第六十七話 エシュリーン
首都の大聖堂は、観光で来たことがある。
第二都市サンティにあった大聖堂よりも、こじんまりしていた印象だ。
ナンバー〇〇一のお付きの神官たちを先頭に、大所帯で歩いて来たのだった。
ちなみに、イルミナルとフリューネクスには、エシュリーの服を着させている。
イルミナルは、エシュリーとそれほど変わらない体型なのだが、フリューネクスは二回りほど小さい。ちょっとブカブカなのは我慢してもらおう。
大聖堂の会議室に案内される。
会場は広く、中央にUの字に配列されたテーブルと、その前に議長席が設けられていた。議長席は今は空席である。
Uの字の外側にも、いくつか机が設置してあり、そこには書記から給士まで、いろいろな補佐がいた。
席に付いている大半は、銀髪であることから、この国の人間だなと分かった。
大臣とか偉い人たちだろう。
他に五名。
羽の生えている、金髪の有翼人たちがいた。
全員に向かい、ナンバー〇〇一が一礼する。
「ただいま戻りました。イルミナルとフリューネクス、それとエシュリーを連れて参りました」
紹介された三幼女がお辞儀をすると、会場から大きなどよめきが起こった。
フリューネクスとか、雰囲気に飲まれちゃわないかと心配したが、平然としている。こういうところは、さすが女神様である。
「初めまして、イルミナル、エシュリー、それとフリューネクス。わたしはこの国の――いや、元この国の王を務めておりました、ペブロチーネと申します」
装飾の施された衣服を身にまとった中年男性が立ちあがり、わたしたちに自己紹介をしてくれた。
今度は、有翼人の一人が立ち上がった。
左右にいるフレイアとラグナが驚いた顔をしている。
初めて見る顔だ。
金髪で端正な顔立ちの女性というのは有翼人全体の特徴であるが、着ている赤のドレスの効果か、かなり強い存在感を示している。
「ペブロチーネがあいさつをしたなら、わたしもしなければなるまい。元湿原の国の女王、レッドクイーンだ」
そのまんまな名前だ。
その存在感に視線が釘付けになっていると、レッドクイーンと目が合ってしまった。
フレイアやラグナ以上の威圧感を感じ、目を逸らしてしまう。なんか怖い人だわ。
「ナンバー〇〇一、女神さまたちにも自己紹介をして頂きたいと思いますが」
「ペブロチーネ様、承りました。さあみなさん、こちらへ」
ナンバー〇〇一にうながされ、正面の議長席へ進む。
うう、こんな偉い人たちの前で自己紹介とか、緊張するなー。
何やら幼女神さまたちがヒソヒソ話しを始めた。
「――や、――わたしが――中央が――」
「――わたしの国だったし――いや、隣は――」
「――エシュリー目立ちたがり――わたしが?――」
どうやら立ち位置で揉めているらしい。
様子を見かねたのか、アリスが間に割って入る。
エシュリーを議長席に立たせ、イルミナルとフリューネクスを両サイドに立たせた。
「これが妥当でしょ?」
「うむ、これで良いのだ」
「これなのか、うーむ……」
エシュリーは納得してるが、イルミナルは微妙な顔をしている。フリューネクスは、あんまりこだわり無いみたい。
「さあ、女神エシュリーからごあいさつを」
ナンバー〇〇一が促してくる。
迷子の幼女神さまを連れて来ただけなのに、なし崩しに会議に参加させられてしまった。
「うむ!」
エシュリーが、両手を大きく開く。
「みなの者! わたしが二つの国を平定した女神エシュリーだ! これからは、わたしがきさまらを支配してやろう! ふはははははぐひゃっ!」
調子に乗ってきていたので、頭に手刀を食らわせた。
周囲から失笑が漏れ聞こえた。ちょい恥ずかしい。
「普通にあいさつできないのか!?」
「モナカー、ちゃんとしたあいさつだよー」
「きさまらを支配、の、どこがよ!?」
「似たようなものなのに……」
エシュリーは頭をさすりつつも、前へ向き直った。
続けるらしい。
「えーっ、つまりは同じ国になったんだから、お互いに仲良くしていきましょう。――どう? モナカ?」
「ええい、いちいちこっちに話し振るな! 恥ずかしいじゃないか!」
「エシュリー、モナカ、ここでは漫才は必要ないと思うよ」
リンにまで呆れられてしまった。
「大丈夫よ! モナカとエシュリーらしさが出ていて、掴みはバッチリよ!」
お姫様のアリスには好評だったようだ。
ホントに、バッチリかなー?
続いて、イルミナルが紹介を始めた。
「この姿でみなに会うのは初めてだな。わたしがイルミナルだ。この様な姿となっておるが、未だ女神であることには変わりない。いつかは、このエシュリーを倒してこの国をうあっ! なにをするエシュリー!」
イルミナルの演説の最中に、エシュリーがぶん殴ったのだ。
「キサマに倒されるわけが無かろう」
ケンカになるかと思ったら、間にフリューネクスが割って入った。
「みんなの前でケンカはダメ」
「おー、フリューネクスはエライねー」
可愛かったので、思わず頭を撫でてやった。
「モナカ! 今朝から様子がおかしいが、まさかフリューネクスに浮気したのか!?」
「人聞きの悪いことを言うな!」
「静かにして、わたしの番」
フリューネクスに叱られて、ちょっぴり傷ついてしまった。
おのれエシュリーめ、あとでこめかみグリグリの刑に処してやろう。
「有翼人のみんな、おひさまー」
おひさまってなんだ? お久しぶりのことか?
「わたしがフリューネクスです。わたしたちをコケにしてくれたバーゼルに、復讐しましょう」
「おー!」
フリューネクスの言葉に、五人の有翼人が歓声を上げた。
「……モナカ」
「なに?」
「フリューネクスは叱らないのか?」
「特に問題無かったし」
「不公平だー!」
いや、不公平では無いと思う――たぶん。
ナンバー〇〇一が、議長席の前に出てくる。
「みなさんの中には知っている方がおられるかもしれませんが、今回の戦の立役者である方々も、ご紹介したいと思います。モナカさんからどうぞ!」
「え!? わたしも!」
「はい、お願いします」
笑顔で返されてしまった。
やっぱ、ナンバー〇〇一が、前に合った時と変わったというか、ラフになった感じがするな。
わたしたち五人が順に自己紹介するも、それほどの反応は無かった。
ニャンコが自己紹介したときに、救国の英雄だ聖女だという声がささやかれたくらいだ。
それから会議が永遠と続いた。
会議に出る気が無かったのに、なし崩しで参加させられたせいで、テンションは最悪である。
正直帰りたかったけど、ナンバー〇〇一が返してくれなかったし、エシュリーのみならず、アリスやニャンコも興味津々だったので、結局付き合うことに。
この会議の一番の目玉である、統合国家の名前決めについては、エシュリーが率先して意見していた。
「わたしの国なのだから、エシュリーンにするぞ!」
あだ名か!?
「それでは、そのようにしましょう」
ナンバー〇〇一があっさりと了解した。
「いいの!?」
「こちらに異存はない」
元北国の王様も問題無いという。
「こちらも同じく」
厳しそうなレッドクイーンまで同意してしまった。
決定、エシュリーン。
となりのニャンコに耳打ちする。
「いいの? エシュリーンで」
「はい、素晴らしいネーミングだと思います!」
そういえば、北国の人たちって、ネーミングセンスがおかしかったんだっけ?
有翼人も、まさか、おかしいのか?
もう一つ、わたしたちにとっての目玉の議題があったんだ。
エシュリーが議長席で立って、みなに叫ぶ。
「我々は、この戦でバーゼルによって二国が支配されるのを防いだ! その功績は大きい! よって、相応の報酬を所望する!」
「女神エシュリーは、二国の支配者になられたというのに、まだ不服なのですか?」
ナンバー〇〇一がそっと告げる。
「モナカたちにも褒美を与えたいのだ」
「おお、エシュリーも案外、いい子じゃない」
「案外は余計だ」
ナンバー〇〇一が、ペブロチーネ王に問いかける。
「ペブロチーネ様、よろしいですか?」
「うむ、十分、その権利はあると考える。おい」
背後の人たちを呼びつける。
「金貨六十万枚を用意しておけ」
「はっ、至急準備いたします」
「ろっ!?」
リンにも聞こえたのか、驚きの表情である。
一人金貨十万枚だ。
二国の支配権まで持っている。
一生遊んで暮らせるだろう。
「こちらも出さねば示しがつかんだろう。女神エシュリー、こちらも金貨六十万枚用意しておこう」
「おおおおーっ!?」
「だ、大丈夫!? リン!」
「わたしたち、そんなにもらっていいんでしょうか!?」
ニャンコも震え出した。
「いいんじゃない? くれるならもらっておきましょう。当面のお小遣いになるわ」
さすがお姫様のアリス。合計金貨二十万枚がお小遣いか。
「わたしもいいと思うよー」
テルトもいつも通りサッパリしている。
すぐには手渡されないだろうけど、わたしたちは膨大な報酬を得ることが出来たのだ。
最後に、統治自体は北国も湿原の国も、現在の者が引き継ぐことで合意となった。
会議終了後、わたしは特に何かした訳でも無いけど、盛大に疲れを感じ、机に突っ伏した。
ニャンコは、国王とナンバー〇〇一に呼ばれて何やら話している。早く帰りたいな。
大聖堂を出たら、すでに街は夕日に染まっていた。
今日一日は、有意義だったのか、無駄に過ごしたのか、微妙な感じである。
イルミナルと、フリューネクスは、それぞれの指導者にお返しした。
「今度、遊びに来てね」
別れ際に、フリューネクスに言われた。
最後まで可愛い子であった。
「さて、晩ご飯はどこで食べましょうか?」
「えっと……モナカさん、みなさん……話しておきたいことがあるんですが……」
いつになく真剣な顔のニャンコだ。
「どうしたの?」
「こんな所で立ち話もなんだし、今日はホテルの部屋で晩ご飯を食べよう! そこで話してよ」
リンがわたしとニャンコの肩を抱いて、歩き出した。
「うーん、それでいい?」
歩きながらニャンコに聞いてみる。
「はい、その方が気楽に話せそうです」
どんな話なのだろう? ホテルへと向かう間、なんとなく不安な気持ちにさせられた。




