第八十四話 敵は竜の国にあり
「【魔法球】!」
わたしの放った魔法弾がエニアスの巨体に当たる寸前、何かで弾かれたようにかき消えた。
周囲に飛んでいる有翼人たちの魔法攻撃も通じて無いみたい。
「モナカ! あいつ【魔力障壁】をかけてるよ!」
リンがわたしのそばに飛んでくる。
「それなら剣で攻撃するしか無いわね」
「竜の鱗はミスリル並みの強度だから、力いっぱいね」
「うん!」
剣を構えた瞬間、エニアスが突っ込んできた!
口を開き炎を吐き出す。
どういう構造かほとんど前方全域にわたって吹き出される炎を避け切れず、結構なダメージを食らう。しかも熱のせいなのか、すっごく気だるい。
「大丈夫!?」
「平気平気。ちょっとだるくなっちゃったけど。リンは?」
「わたしもなんとか。だるいのは注意してね。どうも肉体的なダメージ以外に、精神へのダメージもあるみたい」
「精神?」
「エシュリーが言うには、魂を焼き尽くす炎だって」
「こわっ!」
魂燃やし尽くされたら死んでも幽霊になれないじゃんか。
「しねええええっ!」
どこからともなくエシュリーが飛んできて、持っている剣でエニアスに切りかかる。そして鱗ごと肉を切り裂く。
痛みからか怒りのためか、またもエニアスは咆哮の魔力をまき散らす。
うちらには効かないけどね。
そう思ったのもつかの間、エニアスの周囲に突如五匹の竜が出現した!
さっきのは咆哮じゃなくて召喚魔法なのか?
「古竜が成竜を召喚したぞ! 女神エシュリーの加勢のため成竜を討て!」
ラグナさんが叫びながらわたしたちの前に現れる。
先ほどの命令を受け、周囲に展開していた有翼人が一斉に魔法攻撃を始める。
そんな中、四機の船影がゆっくりとこちらへと飛んできていた。
いくつかの小型プロペラでプリン型の船体を浮かせている。
「なんだろあれ?」
「うーん、蒸気機関の国の護衛艇か何かかな?」
わたしの質問にリンが曖昧な答えを返す。
護衛艇が備え付けられた砲座をエニアスに向け、警告も無くいきなり砲弾を撃ち出す!
着弾して爆発するそれに、エニアスの巨体はビクともしない。
というか砲撃が邪魔でエニアスに近付けない。迷惑な船である。
エニアスがまたも咆哮の魔力を解き放つ。
操縦者が気絶したかそのまま落ちていく四機。何しに出てきたんだ!
「ラグナ! 部下を何人か出してあの四機の船救って!」
「えー? まあモナカさんの頼みなら……ルテシとプラナの小隊は落下する機体を止めてこい!」
「はーい!」
明るい声と共に有翼人たちが飛んで行く。これで寝覚めが悪いことにはならないだろう。
そんなことを考えていたらエニアスの炎がまたきた!
またも肉体と精神をガリガリと削られてしまう。
肉体の損傷はほっとけば再生しちゃうけど、魂までは再生せんのだ。
「ええい! くたばれー!」
巨体に飛び込み、剣を突き立てる!
手ごたえはあるけど、この巨体にどれだけのダメージがいっているかは疑問だ。
リンも魔法のステッキで殴りまくっている。
ステッキで殴りまくる魔法少女ってシュールな絵面だな。
「モナカ! あの竜の障壁を解呪しろ! その瞬間にわたしが特大のを撃ち込む!」
「オッケー!」
エシュリーの呼びかけに答え解呪の呪文を唱える。
「【魔法解除】!」
エニアスの魔力障壁がアッサリと消失する。
「【極大爆破】!」
「あっ」
エシュリーの魔法が炸裂!
エニアスと、比較的近くにいたわたしが一緒に吹き飛ばされる――って、もーちょい範囲を抑えられんのか!? 無駄に大ダメージを食らってしまう。
ついでに周囲の街並みも吹き飛ばしまくっていた。
これだけの威力の魔法なのに、直撃を受けているエニアスはまだ悠然と宙を舞っていた。
「しつこいなエニアス」
「モナカさん、わたしらも参戦しますよ!」
ラグナと有翼人たちもエニアス包囲網に加わる。
どうやら成竜を倒しきったみたい。
「【空間転移】!」
形勢不利と見たのか、エニアスがアッサリと瞬間移動で消えてしまった。
「あー!? 好き放題やっといて逃げやがったー!」
決着が付かなかったことにリンは不満な様だ。
わたしもだ。
逃げるなら最初から攻撃しなければいいのに。
エニアスの一連のドタバタ劇。
想像以上に街に損害が出ていた。
エニアスの咆哮で住人がみんな気絶してしまったので、事故が街中で発生しまくったのだ。
事故の処理をしようにもみんな気絶してるから、人手を集めるのも大変だった。
なんとか周辺から集めてきて復旧の目途が立ったのが同日の夕方である。
「疲れたー」
リンがソファーに寝転ぶ。
「こらリン、お行儀悪いでしょ」
「えーっ」
アリスに怒られリンが渋々と座り直す。
ちなみにここは朝に面談したのとは別の応接室で、部屋にはわたしたち以外にアルハト王やその護衛に、今回は本物のヘレナさん。それにラグナがいるのだった。
この状況で寝ようとするとは――リンは大したやつである。
「此度のこと済まなかったな。まさか竜族があのような過激な行動に出るとは思わなかったのだ」
アルハト王がわたしたちに頭を下げてくる。
「まったくです。おかげでモナカやリンが怪我しちゃったじゃあないですか」
わたしたちの中でアリスだけが怒っていた。
「おい、わたしも被害者だぞ?」
「エシュリーってケガしない印象があるから、大丈夫かなーって」
「おいっ!」
アリスに掴みかかろうとするエシュリーを抱き止める。
「エシュリー、抑えて抑えて」
「うむむむ……」
頭を撫でてやったらとたんに大人しくなった。
ペットにしつけを教えてる感じだ。
「時にアルハト王、今回の件はそちらも他人事では無くなってしまってますよね?」
アリスが問いただす。
「ああ、こちらは女神エシュリーに味方しているし、エニアス殿の攻撃で我が国も甚大な被害を受けてしまっている。どう考えても竜族と事を構える他ないようだ」
「うむ、みなで竜の国に総攻撃だな」
ラグナは実に楽しそうだ。
いや、元凶はあんたたちなんだけど……
「うむ、ラグナの言う通り。総攻撃すべきだな」
エシュリーが大仰にうなずく。
ラグナの話しだと、元から蒸気機関の国を巻き込んで戦う気だったようだけど。
「めんどーだなー」
「モナカ、もうここまで来ちゃったらやるしか無いよ!」
ここまでってどこまでだ?
リンもラグナと同じでウキウキだ。
「竜族は元々あまり友好的な種族では無かったですし、あの国の鉱山資源はこれからの戦いで必要ですから、いい機会ではあるかもしれませんね」
「まあ、そうですな」
アリスの言葉をアルハト王が肯定する。
うーん、みんなやる気満々か。
「うーん……しょうがない。やりましょーか」
「おお! モナカもついにやる気が!」
エシュリーがわたしの手を持って振り回す。
「いや、うだうだ言ってても結局やることになりそうな流れだし。やるならとっとと終わらせて家に帰って寝たい」
「モナカ、すっごく後ろ向きだ」
「いやもーこれは人間の基本的要求だから」
エシュリーの言葉に適当に返す。
北の国でもそうだったけど、ここには観光に来たはずだったのになんでこーなるのだろう?




