第八話 魔法使いの少女
上空を飛ぶ無数の無人偵察機に、街中が騒然となる。
街中に被害が及ぶのも嫌なので、今回も街の外で待機するわたしたち。
前回、複数的に攻撃できなかったことを反省し、今回は手元に山盛りの石を用意しておいた。
そういう用意はしてたけど、正直、今回は向かってくる軍勢を前に、少々うんざりな気分だ。
「複数攻撃出来るようにしたとはいえ、これは……」
「モ、モナカさん、ふぁいとですー」
「奴ら、全力で来たようだな」
上空を飛ぶ、二十機前後の無人偵察機と無人爆撃機、地上には三十機以上の戦車やレーザー砲台、なんか分からない車両も何台か。それに千人近い歩兵も近付いてきている。
「旅団規模の兵力を向けてきたようね」
規模の単位とか分からないけど、たくさんってことだろう。
「今回は、アーリア少佐様は来てないかもね」
「なんで?」
「指揮官の階級で、従軍できる規模の上限が変わるの。少佐は大隊まで、旅団規模だと大佐クラス。一気に二階級上がったね、モナカ」
二階級特進って、死んだらなるんじゃなかったっけ? 感じ悪いわ。
しかし、アーリアさんが指揮官で無いのか、ちょっと残念。
てか……
「これ全部潰すのしんど過ぎるよ?」
「流れ弾も怖いです」
唯一普通の人間のニャンコは、怯えまくっている。当たり前ではあるが。
「さて、これどう潰すか?」
考えていると、かなり前方で部隊の侵攻が止まった。
最前列の装甲車のハッチが開き、おなじみの顔が出てきた。
「あ、アーリアさんだ」
来ていたようだ。
自宅の様の安心感。
「わたしは第二旅団第一機甲群所属のアーリア少佐だ! そこにいるモナカ、今すぐ投降せよ!」
拡声器での音声が、十分にここにも届く。
内容は毎度の投降のお誘いである。
アーリアさん、旅団所属の群の指揮官って、下っ端になったのか。
「ニャンコ、ナンバー〇〇一の魔法に攻撃魔法は無いと思うけど、イルミナルっていう神様の魔法に何かないの?」
めんどくさくなったので、ニャンコに振ってみる。
「えっ!? わたし、ですか? ……えっと」
話を振られたことに驚いたようだ。
自分が何かをするとは考えて無かったのだろう。
「イルミナルの教義は、不変であることを説いていて、悪しき変化を生む異質なものを排除することが、務めとなるのですが……」
「おお、なんか攻撃的だねぇ」
「その絶対封印の力が使えるのは、北の国の王都にある神器より、半径十キロ圏内だけなのです」
能力が限定され過ぎてて使えない……
「もう一度繰り返す! 栗入モナカよ、投降せよ!」
「あーもー行くわ!」
「いってらっしゃーい」
「いつもいつもすみません」
適当なエシュリーとお辞儀するニャンコの声を背に、まずは、投擲!
持ってた五つの石を上空にぶん投げる!
狙いたがわず、五機の無人機が炎を吹いて落下してきた。
「とりあえず、五機!」
さらに上空の標的へ十個投擲してから、前方へと走る。
風が全身に当たり、流れていく感触が気持ちいい。
軌道の見えにくいレーザーを気合でかわしつつ、一番手近なレーザー砲台を切り裂く。
わたしに向かって、五機の無人機が放ったミサイルを、戦車を投げ飛ばして受ける。
何人かの兵が銃を乱射するが、それは軌道を読んで避け切る――と思ったが数が多い、何十発か受けてしまった。
だがそれらは、ミスリルチェインに弾かれ無傷!
その兵士たちの群れに、切り裂いた戦車の砲塔をぶん投げて沈黙させる。
そこにさらなるレーザーが複数!
ああもう、うざい!
回避しながらさらに前進、剣をひとなぎ、もう一台のレーザー砲台を沈黙させるけど、まだまだ敵は沢山!
「だいぶ苦戦しているようだねえ、手伝ってあげようか?」
声と共に、この戦場に場違いな存在が現れた。そう、いきなり目の前に出現したのだ。
一人の少女――わたしとエシュリーの中間くらいの年齢かな?
柔らかそうな幼く可愛い顔立ち。紺色の髪のロングヘア。ゴスロリ服で身を包み、瞳は紫。
そして、頭に天使の輪っかが乗っかっていた。
「天使様?」
そこだけ時間が止まったような、不思議な感じがした。
周囲の兵隊たちも空気を読んだか? みな動かずにこちらを見ている。
「天使じゃあ、ないんだけどね」
いたずらっぽく笑い、少女が何ごとかつぶやいた。
何を言ってるのかなと思った瞬間、バーゼルの部隊が数十メートルはあるかと言う、巨大な炎の渦に飲み込まれた!
「ひぃぃっ!」
思わず悲鳴を上げてしまう。
炎は瞬時に消え、車両軍はまだ動いているが、歩兵は倒れていた。
少女はさらに上空に視線を向け、また何ごとかつぶやいた。
複数の光の矢が高速で飛んでいき、残った航空部隊に着弾、あっさりと撃ち落とされた。
さらに少女は何度もつぶやき、大地がはじけ飛び、巨大な竜巻が発生し、隕石が落下して、敵をどんどん倒していく。なんなんだこの子?
残ったバーゼルの部隊は、そのまま我先にと逃げて行ってしまった。
今回も勝ち、ということなのかな?
残っているのはわたしたち三人と、謎の美少女のみ。
「えっと、エシュリー、あの子なに?」
「あ、あれ……」
エシュリーが答える前に、ニャンコが震える指で少女を指さした。
「……幻魔」
「たしかにあれは、幻魔だな」
「前にも言ってたね、幻魔って」
「この世界にはたくさんの種族がおる。人間族や妖精族に竜族、モナカなんて超美少女だ!」
「わたしが変な生き物みたいに言わないで!」
「それで、全種族の中で、神や魔王に次いで魔法力が高いのが、幻魔と言う種族なのだ」
ふむふむ。神様がいるのは知ってたけど、魔王とかもいるんだ。やっぱりファンタジーだなーこの異世界。
けど、なんでニャンコは怖がっているんだ?
「ニャンコ、幻魔って怖いの?」
「何言ってるんですか! 幻魔は見たら死ぬって言われている、極悪種族ですよ!」
極悪なのか?
少女の方を向いてみる。あれ? いない。
「誰が極悪ですか?」
「ぎゃあああぁぁぁぁっ!」
いきなり目の前に現れた少女に、思わず驚くわたしとニャンコ。
なんなんだいったい。
「空間転移程度で驚くな、大した魔法ではない」
「偉そうに言ってるけど、エシュリーは使えるの?」
「神の力が戻れば、余裕で使える!」
つまり、今は何も出来ないと。
「えっと、幻魔さん、ですか?」
とりあえず、コミニュケーションを図る。
さっきの魔法連打で凄さは分かったけど、怖さはピンと来ていない。
「初めまして、幻魔のテルトウェイトだよ。十三歳、まだ半人前ですがよろしくね」
見た目通りの鈴の鳴るような可愛い声で返された。
しかしバーゼルの部隊をあっさりと壊滅させておいて、まだ半人前の腕なのか。たしかに凄い種族のようだ。
「幻魔が、わたしの土地に何の用だ?」
エシュリーさん、初対面で態度でかいですよ。しかも、ここロウニン男爵の領土ですが……
「えいっ!」
幻魔テルトウェイトが放つ魔力弾で、エシュリーがふっ飛んだ。
「ちょっ! 何をするか!」
「あれー? あれで無傷? まじなのかな?」
怒るエシュリーの体を、まじまじと見つめるテルトウェイトさん。
何か確認してるのか?
「えいっ!」
ちょっ! わたしがふっ飛ばされた!
何かが頬を伝うので手でぬぐってみると、血であった。
「ぎゃあああぁぁぁっ! 怪我した!」
慌ててニャンコが近寄ってきて、わたしにキュアーをかけてくれた。
おおっ! ニャンコが初めて役に立った! 出血が止まってる!
「ニャンコ! 初活躍おめでとう!」
「言い方が酷いですよ、モナカさん!」
そんなわたしたちを見ているテルトウェイトさん。
「うーん、やっぱり効くよねぇ。さすがは元神」
「わたしを知っているのか?」
「えいっ!」
電撃に打たれるエシュリー。けど、くすぶってるだけで、ノーダメージだ。すっごい硬いな。
確認事項は山ほどあるけどまず二つ。
「テルトウェイトさん、攻撃魔法は禁止の方向でお願いします」
「あ、珍しかったんでつい」
ついで人をふっ飛ばしてたのか……
「あと、テルトウェイトって長いんで、テルトって呼んでいい?」
「いいよ」
この謎の凶悪幼女、どうしようか……






