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人間から種族:超美少女へ転生し勝ち組人生目指す  作者: 里芋御膳
第六章 蒸気機関の国と竜の住む国ときどき妖精の国
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第八十一話 金属都市

 湿原地帯を抜け、毎度恒例の国境線を抜けた先に広がっていたのは、くすんだ色の金属のパイプと、巨大な煙突から立ち上る黒い煙と、蒸気の吹き上がる音とが、幾重にも重なる光景であった。

 大地を見ても、土草は無く、赤サビが浮いた鉄板で覆われた床が延々と続いているのみ。


「ほえーっ……」


 リンはスピーダーを早々に停めて、周囲の様子を、物珍しそうに見回し始めた。

 魔法技師アーティファクターというだけあり、こういう作られた物に興味があるんだろう。

 いや、こういう建物がある――じゃなくて、見渡す限り地平の先まで、全部が金属で覆われた世界になっているのだ。リンでなくても、興味は湧くよね。


「わたしも始めてきたけど……この建物って、どこまで続いてるのかしら?」


 アリスも当然のことながら驚いているようだ。


「どこまでというか、国土全体がこうなっておる」


「草木が無いの?」


 エシュリーの説明に驚きながら聞いてみる。


「無い」


「畑とか牧場とか無くて、どうやって生活してるの?」


「そこまでは知らん」


 知らないのか。


「この国の詳しいことなら、あやつらに聞くのがいいだろう」


 エシュリーが前方に視線を向けると、地面の一部がせり上がってきた。

 そこまで強くない振動が、足裏に響く。

 せり上がって出てきた空間に、数人の人影があった。


「ようこそ、蒸気機関の国スティレルへ。歓迎致します、女神エシュリーとアリス姫、それとモナカ様、リン様」


 現れた数人の中の、一番前方に立つ人物――ヘレナさんが、深々と一礼してくれる。

 ファルプス・ゲイルで、わたしたちをこの国へと招待してくれた人だ。

 赤髪赤眼と、長身のグラマラスボディが、いつもながら圧巻である。


「出迎えご苦労」


 エシュリーが、片手を軽く上げ、偉そうにふんぞり返る。

 いや、実際偉いのか?


「ヘレナさん、お久しぶりです」


 アリスは軽く手を振り、ヘレナさんに返す。


「お久しぶりです。――さて、外での立ち話もなんですから、早速屋内にご案内しましょう」


 リンにスピーダーを動かしてもらい、せり出してきた場所へと入れてもらう。

 全員が入ると、床が徐々に下がっていく。


「しっかし、想像とだいぶ違ったわ」


「と、言いますと?」


 わたしのつぶやきに、ヘレナさんが反応してくれる。


「えっ? あ……ああ、古めかしい家並みに、転々と工場が建ち並んでいる景色を、想像してたので……」


「蒸気と歯車の力により、都市を、国を、効率的な形へと変貌へんぼうさせていった結果であり、我々国民のほこりでもあります」


 説明している間のヘレナさんの表情は、それはそれはほこらしげであった。




 スピーダーをオープンカーモードにして、歩くヘレナさんたちと並走する。

 地下……なのかな? とにかく建屋内は物凄い広がりを見せていた。

 幅が十五メートルもある大通りに、行き交う人々の姿。

 道の両脇は壁が少し通り側に突き出ており、そこに扉がいくつも取り付けられている。何かの施設なのかお店なのかは分からない。

 扉周りも天井も、全てに大小様々なパイプが張り巡らされており、漏れ出る蒸気の白い湯気と音と熱が、満ち満ちていた。

 パイプの陰に隠れるようにして、歯車群がチラチラと姿を現す。

 伝えられる蒸気の圧力を、回転系やピストン系、様々な運動へと変換しているのであろう。


「秘密の要塞みたいだね」


 何もかもが目新しく、ある意味オシャレで面白い。

 リンも視線をあちこちに巡らせているが、スピーダーを運転中だし、事故らないか心配になっちゃう。


「ここは国境付近の街で、要塞も兼ねてますので全面がおおわれていますが、他の街は天井など無く、開放感がありますよ」


 ヘレナさん的には、ここは圧迫感のある街並みということか。

 まあ、それが秘密基地っぽく見える理由でもあるんだろうけど。


「ヘレナ、早々に王都へ案内してくれぬか? 国王に頼みたいことがあるのでな」


陛下へいかにですか? 来て早々、お会いになりたいとおっしゃって頂けるとは、国王陛下こくおうへいかもさぞ、お喜びになることでしょう。出来る限りの援助をして頂けると思いますよ」


 エシュリーの頼みを、好意的に受けてくれるヘレナさん。

 けど、エシュリーの頼みって……ひと悶着もんちゃく起きそうな気がしなくもない。


「あ、モナカモナカ。周りの扉、自動ドアみたいだよ」


 リンが指さす先を見ると、確かに、人が前に立った瞬間に開いているのが見えた。


「電気じゃないのよね?」


「扉の前の床が重量変化を捉え、歯車によって伝えられた力で開閉しているのです。床自体は実感出来ないほど微弱にしか動きません。その微弱な力を、扉の開閉が出来るまで大きくするのは、かなりの技術が必要なんですよ。微細な歯車の精度と強度が――」


「はぁ……」


 ヘレナさんが、大変詳しい工業レクチャーを初めてしまう。

 正直、機械関係はよく分かんないし、興味もあんまりないので、適当に聞き流しておく。

 通りを行く人たちの服装も、中世から近世にかけてのヨーロッパの衣装に、革製品や機械製品などのギミックが加わった、オシャレというかコスプレっぽいというか、絵になる感じのもので、興味をかれる。


「モナカ、あーいう服着てみたいの?」


 アリスがそっと耳打ちしてくる。

 息が吹きかかるので、ちょっとこそばゆい。


「うーん、可愛いかなーと思うけど、部品多くて着こなしが難しいよね」


「そこに挑戦して見たくなるじゃない。よーし、ひと段落したら、みんなでコーディネート勝負しちゃいましょう」


 すでに楽しそうなアリスを見て思う。

 コーデ勝負……アリスに勝てる気がしない。

 しないけど、まあ、楽しいか?


「そだね、お金もあるし、買い漁りましょう」


「やったー!」


 笑顔のアリスが抱き付いてきて、ほっぺたにキスされちゃう。

 こんな大勢の人がいる前で!?

 キスされたことより、それを周りに見られたかもという意識から、顔が熱くなる。どーしよう、これで顔が赤くなってたりしたら、さらに恥ずかしい。

 周囲を見回すが、エシュリーが半眼でこちを見ている以外には、周りの人たちはこっちに視線を向けていない。

 見られていないかな? いや、見てない振りだったとしてもそれに合わせよう。それが一番みんなが幸せになる方法だ。




「女神エシュリー、王都からの返答が来ました。陛下の署名もあり、歓迎の準備は整っており、直接会えることを楽しみにしているとのことです」


 空港の待合室にいるわたしたちに、ヘレナさんが伝えてくれた。

 そう、空港だ。

 スピーダーはすでに、これから乗る機体に積み込んでおり、リンもここで一緒に待機している。

 窓の外に、これから乗る機体が見て取れた。


「空を飛ぶ乗り物って初めて……」


 アリスが緊張のためか、わたしの腕を強く握る。


「湿原の国で乗りまくったじゃあないか」


「いやあれは、有翼人ルーファレティウスが引っ張ってただけだったし。あれ、機械の力だけで飛ぶんでしょう?」


 エシュリーの言葉を訂正し、アリスもその機体に視線を向ける。

 一言で言うなら飛行船だ。

 全長は三百メートル以上。

 外装は金属板で覆われており、黄土色のその姿は武骨ぶこついさましい。

 速度を出すためか、後部だけでなく、側面からも無数のプロペラが生えていた。

 下部の突き出た部分が操縦室そうじゅうしつで、その上に大きな乗客用デッキがあるようだ。


「わたしも初めてだけど、飛行船って。ちょっとワクワクするわ」


「我が国でも有数の巨大飛行船、ザッハトルテ二号だ」


「美味しそうな名前だね」


 有名なチョコレートケーキを思い浮かべる。

 湿原の国ディグレイス・メイルズでは、原始的な食事ばかりだったし、この国ではケーキ食べられればいいけどな。




 時間となり、飛行船へと乗り込む。

 乗客用デッキはガス袋にめり込んだような位置にあり、かなり広い。ラウンジやレストランもあるし、シャワー室や複数の客室もある。


「みなさま、本日は当機をご利用いただき、大変ありがとうございます。当機は間もなく出発いたしますので、イスから立ち上がらず、シートベルトを着用するようお願いいたします」


 そんなアナウンスが流れてから、ゆっくりと浮かび上がっていった。

 飛行機では無いので、滑走はしないし、Gもかからない。


「うわああぁぁぁ……」


 リンの歓喜の声が聞こえてくる。

 眼下に広がる、金属に覆われた大地。

 一生懸命に上がる煙と、忙しく動く歯車やカムに、なぜか人間臭さを感じたりもした。

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