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彼岸

作者: alice
掲載日:2017/10/05

おい!急げ!このままだと列車行っちまうぞ!

男の子が言う。

わかって…るって!

僕は息を切らせながらもなんとか答える。

ここは北海道の中心部にある札幌駅。

僕は中学からの友達と南口側の外を走って札幌駅に向かっている。

あと3分で列車は発車してしまう。

なんとかギリギリ間に合うか?

とにかく走らなくては、置いていかれる!

僕は走る。

よし!駅に入った!

しかし札幌駅は広い。中に入ってもプラットホームまではまだ距離がある。

おーい!早くー!

友達はもう改札口付近まで行っている。

待って!

ラストスパートだ

僕は走り改札を抜けプラットホームまでの階段を急いで、且つ足を踏み外さないように下を向きながら登る。

登る。

登る。

登る?

幾ら何でも登りすぎじゃないか?

こんなに長い階段なんて札幌駅にはないぞ?

僕は確認のため初めて上を向く。

…え?

目の前には、まだしばらく続く階段とその向こうに光が見える。

どこだ、ここ?

僕は怖くなり引き返そうと後ろを向く。

…無い。何にも

そこには自分が今まで登ってきた階段が、改札口までの道すらも。

戻れなくなってる。これじゃあ上に進むしか…。

僕はしばらく迷った末、やはり進むしか道はないと考え、階段を登り始めた。

もはや発車直前の列車のことなど忘れて。

登る。

登る。

ついに光が目の前に現れ、僕はそれをくぐる。


何か。聞こえる。

ザザーン。ザザーン。

波の音?

僕は歩く、音のする方に向かって。

徐々に視界がはっきりしてくる。

ここは、一体…。

そこには、夜の海辺が広がっていた。

歩いているのは砂浜。目の前には水平線まで広がる海。空には少しの雲と満月が。満月の光だけで十分周りが見えるほどで、全体的に濃い青色のフィルターを通しているような色合いだ。

なんで札幌駅に海辺が?しかも夜?さっきまで太陽が出てたのに。

わけがわからない。

それでもなんとか現状を変えるために、砂浜を歩いて行くと、南国の高級ホテルの専用ビーチでよく見る、落ち着いた色のパラソルと木組みの机と椅子が見えてきた。

誰がこんなものをここに置いたんだろう。

全く意味がわからないが、とりあえず椅子に座って現状を確認してみることにした。

札幌駅の階段を登っていると、登ってきた階段が消え、長く伸びる登り階段が続き、そこを登りきったら夜の海辺に出た。

こんなところか。

うん。夢かな?これはきっと。それならそのうち友達が起こしてくれるよね。

でもこれが本当に現実なら?もう元の場所に戻れなくなったら?

考えても結局自分だけでは正解にはたどり着けないだろうな。

そう結論付けた時、向こうから人影が見えてきた。

人だ!あの人に聞いてみよう!

おーい!

僕は立ち上がり声を出す。

人影はまっすぐこっちへ向かってくる。

どんどん人影は大きくなり、やがて顔がはっきり見えてくる。

…え?

それはさっきまで一緒に走っていた友達だった。

よう。

友達は言う。

よう。じゃないよ!ここは一体どこなんだ?どうやったら帰れるんだ?そもそもなんで僕はここにきたんだ?

色々な疑問をありったけぶつけたが、友達は焦りもせず、1つ1つ答えてくれた。


ここは彼岸みたいなもんだ。

もうお前は帰れない。

お前は階段から落ちたんだよ。


え、え、。

彼岸。帰れない?階段から落ちた?

つまり、つまり死ぬってことか?

声が震えてくる。

ああ。

お前は死ぬ。これは変わることのない決定事項だ。

この景色はな、死ぬ前に本人が1番見たいもの、夢見たことを見せてあげようっていう神様の優しさなんだよ。

友達は淡々と答える。

じゃあ…なんで、お前はここにいるんだよ。

声を振り絞る。

俺か?俺はただの入れ物だよ。最後にお前が見たのが俺だったから、この体を媒介にして、説明に来たってだけのことだ。特に意味はない。

もう、声が出ない、力も入らない。

僕はがっくりと腰を下ろし、なんとか椅子に座る。


最後の説明だ。もう満足、もういいよって思ったら目を閉じな。

そしたら全部が終わる。全部が。

彼岸だからな、時間なんて概念は存在しないから、目一杯その瞳にこの景色を焼き付けとくんだな。

それじゃあ。

友達は別れの挨拶をすると来た方向に帰っていった。

僕は返事もできずに座っていた。


死ぬのか。僕は。こんなにあっけなく。

友達が言ったことは現実味まるでないのに、説得力はあるように感じた。

つまりは受け入れなければいけないということ。死を。自らの死を。


どれくらい座っていただろうか。30秒?それとも一日?

僕は立ち上がり、景色を見ることにした。

これが僕が1番見たかった景色。

夜の海辺にパラソルと机と椅子。

落ち着いた景色。落ち着いた世界。


あぁそうか。

僕はこの世界を望んでいたのか。

何にも縛られることない、時間にも、自分にも、他人にも、そんな世界を。


ザザーン。ザザーン。


僕は目を閉じた。



一読していただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一文が短いため迫るような感じがして、臨場感がありました。
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