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第六十九話 北国さようなら

 カーテンの隙間から差し込む朝日に、少しの熱を感じ、目が覚めた。

 布団をかぶっていない首から上の部分が、外気の寒さにあてられて、そこだけ凍ってしまいそうな気になる。

 まだ明かりは灯されておらず、カーテンの閉められた部屋の中は薄暗かった。

 わたしの隣で寝ているエシュリーは、まだ夢の世界に居るようだ。

 まだ、誰も起きてきてはいない。いや、テルトは寝ないからリビング辺りで漂ってるかもしれないけど。

 時計は見ていないけど、もう少しベッドの中でまどろんでいようと思い、布団の中へ潜り込む。

 一緒の布団に入っているためだろう、中では自分の匂いとエシュリーの匂いが入り混じっていた。

 嫌いではない、むしろ好きな匂いを、ゆっくりと自分の中へと吸い込む。

 布団の中で温められた空気が、体内を侵食し、ふわふわと気持ちの良い気分になっていく。

 もうちょっとぬくもりが欲しくなる。

 ちょうど横に転がっている温かい生き物を抱き寄せる。

 たまにこうしているけど、あったかいぬいぐるみみたいで、非常に抱き心地がいい。

 わたしが潜り込んでいるため、目の前にエシュリーの胸がくる。

 可愛らしい胸に、顔をうずめている。

 そこそこの柔らかさがあっていいものだ。

 ふと思う。ニャンコの豊満ボディーだと、もっと気持ちいいのかな?

 確か今日が、一緒の部屋で寝る最後のチャンスなのだ。

 思い立ったが何とやら、わたしはベッドを抜けて、ニャンコの寝ている部屋へと向かった。




「――というわけなんです」


 アリスとニャンコの前で正座させられたまま、理由を述べた。

 そう、わたしに抱き付かれていることに気付いたニャンコが、とっさに悲鳴を上げることになった理由を……


「なんでそれで、ニャンコの服が脱げていたのよ!」


 アリスが珍しい強い口調で、詰め寄ってきた。

 アリスの匂いって、高級な香水みたいで、これはこれでいいなと思ってしまった。


「えっと……抱き付いた時に、服がゴワゴワして邪魔だなーと思い……」


「それでモナカさんも脱いでいたんですか?」


 質問に対し、うなずく。

 自分でも、なんでそうしたのか分からない。

 たぶん、寝起きのテンションっていうやつだろう。


「いやほら、最後だし、肌の触れ合いを――」


「いや、しないだろ普通」


「エシュリーまでー」


「そういえば、モナカは抱き付き魔だよな。毎朝、わたしに抱き付いているし」


 あ、気付かれてた。


「そうなの!?」


 アリスがわたしの両肩をすっごい勢いでつかんできた!

 顔が近いし!


「ほら……朝は寒いし……」


「なら、わたしのベッドに来なさいよ! メチャクチャ抱いてあげるから!」


 アリスの目が血走っている。

 ちょっと怖い。


「アリスさん、そーいう問題ではないかと……」


 ニャンコは、深々とため息を吐いた。


「しょうがないですねー。モナカさん」


「はい!」


 指名されて、思わず大きな声が出ちゃった。


「今度うちに遊びに来てください。そしたら抱っこしてあげますから」


 いたずらっぽくウインクされる。

 めっちゃ可愛い。


「うん! 絶対また来るから!」


「うわーっ! モナカがニャンコにまで浮気したー」


「アリス!? そんな人聞きの悪いことを……」


 何か言いに来たのか、リンも部屋に入ってきた。


「モナカが浮気性なのは、いつものことじゃん」


「いやいやいや、そんな事実はどこにもございません」


 風評被害がはなはだしい。


「まーいーや。それより、朝ごはんにしようよ」


「そうだな、ごはんにしよう」


 エシュリーを筆頭に、みんなリビングへと向かって行った。

 ふう、やっと解放された様だ。

 と思って入り口を見たら、テルトが覗いている。


「うん?」


 テルトがニヤリと笑っている。


「いやー。モナカはいつも通りだなーって」


「どういう意味だ!」




 リビングは、昨日の飾り付けのままである。

 昨夜のテンションは今は無く、普通に朝食を取っていた。

 メニューも、パンにジャム、野菜サラダに昨日の残りのスープ、それとチーズと、至ってシンプルである。

 お別れはもう済んでいるので、みな、気楽になっているんだろう。




「それでは、行ってまいります」


 大きな荷物を両手いっぱいに持ち、ニャンコが最後のあいさつをする。

 ホテルの前でお別れだ。


「テルトも、お元気で」


「うん、またねー」


「行ってらっしゃーい!」


 わたしは手を大きく振って、ニャンコを送り出した。


「ニャンコ、政治は体力よ! しっかり食べて、ちゃんと運動もしなさい!」


 アリスが激励を飛ばす。


「えっと、がんばってー!」


 リンも声を張り上げた。


「わたしの銅像を建てるように言っておいてくれー!」


「なんじゃそりゃ?」


 エシュリーのは、別れのあいさつか?

 ニャンコは笑顔で手を振ってくれているが。


「神である以上、ご神体が必要ではないか」


「そーだけど……いや、そーなのか?」


 みんなで、ニャンコの姿が見えなくなるまで見送った。




「では、わたしの番だね」


 テルトが魔法の詠唱を始めた。

 テルトの荷物や報酬などは、ファルプス・ゲイルの屋敷に保管しておくことになっている。

 なので、手ぶらでの旅路だ。


「行ってらっしゃーい!」


「ファルプス・ゲイルの館は、あなたのものでもあるんだから、いつでも来なさいな」


「わたしも、待ってるからねー」


「うむ、その、また会おう」


 エシュリーの言葉が終わった瞬間、テルトの姿が消えた。

 分かってはいたけど、実にあっけない別れだ。

 ちょっと寂しい気持ちになってしまう。




 ホテルの部屋に戻ると、飾り付けがそのままなのが、一層寂しさを感じさせた。

 ついでに、片付けあるんだなーという疲労感にも襲われる。


「さて、うちらはどうしようか?」


 みんなに聞いてみる。


「もう、この街も見尽くしたし、旅行も終わりかな?」


「そーねー、ファルプス・ゲイルに戻って、お父様に今回の経緯いきさつを説明しないといけないし」


 アリスの言葉に、しみじみ思う。


「ホント、いろいろあったよねー」


 ただの観光目的だったのに、巨人に知り合いが出来たり、巨人の王に会ったり、神様に会って戦争に巻き込まれ、最後には国を二つも手に入れちゃったんだ。


「うむ、もはやわたしが最高神と言っても過言ではないのだ」


「エシュリーが、最高神?」


「その通り! いまのわたしは神様二人分の力があるのだ!」


 レモン二個分のビタミンC、というフレーズが頭に浮かんだ。


「あっ」


 エシュリーが何を思い立ったのか、こちらに寄ってきた。


「うん?」


 ソファーに腰かけたわたしの足の間に、割り込んできた。


「どーした?」


「いいじゃあないか」


「まあ、いいのか」


 そのまま抱っこしてやる。

 何やら甘えたくなったのかな?


「なら、わたしはこっちー」


 アリスがわたしの右隣に座って、腕を絡めてきた。


「なら、わたしはこっちをー」


 リンは左側に座った。


「みんな甘えん坊さんになったのか?」


「そーゆーこと」


 アリスが笑顔を向けてきて、わたしの唇に指を当ててきた。

 無粋なことは言うなってことか。


「それで、いつ出発する?」


「そーねー、もう今日出てもいいんじゃない?」


「さんせー」


 アリスが言って、抱き付いてきた。


「うむ、報告も急いだ方がいいだろう。帰りはわたしが運んでやろう」


「うん? みんなを背負って走って帰るの?」


次元の扉ゲートを空けてやるということだ!」


「うーん……」


 ちょっと悩む。

 帰路も旅の情緒の一つと思うが、一週間以上かかるもんねー。


「お願いするか」


「よろしい」


 エシュリーは、神の力を手に入れて、ますます偉そうになっていくけど、ホントに偉いんだからしょうがないか。




「長い間ご滞在いただき、誠にありがとうございました!」


 チェックアウトするときに、従業員全員が一列に並んでの礼をされてしまった。

 ホテルに宿泊費を金貨二百枚も払うなんて初めてだったし、何度も使ってるから上客扱いになったんだろう。

 人数分のお土産ももらってしまった。


「あ、お土産!」


「そうよ、モナカ! お父様とか、みんな用に買って行きましょう!」


 今までも置物とか衣類などを買ってたけど、お菓子とか食材関係はまだ買ってない。

 今度、全員に金貨二十万枚入ってくるのが分かっているので、思い切り散在しまくった。




「【次元の扉ゲート】!」


 スピーダーに乗ったわたしたちは、エシュリーの作ったゲートに入って行く。

 あまりにも散在したための効果か、周りには各店舗の方々などがお見送りに集まってたりする。


「VIP待遇だねえ」


 リンがあきれ半分で言ってくるが、エシュリーなんかノリノリで、みんなに手を振りまくってる。


「さあ、帰りましょう!」


「うん! 久しぶりの我が家へ!」

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