第七十八話 モテるってツラいね
「お疲れー!」
リンが、元裸の女の子を連れてきた。
今は、Tシャツにスカート、ソックスに革靴と、ラフではあるがちゃんと服を着ている。見覚えのある服だ。リンのを貸してあげてたんだろう。
「おお、そっちもお疲れー」
「大変だったわよー。リンが押さえつけている間に、わたしが服を着せてあげたの」
アリスがいかにも大変であったかのように、ため息をつく。
「そういえばその子、今は大人しいね」
「リンに敵わないと悟ったのか、急に暴れなくなったの」
うーん、言われてみると心なしか、瞳に光が無いような……
「みなさん! お手伝いありがとうございました!」
サラちゃんが深々と頭を下げてくる。
「それで、この子はどうするのだ?」
エシュリーが元裸の子を指さした。
サラちゃんがその子に近付く。
「それは……【空間転移】」
サラちゃんが触れた瞬間、女の子が消える。
「こうします」
「どこに送ったのだ?」
「王城です。後は向こうで何とかするでしょう」
結構大雑把だな。
「ささ、気を取り直して、観光に戻りましょう!」
サラちゃん、もう気持ちを切り替えたみたい。
まあ、そんな深く考えることも無いか。
その後は、湿原地帯を巡って巨大ワニを見たり、山岳地帯の翼長十メートルはあるかという巨鳥に追い掛け回されたり、全長五メートルのクモを見付けてしまいキモイキモイ連呼したり、いろいろと観光なのか冒険なのか良く分からないことをした。
帰りがけに女王様たち用のお土産として、ハナミツ酒の原料となるメリルカプスを摘んできたりもする。摘んでたら、首が七匹のヘビになっている馬に、炎を吹きかけられちゃったけど……
「みなさん、お疲れ様ですー!」
「……うん、ケガとかは無いけど……いろいろと疲れたわ……」
お城のサロンみたいな部屋で、ソファーに寝転がる。
羽を逃がすためだろう、イスの背もたれはかなり低く、それにもたれかかることは出来ないのだ。
「うん、わたしも疲れたよー」
アリスがわたしに覆いかぶさるようにして寝転がってきた。
大き目のソファーは部屋に二つしか無くて、一つにはリンとエシュリーが一緒になって寝てるし、ここしか場所が無かったということ――にしておこう。
「どうだったかな? 我々の領土は?」
突然、サラちゃんとは違う、澄んでいて気品ある声が、部屋の中に流れこんだ。
「あ、レッドクイーンさん」
いつの間に入ってきたのか、レッドクイーンとお付きのメイドが二名、部屋に入って来ていた。
さすがに女王様の前で寝転がってるわけにはいかない。
みんな起き上がり、姿勢を正す。
「そんなに、畏まらなくてもよいぞ」
レッドクイーンさん、顔が笑っている。
今日はとっても機嫌が良さそうだ。
「うむ、なんってったって、わたしの下僕だからな」
エシュリーだけ、リンに膝枕された状態で寝たままだ。
「エシュリー、主神なんだから、ちゃんとしなさい」
「えー」
文句を言いながらも、起き上がってくれるエシュリー。よろしい。
「何といいますか、この国の動物をたくさん見ましたが、みな凄い攻撃的で驚きました」
「アリスの言う通りだよねー。何度も戦うことになっちゃった」
外して立てかけてある剣に目を向ける。
寝る前に、メンテしないとなんないんだよなー。メンドーだー。
「強いものだけが生き延びられる世界だから、自然と凶暴な生物ばかりになっていったのであろう。もし、領土を巡っていたのが普通の人間であれば、既に食われて終わっていただろうて」
レッドクイーンが、わたしの左に座る。
右に座っているアリスが、わたしの腕を掴み、少し引っ張ってきた。
「だが、お前は傷一つ負わず、戻って来れた」
レッドクイーンの透き通るような輝く黄金の目に射抜かれて、ちょっと緊張してしまう。邪眼か何かじゃないだろうな?
少し、顔が近い気もするけど。
「それは、モナカやエシュリー、リンが強いからよ」
アリスが力強くわたしを引っ張るもんだから、そのまま抱きかかえられる形になってしまう。
「そうだよー、わたしたちはすごーく強いんだから」
いつの間にこっちに来たのか、リンがアリスを背中から抱き込む。
「そーそー、だからおいたはダメだぞー」
エシュリーが、わたしとレッドクイーンの間に顔を割り込ませてきた。
今度はエシュリーがレッドクイーンとにらめっこする形になる。
レッドクイーンは一瞬、キツネにつままれたような表情を見せたかと思うと――突然、笑い出した。
「あはははははっ。そうだな、悪ふざけはやめておこう。わたしでも、この面子には手も足も出んだろうな」
レッドクイーンは、ひとしきり笑ってから、立ち上がった。
「さて、今日はメリルカプスの花をたくさん持ってきてくれたんだったな。感謝するぞ」
「はあ……」
これは、みんなに助けられたことに、なるのかな?
レッドクイーンが何をしたかったのか、今ひとつ分からない。
「お礼といってはなんだが、明日を楽しみにしておいてもらおう」
レッドクイーンは「またねと」と言って、部屋を出ていってしまった。
「あー、なんなんだろうねー? 変な人だ」
「あれ? モナカは気付かなかったの?」
アリスに、笑顔で見下ろされる。
あ、抱き寄せられた態勢のままだった。
起き上がろうとするが、アリスがそれを手で押さえて押し留めてきた。
「アリス?」
「疲れてるんでしょ? もう少しこうしていなさいな」
「疲れはあんまり感じて無いかな。アリスも疲れてるでしょ?」
「いいから」
有無を言わさぬ強い口調だ。
「はい」
逆らわず、このままの体勢でいよう。
「レッドクイーンは、モナカに惚れちゃったんだよ」
「はい?」
何を申すかエシュリーさん。
「やっぱりー」
リンもそう思ってたらしい。
「なんか、キスしたそうだったもんね」
「そ、だからみんなで守ってあげたんだよ?」
「そーなん?」
「そーなん」
なんなんだろーこの真相は。もっと大層なもんかと思ってしまったよ。
「モナカはもっと、自分がモテるって自覚しないと」
アリスの手で両側からほっぺたを潰されてしまう。
変な顔になってそうで、ちょっと恥ずかしい。
「ふ、ふぁーい」
なんでこんなにモテるのかな? 美貌かな? やっぱりこの美貌かな?
「にへへへへっ」
「モナカ、笑い方気持ち悪いー」
「気持ち悪い言うなー」
エシュリーに足で軽い突っ込みをくれてやった。
湿原の国三日目。
今日もサラちゃんが門の前で待ってくれていた――んだけど……
「今日は、人が多いね?」
サラちゃん以外にも、十人くらい集まっていた。
サラちゃんは昨日と同じなんちゃってスーツだけど、他の子たちはみんな武装している。
「はいはい、おはよーございます、みなさん! 今日は工事現場に案内するよう言われておりまして!」
「工事現場?」
「はい! これから新しく、島を作ります!」
「おお! ……って、それ、危険なことってない?」
何せお花を摘むだけで、火を吐く魔獣に襲われる国なんだから。
「そんなに凄いことは起こりませんよー。ただ、衝撃でビックリした動物たちが飛んでくるくらいでー」
やはり、襲われるようだ。
「……ちなみに、何が来るの?」
「うーんと、空飛ぶエイとかー、頭がヤギの鳥とかー、ですかねー?」
……微妙に、危険なのかそうじゃないのか、判断し難い。
「ささ、行きましょー! 行きましょー!」
「ちょっ!? わわ!」
サラちゃんに押される形で無理やり人力車に乗せられる。
そのまま飛び立つ。
今回は、戦闘せずにビックリするくらいで収まらないかなー? 収まりそうもないなー。




