第九十一話 金属神ヤハルタとの戦い その一
洞窟の最奥、巨大なホール内に金属神ヤハルタの触手が這い渡り脈打つ。さながら金属光沢の血管網だ。
ホール奥にある銀光沢の本体は不気味に蠢く。
その横に立つアルハト王が、わたしたちを指さす。
「神ヤハルタよ! そこにいる女神エシュリーとその下僕どもを始末せよ」
その呼びかけに答えるように、ホール中のいたるところから金属触手が向かってきた。
「誰が下僕よ!」
ゴッドスレイヤーで向かってくる触手を一気に薙ぐ。
ホール中が侵食されているのでいろんな方向から触手が伸びてくる。しかも動きも速いから、避けるのも一苦労だ。
「ふっとべーっ!」
リンがステッキをヤハルタ本体に向けて振り下ろす。
だが爆発などは起きずヤハルタが少し震えたのみ。
ダメージがあるのか無いのか見た目ではサッパリだ。
「【極大爆破】!」
エシュリーも本体に魔法を叩き込んだみたいだけど、やっぱり結果は同じ。
「ヤハルタってダメージ受けないの!?」
「分かり難いだけだ! ダメージは確実に入っている!」
「それを聞いて安心! 【極大爆破】!」
エシュリーと同じ魔法を叩きこんでやる。
やっぱりヤハルタは蠢いているだけだけど、エシュリーの言ったことが本当なら、このまま攻撃を続けていればいずれ倒せるはず。
「ふぁいやーっ!」
リンの魔力弾がヤハルタ本体に直撃する。
直後、本体から無数の触手がリンへと伸び出してきた!
リンは全力で逃げているが数が多い!
「リン!」
急いで飛んで行ってリンと触手の間に入る。
「【聖なる盾】!」
神聖魔法による巨大な盾を展開するも触手はあっさりと貫通してきてしまう。
さすがにそれは避け切れず、何本かに貫かれてしまった。
「モナカ大丈夫!?」
「平気! 【回復】」
これで傷は完治!
態勢を立て直してと思ったら、またも触手が数十本向かってきた!
「うはぁっ!」
「リン!」
今度はリンが無数の触手に貫かれてしまう!
急いでリンを助けに入る!
「そいやあああっ!」
ゴッドスレイヤーでリンを貫く触手を払う。
「続いて、【回復】!」
「うああ、ありがとー! ダメかと思っちゃった」
「びっくりしたよー」
そう返しながら周りを見るが、触手の量がかなり増えている。
何百という数のそれが次々に襲ってくるのだ。
「【極大爆破】!」
エシュリーの魔法で、こちらに向かってきていた触手が一掃される。
「エシュリーありがとう!」
「これは早く何とかしないとどうにもならなくなるな」
「モナカあぶない!」
「えっ?」
リンの叫びにに驚きそちらを向くと、なんと魔力弾がこちらに向かってきていた。
「ちょっ!?」
ゴッドスレイヤーでなんとか受けるが、衝撃が激しくそのまま吹き飛んでしまう。
大地に叩き付けられないよう、うまく受け身をとって立ち上がる。
「な、なんで魔力弾が――」
なんて見てたら、なんとリンがエシュリーに向かって魔力弾を撃っている所だった。
「ちょっとリン! なにやってるの!?」
「手に金属が張り付いてて、操られちゃってるんだ!」
リンの腕に金属の光沢がある。
恐らく先ほど貫かれた時に侵食されたのだろう。
それで気が付いて自分の体も見てみると、液体金属が這いまわっているのが見えた。
「キモイわ! 【気爆】!」
わたしを中心にエネルギーを帯びた衝撃波が高速で広がっていく。
それで付着していた金属を一掃。
「リンはわたしが何とかしてやろう! 【風爆】!」
エシュリーが放った空気の塊がリンを吹き飛ばす。
そのまま液体金属と共に衣装までアチコチ破けながら転がっていく。
「ちょっ! リン大丈夫!?」
「な、なんとか……ちょーっとキツかったけど」
リンがこちらに向かって、倒れたまま手を振ってきた。
「うむ、感謝はいらぬぞ」
「ちょっとエシュリー! もーちょい手加減しなよ」
リンの元に駆け寄り体を見てみるが、服が破れてるだけで怪我は無いみたい。
「仕方ないではないか! あれ以上弱いとヤハルタが取れなかったぞ!」
「貴様ら! のんきにじゃれあってる場合では無かろう!」
なんとアルハト王に怒られてしまった。
いや確かに、漫才している場合ではない。
「あの触手厄介だね。数が多いし速いし当たったら侵食されちゃうしで、どうしよっか?」
「うむ……」
わたしの問いかけにエシュリーが悩みだす。
「……触手の数に対して、こっちの手数が足りないよねー……」
リンのつぶやきに、ひらめいた!
手数を増やせばいいんだ!
「よーしエシュリー! リン! ここは部屋全体が侵食されていて場所が悪いから――【次元の扉】!」
リンを拾い上げ、作った次元の扉に飛び込む!
「何かいい案が浮かんだのか?」
エシュリーも後に付いてきてくれる。
「おっ……お前ら!?」
アルハト王の声が聞こえたが知ったことでは無い。
「わわっ!? いきなり出てくるからビックリした! どうしたのモナカたち?」
次元の扉から出たわたしたちを迎えたのは、アリスの驚きに見開いた眼であった。
さっきまでの喧騒とは打って変わり、テーブルとイスが備えられたその室内にはゆったりとした空気が流れているように感じる。
「あ、飛行船の中かここ」
「そそ、まずは休憩ね」
「あ、飲む物用意するね」
リンを床に寝かしつけている間に、アリスがテキパキとジュースを用意してくれた。
「ありがと」
受け取ったそれに口を付ける。
ちょっとした酸味がアクセントの柑橘系のジュースだ。
飲んで一息ついたことで気持ちが落ち着く。
アリスは寝ているリンの上体を起こして飲ませていた。
「そういえば、どうなっちゃったの? 突然ドラゴンたちがこちらへの攻撃をやめちゃったんだけど」
窓の外の光景を見ると、戦闘状態は終わっているようだ。
ヤハルタが竜族を支配したので戦闘が終わったのだろう。
アリスにまでは詳細の情報が流れて来ていないようだけど。
「アルハト王が裏切ったのよ。奴がダグダの魔窯を破壊してドラゴンたちの支配権を手に入れちゃったの」
「えーっ!? どさくさに紛れて何やってるのよあの王様!」
「そこは思い知らせてやるわよ。というわけでリンの看病をお願いできる?」
リンの頭を撫でながらアリスに問いただす。
「え? う、うんいいけど……さっきの話しが本当ならアルハト王と神様と、この飛行船団や竜族までぜーんぶ敵に回すことになるのよ?」
「ふふふふっ――ねえエシュリー、わたしの魅了の力って神様の支配を打ち破れるんだよね」
最初に転生した元アース国でバーゼルの軍人たちを、それに他の国の人間や巨人たちも支配出来ていた。つまりわたしの魅了の力は神の支配力を上塗りできる!
「うむ、呪いや魔法支配では無いからな。つまりやる気か」
「久々にわたしの本領発揮よ!」




