されていた。食器棚の中も何事もなかったように収まっていた。中身は半分近くに減っていたが、驚いたことにすべてが落下する前の位置に置かれていた。

「みんなみてよ、これ。元の通りよ。覚えていたんだわ」

「ほんとだ。凄いなあ。あ、この扉の留め金まで締め直してくれてるよ」

 マスオは頭の包帯と足のギブスにも関わらずめざとくそれをみつけた。


 よくあることだが、トオルの能力からすれば全くたいしたことがない働きが高い評価を受けることがある。ソミック社(と、トオル自身)にすれば、食器の傷みで取捨選別したこと、細かくわってボール箱にいれたこと、扉のラッチ機構を修繕して再発を防いだことを評価して欲しいところである。位置を覚えていたなどは少しもたいしたことではない。そうでないロボは不良品だ。

「トオルちゃん、あんた疲れてないの」

「疲れません。でも夜の間に一度充電してもらいました」

「叔母様。一回の充電で五千五百円だそうですから。お負けして五千円。トオルに上げてね」

 シズが手をだした。

「あら、そうなのかい。いいわいいわ。お祖母ちゃん、聞いた? トオルちゃんに五千円払ってあげてね。いいのよ、シズちゃん。ここじゃ、お祖母ちゃんが一番お金持ちなんだから」


 片づけの最中に空也からトオルに電話があったようである。

 トオルが帰りたいとシズに言い出した。東北新幹線は通常の運転にもどったとテレビが伝えていた。

「お父さん。熱が下がらないの?」

「三十六度九分です」

「たいしたことないじゃない。お父さんもしょうがないわね」

「でも、僕は帰らなければなりません」

 トオルは断然とした口調でいった。

(ほっときなさいよ)

 シズはそういいかけて急いで口を閉じた。サブマスターがマスターを否定してはならない(らしい)。前科のあるシズとしては口を噤まざるをえなかった。もっとも、もうそんなことはないだろうとは思うのだが・・・

「シズちゃん。いいわよ。トオルちゃんの実力は十分すぎるくらいわかったから。早く帰ってお父さんの面倒をみたいんでしょう」

「そうだよ。いいよ。わたしはこのとおり元気だからね。ヒロにもそういって。早く帰って空也さんの面倒をみておあげ」

 ミキとサトがこもごもにいってくれ、シズとトオルは翌日、埼玉に帰ることになった。


 翌朝、仙台駅でシズはおみやげを買うことにした。

「お姉さん。おみやげを買うのならミミコさんのお店から買ったらどうでしょう。駅の中の和菓子屋で働いているといってました」

「あ、そうだったわね。いいわ。けど、トオル。マチちゃんのことは気にならないの。凄く可愛い子だったし、ああいうガールフレンドもいいのじゃない?」

 それが筋というものだろう、と、シズは勝手に筋を拵えて様子を窺った。

「マチのことは心配ありません。もう大丈夫ですから」

「あっそう。ミミコさんのことは心配なのね」

「いいえ、心配だからではありません。お姉さんが買い物をするのなら知っている人から買った方が良い買い物ができると思ったんです。違いますか」

「違わない」

 にくい子だわ。でもなんかちがうような・・・あ、ひょっとすると、あれか。

「トオル。ミミコさんを抱っこしたときの感触がよかったんじゃない。ん?」

「はい。猫をだっこした時みたいでした」

 ませた子ね、といっても通じまい。しかし、これだけは言っておかなくちゃ。

「でも、カードを上げるとは限らないからね」

 トオルはシズの顔を見上げた。その顔が心なしか不満げだった。

 テイクノート プッシュ。


いかがでしたか。ありがとうございました。ぜひトオル号三話を読んでください。

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