第八十五話 妖精国への空の旅
対竜の国戦のために会議が開かれた。
わたしたちと、有翼人代表としてラグナも出席する。
今回の戦は、蒸気機関の国と我らがエシュリーンの民である有翼人の混成部隊で行う。
竜族への備えとして考えなければならないのは、なんといっても咆哮の魔力だ。
先ほどの戦いでは有翼人は何とか耐えてたけど、護衛艇がたったの一吠えで全滅してしまった。
これでは蒸気機関の国の部隊は邪魔にしかならない。
「なんなら、わたしたちとエシュリー様だけで進軍しましょうか?」
ラグナが人を小バカにするような笑みでもって、蒸気機関の国の出席者を見下す。
「貴様、我らを愚弄する気か!」
一人の大臣がラグナに指を突き付ける。
ああーっ、ラグナを挑発しちゃダメだって。
ラグナは笑みを崩さずその大臣を指さす。
「【光弾】」
「【魔力障壁】!」
ラグナの放った光弾をなんとか防ぐことが出来た。
目の前で起きた閃光に驚いたか、大臣は倒れてしまう。
「危ないじゃない! 」
「だってー、弱いくせに吠えるんだもーん」
ラグナには反省の色が見られ無い。
とても理解させられそうにないので、これ以上の追及はやめておく。
「うむ――まあ実際問題、おぬしらは戦力にならないだろう」
エシュリーがキッパリと告げる。
「誠に遺憾ではあるが、咆哮対策が無い以上女神エシュリーにご協力出来そうにありませんな……」
アルハト王自身も無力であることを痛感しているのであろう。
「アリスも今回はお留守番かな」
「ええーっ!? なんでよー!」
わたしの提案に、アリスが不服の声を上げる。
「だってー、アリスも咆哮はどうにもならないでしょ?」
「えーっ――ねえエシュリー、なんとかならない?」
「うーん、一時的ならともかく……」
エシュリーも妙案は無いのか、頭を抱えてしまう。
そんな中、わたしはふとあることを思い付く。
「ねね、リン。咆哮の魔力を防ぐように改造とかって出来る?」
わたしの質問にリンはしばし考える。
「うーん……あ、出来るかも」
「おお!」
さすがはリンである。
「外部からの魔力干渉を防ぐ仕様に、乗り物を改造しちゃえばいい」
「えっ! スピーダーを改良とか? それならわたしも行けるね!」
アリスが行けそうだと思って声を弾ませる。
「いやいや、竜の国は離島だからスピーダーじゃ行けないよ」
リンが即座に否定する。
「そだよアリス。改造するのは飛行船団の方よ!」
「おお、モナカ殿。我が国の飛行船団を改造して下さるのか?」
今度はアルハト王が食い付く。
「何隻あるんですか?」
「軍用の重飛行船が十隻ある」
「重飛行船?」
ちょっと気になり質問してみる。
それにアルハト王ではなく、ヘレナさん(今回は本人である)が答えてくれた。
「翼やプロペラ機関を搭載し、従来よりも重いものを飛ばせる飛行船のことです。それにより合金金属の外殻や各種砲座に艦載機など、様々な武装を取り付けているのです」
「あ、ありがとうヘレナさん」
いつもながら説明好きなヘレナさんである。
「十隻の軍船を改造って、リンの方でなんとかなる?」
「うーん……魔力石が全然足りない。それにわたし一人じゃあさすがに厳しいよ。手伝ってもらおうにも、確かこの国って魔法技師少ないんじゃなかったかな?」
「はい、リン様のおっしゃる通り。気球職人や鍛冶師などは数多おりますが、魔法技師はわたしの知る限り一人もおりません」
「そっかー……それだと難しいな……」
ヘレナさんの回答にリンはうなだれる。
「いやいやリン。ここは改造のプロフェッショナル達がいるところに飛行船団を持って行っちゃおうよ」
「プロフェッショナル達がいるところって……あっ!」
アリスは真っ先に気付いたみたい?
「もしかして……妖精国に持ってくの?」
「その通り!」
エシュリーンも蒸気機関の国も妖精国も同じ同盟国なのだ。
同盟の力を利用してやればいい。
「よし、みなで妖精国に行くぞ! 改造が終わったらそのまま竜の国へ進軍だ!」
「エシュリー様、我々は如何いたしましょう?」
「エシュリー、ラグナさんたちに留守の間この街を守ってもらっちゃおうよ」
「うむ」
わたしの提案に、エシュリーは深くうなずいてくれる。
「ラグナよ、わたしたちが戻ってくるまでこの街を防衛しつつ、襲撃部隊を集めておくのだ」
「分かりました」
これで留守の間もある程度は安心だろう。
金属で覆われた大地の上を、十隻で構成された飛行船団が飛んで行く。
白銀色に輝く胴体には中腹部と尾翼部に巨大な翼がいくつも取り付けられており、翼の間に取り付けられた巨大なプロペラエンジンが力強く回転している。
各所に取り付けられている砲門により、これが軍用機であると一目で理解出来るであろう。
わたしたちは十隻あるうちの、女性部隊専用機に乗せてもらった。
ちなみにこれからは空中戦になりそうだからと、スピーダーはファルプス・ゲイルの屋敷に【空間転移】で一足先に帰ってもらった。
「アリス、今回は平気そうだね?」
蒸気機関の国に来て最初に乗った飛行船では、あんなに怖がってたのに。
今は窓際で落ち着いて外を見ていた。
「うーん、まだ怖いけど……だんだんと慣れてきたかも」
笑顔を浮かべられるほどには慣れたようだ。
今いるのは飛行船内のラウンジの一つ。
丸テーブルとイスがいくつかセッティングされている。
その中の一番窓際近くの席に座っている。
「空飛ぶ乗り物なのに、かなり広いよね」
アリスの言う通り出力がある重飛行船だけあって、内部はかなり広く作られていた。
ラウンジに会議室に食堂、個室は無かったけど来賓用の比較的広い四人用の寝室もあてがわれている。シャワー室があるのもありがたい。
「連絡取れたよー」
リンとエシュリーがラウンジに入ってきた。
二人には妖精国へ飛行船の改造依頼をしてもらうように頼んでいたのだ。
「モナカー、のど乾いたー」
エシュリーは席に付くや、そのままテーブルに突っ伏してしまう。
神様も喉が渇くのか?
ともあれ働いた二人に、わたしとアリスで紅茶を入れてやった。自分たちの分もついでに。
「おーありがとー」
リンは砂糖も入れずそのまま飲みだす。
わたしも砂糖無い派だけど。
クセが無くあっさりとしていて飲みやすい。アッサムとかセイロン系の茶葉みたいだ。
まあ、この世界には当然セイロンは無いので、それっぽいというだけだけど。
「ふあー、おいしー」
砂糖を放り込んでチビチビ飲んでるエシュリーが、なんか溶けたようにグデりだす。
「妖精国にオーケーもらえたよ。ヘレナさんにはもう伝えてある」
「おお、後は向こうまで行けばいいね」
「そうだね」
妖精国に着くまでは、特にこれといって用事はない。
蒸気機関の国での観光は無くなっちゃったけど、ゆったりとした飛行船での空の旅というのもいいだろう。
いいと思ったけど、ずーっと風景変わらないし外にも出れないからすぐに飽きてしまった。
暇過ぎてアリスやリンがベタベタしてきたり、エシュリーをつついてからかったりで、グデグデな時間を過ごすこととなった。




