第九話 結局デザート食べられない!
幻魔のテルトは、何やらジロジロと、わたしとエシュリーを見回していた。
「あ、あのー、幻魔さんは、何の目的でここに現れたのでしょうか?」
ニャンコが恐る恐ると言った感じで質問する。
「暇つぶし」
「へ? 何にも目的が無いってこと?」
わたしの言葉を無視して、テルトは話を進める。
「神様が負けて消えてなくなったのって、歴史上、このアース国が初めてなの」
この国ってアース国っていうんだ。初めて知ったな。
しかし……
「エシュリーって、実はすごく弱い神様なの? 初めて負けた神さまって」
「うるさいわね! ちょっと油断してただけよ!」
エシュリーが言い訳がましく言う。
テルトは構わず話を続けた。
「バーゼルは気付いて無いみたいだけど、神様のエネルギーの、残った搾りカスみたいなのが活動しているって、わたしたち幻魔の間で話題になってね」
「搾りカスとか、ゴミみたいに言うな!」
エシュリーボロクソである。
「それで、見てみたいかなって」
珍しいもの見たさか。
「わたしの方も見ていたようだったけど」
「種族が超美少女って、変過ぎるなと思って」
「変とか言うな」
わたしとエシュリー合わせて、珍獣コンビか?
「それで、何をする気なの?」
「幻魔の故郷は、夢幻界といって、この世界とは別の次元に存在してるんだけど、なにも刺激的なことが無いの。だから――」
わたしたち三人をぐるりと見る。
「しばらくの間、一緒にいていいかな?」
「えええっ!?」
領主の館に戻ると、兵士もメイドもみーんな、物陰に隠れて、遠巻きにわたしたちを見ていた。
「みんな、怖がってるね」
「モナカ、あなたに分かりやすく教えると、幻魔の子供って、安全ピンを抜いた手りゅう弾みたいなものなの。あと、幻魔は精神抵抗力も高いから、魅了の力で抑えるとか出来ないから」
「なるほどわかった。テルト、街の中では攻撃魔法禁止ね」
「人の街ってもろいもんなんだね。夢幻界の建物なら隕石ぶつけたってヒビも入らないのに」
つまりは隕石が落ちるくらいの衝撃を想定してるのか? 凄い世界である。
「それと初めに言っておくと、わたしたちの生活って、たまーに軍隊が攻めてくること以外、特に刺激的なことがない平凡なものだからね
「モナカさん、たまに軍隊が攻めてくるのは、十分過ぎるくらい刺激があると思いますよ」
ニャンコの意見はもっともなのかもしれない。
テルトを加えて四人での生活は、思ったよりもはるかにマッタリとしたものだった。
毎日わたしはソファーでゴロゴロしている。たまにテルトがつついてきたり、エシュリーが泣きついてきたり、ニャンコが偉大なるナンバー〇〇一の教示を説いてきたりするくらいで……それがかなりうっとうしい。
テルトは基本、エシュリーにべったりで、いろいろと話をしている。テルトの質問に対し、エシュリーがドヤ顔で答えている感じだ。神話とか魔法とかかな? わたしにはサッパリだ。
たまに口論になり、エシュリーが言い負かされて泣かされていたりする。だからって、そのたびにこっちに来ないで欲しいわ。
ちなみに余談だが、テルトはお給料ゼロである。領主様に雇われて来たわけでは無いし、それにわたしたちの稼ぎが一人金貨五百枚(日本円で五百万円)を超えており、多少ならおごってもいいかなと思えてきているから、なんだけど。
それからさらに十日間、バーゼルの軍勢がまったく来ないまま、わたしたちの収入もついに一人金貨一千枚を超えることとなった。
「モナカ様! バーゼルの軍勢が現れました!」
お昼ご飯の最中、衛兵が食堂に駆け込んできた。
「ご飯食べ終わってからでいい?」
食事中にムサイ鎧姿のおっさんとか見たくないので、そちらには視線を向けず、分厚いステーキへとナイフを入れた。
肉質的に見たことが無い。口に入れかみ切ると、心地よい抵抗とぷつりと切れる歯ごたえが心地よい。
エシュリーはまったく無視で、食べるのに夢中になっている。テルトは人間の食べ物は珍しいと、毎回じろじろと観察しながら口に運んでいる。
「街に入られたら被害が大きいですし、すぐにでも出撃して頂きたいのですが……」
衛兵がなんか困っている。
うーん、困っている人は助けないとな。
「しょうがない、デザートは戦闘後ね。メイドさん、料理長にそう言っておいて」
「かしこまりました」
静かに退場していくメイドさん。
最近、自然に指示できるようになってきたな。やはり人間は経験を積んで成長するものだ。
肉だけたいらげて、ワインを一気に飲み、しばしの休息。超美少女とは、毒にも抵抗あるため酔うことはない。なのでジュースみたいにいくらでも飲めたりする。
ただ、個人的にアルコールの味が苦手なので、好き好んで大量に飲んだりしないけど。
「おい衛兵、敵の数と編制は? 街への到達予想時間も教えろ」
律義に待っていてくれた衛兵さんに、エシュリーがいつもの上から目線で尋ねる。
傍から見ると、子供が無理に偉そうにしているみたいで可愛いだけだけど、慣れてる衛兵さんは気にせずに答えてくれた。
「謎の巨大兵器が地上を移動しており、他に今まで見たことのない巨大飛行物体が二機。計三機が、街の入口に到達する予想時間は三時間後となります」
おお、三機だけ! めんどくさくなさそうだ!
アーリアさん、進言してくれたのかな?
「えっと……謎の兵器って、どんなの?」
めずらしくエシュリーが顔を引きつらせている。
「全長は五十メートルほど。全体的に白い、丸みを帯びたシルエット。車輪などは無く、宙に浮いて移動している。砲座のように見える部分に、丸みを帯びた虹色に輝く球体が付いている、と報告にあります」
衛兵の報告には返答せず、
「ついでに飛行物体はどんなの?」
「全長は四十メートルほど。全体的に白く、巨大な塊の上に大きな円盤を乗せた形状。見た限りでは兵装は確認できませんでした」
エシュリーが近くのメイドに一言。
「ロウニンを呼んで」
「バーゼルの連中、思った以上に早く、本気出してきたわ」
部屋にみなが集まると、開口一番、エシュリーがそんなことを言ってきた。
「少しやり過ぎた、ということでしょうか」
領主様が困惑気味にエシュリーに尋ねる。
「この前、幻魔の力で一掃したせいで、態度が急変したみたいね。そうでなくば、今回か次くらいに使者が来て、ちょうどいい塩梅の条約なりを結べたかもしれないけど」
「ちょっとエシュリー、わたしが悪いみたいなこと言わないで」
テルトがむくれている。こうしている分には可愛い女の子なんだけどね。
「えっと、今回の相手ってなんか特別なんでしょうか?」
ニャンコがエシュリーの態度に不安を覚えた様だ。
「聞いた限りだと、アーク国を戦争で負かした最新鋭の兵器群かな。わたしを倒した兵器レベルがもしいたら、わたしたちの戦力では負ける可能性があるかも」
いつも無駄に自信があるエシュリーにしては、ひどく弱気な発言だ。
「まあ、勝つ負ける以前に今わたしが考えられる策はひとつだな」
「策とは、なんでしょうか?」
「ロウニン、いままで世話になったな」
「えっ!? 今どこかへ行かれてしまっては、我が街は!?」
「ちょっと、エシュリーどうゆうこと? さすがにこの街を捨てるとか、気分悪いんだけど」
わたしと領主様の批判を手を上げて制し、さらに説明を続けるエシュリー。
「今回の敵とは戦う。相手を戦闘不能か撤退させられれば、街までは部隊は入ってこない。その状態でわたしたちが街ではなくどこか遠くへ逃げていく姿を見せ付ければいい」
エシュリーは、全員自分の言っているのを理解したことを確認し、再度話を進める。
「街にもうわたしたちがいないとなれば、バーゼルはもう部隊を仕掛けて来ない。しかも、いつ帰ってくるか分からないとしておけば、圧政も怖くてできないでしょう」
「エシュリーさん、さすがです!」
初めてではないだろうか、ニャンコがエシュリーを褒めるの。
エシュリーは胸をはって、めっちゃドヤ顔である。
「あー、屋敷でダラダラするの、良かったんだけどなー」
またも逃亡生活か。
「もちろん、わたしも付いて行くからね」
テルト、まだ付いてくる気なのか。
「みなさんには、高給を請求されたり、飲み食いされまくったり、メイドにセクハラされたりなど、いろいろな苦労はかけさせられましたが、われわれのためにそこまでご尽力いただけるとは、感謝の極みでございます」
ちょっとトゲのあるように聞こえなくも無かったが、なかなか良い心がけである。
「おいローニン、旅の支度を頼んだぞ。まずは、今までの稼ぎ分と別に、今回のプラン執行のための特別給与として一人金貨千枚で合計四千枚。それと人数分で二週間分の物資と、それを乗せた馬車を用意しておけ」
ちゃっかりとテルトの給金も依頼しておる。
「そうそう、馬車! 前は歩きで精神的にきつかったから、馬車は必須よ!」
「さて、話は大体まとまったわね。残る問題は、バーゼルの最新兵器にどこまで対抗できるかね」
この街での最後の仕事になりそうだし、ちょっとがんばっちゃおうか。