第六十六話 ぬいぐるみが足りない
朝ごはんが終わると、さっそく二人の幼女神さま――エシュリーとイルミナルが、戦いという名の遊びを始めていた。
エシュリーが分別をわきまえて魔法を使ってないので、お互いに殴る蹴るの戦いになっている。
フリューネクスは、ソファーでくつろぐわたしの足の間に入り込んで、座っている。
「フリューネクスは、エシュリーとかイルミナルと戦ったりしないんだ」
「わたしが力を失った原因はバーゼルだから、二人は恨んでいない」
「バーゼルは恨んでいるの?」
フリューネクスは淡々と首を縦に振った。
「だから、エシュリーにはガンバってもらわないと」
「エシュリーってそんなに強くなってるのかな? 実感わかないけど……」
イルミナルとじゃれ合っているエシュリーを見る。
お互いに拳で顔面を殴り合っているのに、まるでダメージが無さそう。
どうにも勝負は互角のように見えるのだが……
「バーゼルの戦艦もエシュリーが壊した。この部屋にいる中で一番強い」
「けど、今のイルミナルと互角に戦っているけど?」
「イルミナルは……力は失っても、防御力は健在だから」
元のエシュリーの状態か……この二人も。
部屋の扉が開く音が聞こえた。
用事をお願いしていたニャンコが、戻ってきたのだろう。
「モナカさん、フロントの人にナンバー〇〇一を呼んでもらうよう、お願いしました」
「ニャンコありがとー」
いつまでも幼女をココに置いておくわけにもいかない。
保護者に来てもらおうという訳だ。
「エ、エシュリーいいいいぃぃぃぃ……」
イルミナルのうめき声がする。
二人の戦いは、打撃戦から寝技へと移り変わっていた。
エシュリーがマウントを取り、イルミナルが身動き取れない状態だ。
「ふはははははっ、愚か者め。完全体の神であるわたしに、力の抜けたキサマが敵う訳が無かろう!」
「うぐぐぐぐっ、くやしいいいいい!」
イルミナル、ちょっと涙ぐんでいる。というか、やっぱりエシュリーに性格が似ているな。
ちょっと可哀想なので、エシュリーを持ち上げてやる。
「こらー、弱い者いじめしちゃあ、ダメでしょ?」
「い、いや、イルミナルが先に殴ってきたんだし……」
「エシュリー、今力強いんだから、手加減しないと」
「やーい、エシュリー怒られてるー!」
復活したイルミナルが、エシュリーを指さして笑っている。
こ、こやつは……
「二人ともほんとーに、数千年も生きてる神様なの?」
「うむ、間違いない。なんなら腕相撲で勝負するか?」
「いや、腕相撲がなんで出てくる……」
エシュリーは力が戻ったことが、よっぽど嬉しいのだろうか?
「……わたしたち女神は、人間を遥かに超える知能を持っているのです」
フリューネクスが、フォローのつもりか、そんなことを言ってきたが、この子らに知能で劣ると言われると、激しく否定したくなる。
「賑やかでいいねー」
朝食の片づけを終えた、リンとアリスがやってきた。
二人ともソファーに腰かける。
わたしもエシュリーを抱きかかえながら、ソファーへ戻る。
「えい」
「うわあーっ」
フリューネクスがエシュリーをド突いてどかした。
エシュリーを押しのけたフリューネクスは、わたしに抱っこされに来た。
定位置はココと決めたらしい。
「何をするかうわあーっ」
さらにイルミナルに足を引っ張られ、ソファーからずり落ちていく。
コンボ攻撃炸裂である。
「こらイルミナルー!」
「けししししっ」
イルミナルが変な笑い方している。
「エシュリー、大人気だねえ」
リンがエシュリーを抱え上げ、そのまま抱っこした。
人気者はつらいですねー。
「なら、わたしはこっちー」
「うわわっ!」
アリスはイルミナルを抱きかかえた。
その様子を見ていたニャンコが、周りをキョロキョロと見ている。
「あ、テルトさんいました。ちょっとコッチへ」
「なに?」
ふわふわと飛んでくるテルト。
それをニャンコが抱きかかえようとするが、すり抜けてしまう。
「うーん、抱くものが無いー」
「いやわたし人形とかじゃないし」
大人テルトが否定してくる。
ニャンコ、ちょっと寂しそうだ。
成長とは残酷だな。
「我々も人形ではないぞ!」
「そーだそーだー」
幼女神様二人は抗議の声を上げつつも、抱かれたままになっている。
「わたしはモナカの人形になりたいな」
フリューネクスがこちらに顔を向ける。
上目遣いで、そんな可愛いことを言われたもんだから、ちょっと胸がときめいちゃった。
「こーんな可愛いお人形さんなら、家に連れて帰ってもいいかも」
「いやモナカ、それはちゃんと返しとこうよ。有翼人たちが探しに来たら面倒だし」
リンの言う通り、確かにそれは面倒そうだ。
ラグナ辺りに夜中に来られたら、近所迷惑なんてもんじゃない。
リビングで幼女神さまたちと遊んでいたら、やっと保護者がやってきた。
「いやいや、こちらでも女神たちの捜索をしていたのですが、まさか女神エシュリーの元へ来ていたとは」
にこやかな笑みを浮かべている、ナンバー〇〇一だ。
護衛なのか、神官を二人連れ来ていた。
「いえいえ、引き取りお願いしますね」
「わたしは荷物か!」
突っ込みを入れているイルミナルだが、まだアリスに抱っこされたままだ。
居心地がいいのだろうか?
「お初に、と言った方が宜しいでしょうか? 女神イルミナルよ」
「何を今更。何千年も同じ国を一緒に治めていた仲ではないか」
「ズッ友ってやつ?」
「いやモナカ、友達関係では無いと思うぞ」
エシュリーに突っ込まれてしまった。
うーん、シリアスな重い話って苦手なんだよなー。
「フリューネクスも有翼人に返さなければならないですよね。わたしたちも一緒に大聖堂へ行きません?」
「うん? 今って有翼人たちはどこにいるの?」
ナンバー〇〇一に聞いてみる。
「大半の者は国に帰られたようです。指揮官の将軍や副官など数名が、事後処理の打ち合わせのため、この街の大聖堂に残っております」
「将軍がいるの?」
リンが身を乗り出す。
「ええ、フレイア将軍がおります」
「副官も?」
わたしも身を乗り出す。
「え? ええ、ラグナ副官がおりますが……」
わたしやリンの圧に押されてか、ナンバー〇〇一がたじろいでいる。
「うへー」
「やだなー」
リンと一緒に、わたしも思わず本音が出てしまった。
「モナカは、二人が嫌いなの?」
フリューネクスが聞いてくる。
いちいち仕草があどけなくて可愛い。
思わず強く抱きしめちゃう。
「うーんと、嫌いというか、苦手というか……ねえ」
リンに答えを投げる。
「え、ええ……うーん、ちょっと苦手かも。めちゃ強くて怖いから」
そんなわたしたちを、フリューネクスは交互に見ている。
「二人とも、いい人たちだよ?」
「うーん、でも、めっちゃ戦いまくった間柄だからねー」
「有翼人にとって、戦いはストレス発散みたいなものだから」
「いや、ストレス発散で他国を襲撃しないで欲しいんだけど……」
なんか、フリューネクスとの感覚の違いを感じてしまう。
アリスが興味を示したか、フリューネクスに聞いてくる。
「いい機会だから聞くけど、なんで有翼人は、いろんな国に攻撃仕掛けまくるの?」
フリューネクスが、ちょっと悩んでいる。
「うーん、考えたことない。それが普通だったから」
「戦うことが普通なの?」
わたしもちょっと興味をひかれた。
「有翼人は、生まれたときから戦ってる。他にすることも無いし」
「生まれながらの戦闘民族なのか」
「そう、それ」
フリューネクスが相づちを打ってくる。
自分で言っといてなんだけど、答えになっているのかな?
「そんな奴らも、今ではわたしの信者なのだ! 怖がることはないのだ!」
突然エシュリーが、無茶な話しの締め方をしてくる。
実にエシュリーらしい。
「はい、女神エシュリーのおっしゃる通り。このシャルハルバナルと、有翼人の国ディグレイス・メイルズは、女神エシュリーの国として統合されたのですから」
なんか、違和感を感じて、ナンバー〇〇一を見つめる。
「モナカさん、何か?」
「いや……ナンバー〇〇一、エシュリーに毒されてない?」
「いえいえ、そんなことありません! なんてひどいことを言うのですか!」
「そうね、確かに悪かったわ」
「うぉい!」
女神エシュリー様が大変お怒りになられた。
投稿大変遅くなり申し訳ない。




