第六十八話 ホテルでのパーティー
ホテルの部屋にはレンガ造りのオーブンもある。
晩ご飯はグラタンを焼いてみることにした。
人数分のグラタン皿に、漬けにされたサーモンやベーコン、ジャガイモにブロッコリーと鳥肉も入れちゃう。
「ニャンコ、食材準備で来たよー」
ニャンコはコンロでホワイトソースを作っているが、ボーっとしてるっぽい。
なんか、焦げ臭いかな? って、ヤバ!
「ニャンコ! 焦げてる!」
「ほえ? あっ、す、すみません!」
急いで火から上げて、それをそのままこちらに差し出してきた。
鍋の方を向けるなー!
「ちょっ、危ないって!」
「ああああっ、すみません!」
いい感じにテンパってるな。
受け取った鍋から各皿に、ホワイトソースを流し込んで、上からチーズをふりかける。
オーブンに入れてあとは待つだけ。
「ニャンコは休んでなさいな」
「はい、そうします」
リビングへと歩いて行くニャンコ。
肩が落ちている訳でも無いし、目にも決意みたいな輝きがある。
辛いことがあったとか、問題があるとかとは違うようだ。
うーん、なんだろーな。
「わたし、みなさんとは行かず、この国に残ります」
夕食時、開口一番ニャンコがそう告げた。
「王様とかになんか言われたの?」
「はい」
ニャンコは小さく、しかしハッキリと答えた。
「イルミナルもナンバー〇〇一も、この国の神の座からいなくなったこと。さらにバーゼルと明確な敵対関係となったことから、現在国内が混乱しており、先日の戦での功績のあるわたしに、混乱を静める手伝いをして欲しいと話しがあったのです」
「そーなのか」
ここはニャンコの国だもんね。何とかしたいよね。
「それで? ニャンコはその申し出を受けたの?」
アリスは問いかけているが、声色に不安も怒気も無い。
普通に確認したいだけみたい。
「はい、引き受けると答えました。みなさんに相談する前に決めてしまったのは心苦しいですが、わたしの故郷の人たちが困っているのを、見過ごせないと思ったのです」
「それを言われたら、引き留めるわけにもいかないよね」
リンだけは、話しだけに集中せず、ちゃんとグラタンを食べている。
食欲に忠実な子だ。
「えっと、いつから国のお手伝いをするの?」
テルトはニャンコの周りを浮遊している。
ホントは抱きしめたいのだろうが、今の体では出来ないからね。
「明日一日、お別れのための日をもらいました。明後日からナンバー〇〇一のお手伝いをしようと考えています」
「明後日かー。うん、ならわたしも」
「うん? テルトもニャンコの手伝いするの?」
「いやいや、違うよ」
今度はわたしの方に飛んで来た。
「精神体になったら、国へ報告しないといけないんだ。それに、大人になってから学ぶ術とかもあるから、どっかのタイミングで帰ろうかと思ってところだったんだ」
成人したんだもんね。
報告しに帰るのは普通だろう。
「ニャンコと一緒に、お別れ会ってところか」
「そーいうこと」
「一気に二人減るとなると、なんか寂しいね」
リンがしみじみと言う。
「テルトもお別れなんですね。なら、明日は盛大にお別れ会を致しましょう」
「ニャンコ、別れる人が会を開こうとか言っちゃあだめだぞ。それはこちらの仕事だ」
「そうですね、お任せします」
楽しみにされてしまった。
さてさて、どんな会にしよう。
翌日、送別会用の物資調達のため、みんなでお出かけすることに。
ホントはテルトとニャンコに待ってもらって、四人で行こうとも考えたんだけど、今日しか一緒にいられないし、一緒に出掛けようとなったのだ。
買うのは飾りつけの道具と、料理の食材だ。
「ケーキも作る?」
リンが聞いてくる。
「もちろんよ! でっかいのを作りましょう!」
アリスはめっちゃやる気出してる。
「わーい!」
「むむ、パーティーならば、これも必要ではないか?」
エシュリーが見ているモノ、それは酒屋だった。
「お酒は大人になってからだよ?」
「うぉい! わたしは数千歳だぞ!」
確かに年齢問題はクリアーしてるのか?
エシュリーがお酒を飲んでいるシーンを想像する。
どう考えても、絵面的にまずい……
「それ以前に、飲めるの?」
「問題無い!」
「わたしは飲まないけど」
「えっ?」
「わたしも飲まないよ?」
わたしに続いて、アリスも飲まない宣言。
「ええっ!?」
「わたしも」
「あの、わたしも飲みませんね」
「わたしはそもそも精神体だから飲め無い」
「わたしだけか!?」
「健康的なパーティーでいいじゃない」
「……リンゴジュースにするか」
結局エシュリーは折れて、ジュースにしたようだ。
これはまあ、仕方ない。
わたしは昔から、飲めはするけど、どーにもアルコールの味が好きではないのだ。
「さて、飾りのための道具が揃った! さっそく始めましょう!」
「おー!」
飾りつけ担当は、わたしとエシュリー。あと、ニャンコとテルトも今回の主賓だけど手伝わせた。
みんなが作業してるときに何もさせないのも、居心地悪いだろうし。
なにより、こういうことは、みんなでやることが楽しいのだ!
ちなみに、アリスとリンは料理担当で、今はキッチンで奮闘している。
ホテルの壁にビス止めは出来ないので、テープ止めで対応。
カラフルな旗や動物飾りのガーランド、フラワーポムなどをペタペタ貼って回る。
リーフも飾ってみたけど、クリスマスみたいだなこれ。金の鐘と赤いリボンを巻きつけたら、益々そうなった。
テーブルクロスは、白とピンクのを斜めに交差させて敷き、その上に花瓶と造花を用意。
丸形や星型など、様々なバルーンもリビング一杯に浮かべてみる。
イスの背もたれにカバーをかぶせる。後ろに可愛い動物の刺繍がされているもので、かぶせたときに横に伸びた顔になってて、見た目が可愛い。
「できたー!」
我ながら、なかなかの出来だと思う。
全体的に、赤、白、銀、ピンク、水色と、明るめの色で統一された。
「なんか、騒がしいな」
「こーいうのは、うるさいくらいで丁度いいのよ!」
「明るい会になっていいですね」
「そーだね」
ニャンコとテルトには高評価である。よかったー。
「お料理持ってくよー」
「はーい」
料理担当のリンとアリスが次々と料理を運んでくる。
まずは、でっかい鳥が登場だ。
鳥が丸ごと売っていたので、香辛料や香草を塗り込んで、丸焼きにしたのだ。
他に、豚と羊の合いびき肉を使ったミートボールに、きのこシチュー、サーモンのマリネ、それに各種野菜をブロック状に細かく切って炒めたもの。
結構ボリュームがある。
これに、食後のケーキがあるのだ。
リンゴジュースをみんなのグラスに注ぐ。
「ニャンコ、テルト、今まで一緒に冒険してくれてありがとう! 離れ離れになっちゃうけど、これからもずっと友達だよー!」
「かんぱーい!」
互いのグラスをぶつけ合い、パーティーが始まった。
大量の料理が並んでいて、食べきれるかなとも思ったけど、意外と皿が空になっていった。
食事をしないテルトが、たまにエシュリーに絡んだり、みんなのところに順番にまとわりついてくるところも楽しかった。
食事が終わり、大きなホールケーキが切り分けられた辺りで、わたしとアリスが、ニャンコとテルトにプレゼントを渡した。
準備の間にコッソリと作成した寄せ書きである。
わたしはニャンコには「ニャンコっておっぱい大きいね! 今度遊びに来た時に揉ませろー!」、テルトには「精神体でも抱けるようになってやるー!」って書いた。
アリスとリンには爆笑されて、エシュリーには最後にそれは無いだろうと呆れられたが。
ニャンコも笑顔が浮かんでいる。
そこに一滴の涙が流れ落ちた。
「これから、一緒にいれなくはなりますが、みなさんはいつまでも友達です。みなさんに会えて、本当に良かったです」
わたしの胸に顔をうずめてきたので、優しく抱いてあげた。
こうやって抱きしめてあげるの、初めてだったかもしれない。もっと抱きしめてあげればよかったな。
「わたしも楽しかったよ! エシュリーとか、ほんと反応とか面白かったし」
「うぉい!」
エシュリーが思わず掴みかかりに行くが、精神体なので触れない。
「実体化できる術とかもあるから、夢幻界に帰ったら、習得してみるよ。そしたらモナカも抱き付けるでしょ?」
「おおう!? それは是非とも習得してきてよ!」
可愛いテルトをまた抱けるのか!
「わたしも、またお会いしたいですね」
「うん、修行が終わったら、また遊びに来るから」
最後に食べたケーキは、甘く、美味しかった。




