第六十五話 幼女神が三人
わたしとニャンコが朝ごはんの支度をしている間、アリスとリンが幼女たちの相手をしていた。
最初こそ、幼女同士でヒソヒソ話しをしているだけだったか、打ち解けたのか、アリスたちとも普通に話しをしているようだ。
朝ごはんの支度も終わったので、わたしもそこに混ざってみる。
「ヤッホー」
幼女たちに手を振ってみると、ビックリしたのか、一瞬体が飛び上がった。
なんとも微笑ましい。
「えっと、あなたたちのお名前は?」
二人の幼女が作戦会議を始めた。
水色の髪の子がうなずいて、会議が終了したようだ。
まず、水色の子から口を開く。
「えっと、わたしがイルミナルで、こっちの金髪の子がフリューネクス」
フリューネクスと言われた子がお辞儀する。
一人がイルミナルで、もう一人がフリューネクスってもしかして……
「もしかして、イルミナルの塔と黄金戦艦?」
「そういう事だ」
「凄いよね! 神様が二人も訪ねてくるって!」
すでに二人から聞いていたのか、アリスが興奮したように言ってくる。
確かに凄いけど……
「えっと、うちではこれ以上、幼女預かれないよ?」
「養えとは言っとらん! この寒空で、この薄着で具現化してしまい、行く当てが無かったからエシュリーの所に来たんだ」
イルミナルの言葉に、フリューネクスが何度も激しく頷く。
「それは養うということでは……」
「ともかく! 厚手の服が欲しい! あと、お腹空いた!」
イルミナルの言葉に、フリューネクスがまたも頷きまくる。
イルミナルの態度、どことなくエシュリーと被るな。
「教会とか、有翼人たちとか、頼っても良かったんじゃない?」
リンが最もな疑問を投げかける。
「みーんな、街の大物取りに出てて、どこにも話せる人が居なかったの」
大変だったんだから、とでも言うように、イルミナルは両腕をめいいっぱい広げてアピールしてくる。
あいも変わらずフリューネクスは頷くばかり。
ちょっと、フリューネクスの声が聞きたくなってきた。
「フリューネクスちゃーん、元気?」
顔を覗き込むと、ビックリするフリューネクス。顔も赤いし恥ずかしそうだ。
神様なのに人見知りなのかな?
イルミナルが、優しく背中をたたいている。
「フリューネクス、大丈夫だって」
「う、うん……」
初めて聞いたフリューネクスの声は、大人しく柔らかで、くすぐられるような感じというか、ちょっと背中がゾクゾクしてしまった。
そのフリューネクスがわたしの方に来て、そのまましがみついた。
「どしたの?」
頭を撫でてやる。
エシュリーよりもずっと小さく小柄だ。髪質はきめ細かく、さらさらと指の間をすり抜けて、くすぐったい感触が後に残る。
「大好き」
フリューネクスはわたしの服を小さな手でギュッと握ってきた。
言ってから恥ずかしくなったのか、うつむいて視線は合わせてくれない。
「フリューネクス、あなたのこと一目惚れなんですって」
「ええーっ!?」
わたしより早く、アリスが叫んだ。
お陰でわたしは、叫ぶタイミングを逃してしまう。
「なんで?」
「とっても可愛いし、最初に優しく声を掛けてもらったからだって。あと、暖炉に火を付けてくれたし」
フリューネクスがイルミナルの言葉に頷く。
好かれるのはありがたい事だ。可愛い幼女ならなおさら。
「フリューネクスさん、残念だけど、モナカはわたしのものなの。だからあげられないわ」
「いや、アリスのもんでもないかと……」
「なるほど、わたしのものか」
「リンでも無いから~」
「はっ!? もしや男が出来たとか!?」
「それは無い」
そんなやり取りを見ていたフリューネクスが、今にも泣きそうになっている。
「ああっ!? 泣かないで、フリューネクス!」
また頭を撫でてやったら、機嫌を良くしたのか、わたしの胸に頬を擦りつけてきた。
可愛い子である。
「しっかし、意外だねー。あの有翼人たちの神が、こんなに人見知りなんて」
「わたしは、有翼人のこと詳しく知らないけど、そうなの?」
「戦闘民族、意思のある自然災害、死の軍団などなど、悪名だらけだよ」
「めっちゃ悪口言われてるね」
わたしが出会った、フレイアとかラグナとかも好戦的だったな、確かに。
「はーい、みなさーん。まずは朝ごはんを食べましょうねー」
「はーい」
ニャンコに向かって、みんなで元気に答えた。
食卓にはパンとマッシュポテトが山盛りだ。
この二つがこの国の主食のようなので、よく見かける。
そろそろ、米とか麺も食べたいな。
「エシュリーはまだ起きて来ないの?」
イルミナルがパンにバターとコケモモジャムを塗りながら聞いてくる。
「明け方まで起きてたからねー。もうちょい寝かせといてよ」
サラダを口に運ぶ。
かかってるのが、フレンチドレッシングっぽくて、サッパリして朝食にいい。
「モナカはエシュリーに優しいねぇ」
テルトがふわふわとわたしの方に寄ってきた。
体が無くて疲れないからと、座らずに漂っているのだ。
「そっかなー? 普通だよ」
「わたしもモナカに普通に優しくされたいわ」
「……わ、わたしも……」
アリスに対抗してか、隣に座ってるフリューネクスが、小さくささやく。
食事中も、左手はわたしの袖を持ったままだ。
ズッキーニなどの細切れ野菜を入れたチーズオムレツを、スプーンで食べてる姿は、まさに幼女という言葉がピッタリくる。
「うーん、わたしは愛されてるなあ」
「愛されることは良いことですよ」
ニャンコの笑顔はホッとする。
お姉さんっぽいというか、お母さんぽいっというか。母性的なものか。
「あ、起きてきた!」
イルミナルに言われて見てみると、エシュリーが、のそのそと眠そうにやってきた。
「……お、おは、よう……」
その場で寝やしないかな?
「おはようございます、エシュリーさん。もう、起きられて大丈夫なんですか?」
言葉をかけられたためか、ボーッとニャンコの方を見つめている。
まだ、頭は夢の中のようだ。
「……ごはんの、匂い……したから……」
「動物か!」
「食いしん坊だなー、エシュリーは。これの匂いとかかな?」
リンがフォークに刺さったソーセージをエシュリーに向けた。
「……うん?」
凄い勢いでソーセージにかぶり付いた。
「わーっ! 取られたー!」
リンがアリスに泣きつく。
アリスが優しく背中をさすってあげていた。
「なら、なんでエシュリーに向けるのよ……」
「エシュリー、お客さんだよ」
テルトがエシュリーの周りをぐるぐる回ってる。
「うん?」
ソーセージ食べて、少し目が覚めたのか、発音がしっかりしてきた。
「エシュリー!」
イルミナルが、突然エシュリーに襲い掛かった。
「ぐぎゃーっ!」
あっさり押し倒されるエシュリー。
だが、神の力が戻ったエシュリーはパワーがあるのだ。
あっさりとイルミナルを押さえ付けてしまった。
「な、なんだ!? イルミナルなのか?」
「そうだよー! よくも力を奪ってくれたなー!」
エシュリーの拘束を振り解こうと、もがいているが、ビクともしない。
フリューネクスが助けに行くのかなーと思って見たが、ぶすっとした表情を向けているだけで、特に動こうとはしない。
「さあさあ、ケンカは良くないですよ」
「わ、わたしは悪くないぞ! イルミナルが襲って来たんだ」
「元はと言えば、エシュリーのせいじゃんか!」
「……ケンカ、みっともない」
フリューネクスがぼそりとつぶやいた。
うーん、まあ、なんとかしようか。
フリューネクスがぶすっとしたままなのは、良くないしね。
「ほらー、エシュリー離れなさい」
エシュリーを引きはがす。
「あうう、モナカー」
「モナカーじゃ、ありません!」
エシュリーを持ち上げてると、イルミナルが起き上がってきた。
「仕方ない、勝負はめしの後だ!」
「そだね、遊ぶのはご飯食べてからにしなよ」
「遊びでは無いわー!」
エシュリーとイルミナルをイスに座らせて、食事を再開する。
二人は、ぐぬぬとにらみ合いながら、とても力強くパンを食いまくっている。
「モナカ……ありがとう」
フリューネクスが小さくお辞儀した。
なんだろう、この子だけめっちゃ可愛いんだけど。
「どういたしまして」
ちゅっ。
ほっぺにキスされた。
「お礼」
「あああーっ!? ズルーい!」
「アリスは大人なんだから、子供に対抗意識湧かせないの」
「子供って、神様じゃん。わたしよりもずっと大人じゃん」
「見た目年齢って大事よね」
なんというか……ご飯が全然進まない。




