第六十四話 幼女たちの来訪
目の前に次元の裂け目が現れた。
そこからみんなが出てくる。
「お疲れ様! エシュリー! モナカ!」
「おー! やったぜ!」
みんなに向けて、サムズアップを掲げてやる。
みんなも同じように返してくれた。仲間って感じでいいな。
「エシュリーがでっかくなった時には、みんなで爆笑したわ」
言いながらも、アリスはまだ笑っている。
「うおい!?」
いや、わたしもその気持ち分かるわ。
「エシュリーは神様になっても、変わってなくて安心したよ」
リンの言う通りだ。
遠い人にならなくて良かった。
「これからは、この国の者はエシュリーさんを崇拝することになるんでしょうね」
ニャンコがエシュリーに向けて祈りを捧げている。
変な光景だ。
「この国だけじゃないぞ。湿原の国もわたしの国になったのだ」
「イルミナルが黄金の軍艦倒したから、それも一緒に吸収したの?」
「そういうことだ」
あの天使さんたちも、味方になったのか。心強くていいな。
「モナカは異変とか無いの? エシュリーの信者なんでしょ?」
テルトに言われて、改めて自分の体を気にしてみる。
あんまりにも興奮することが多かったせいで、体の変化とか全然自覚無いわ。
「モナカは、パワーアップしているはずだぞ? 神様二人分くらい」
「そうなの?」
実感わかないなー。
後で魔法とか試してみよう。
「さて、この騒動、どうしましょうか?」
ひとしきり笑って落ち着いたのか、アリスが周りの惨状――巨人とか天使とか戦闘機とかで混沌としている状況のことを言ってくる。
「あー、どーしよーねー」
心底困る。
「みなさーん! お久しぶりです!」
誰かがこちらに走ってきた。
「ああっ! ナンバー〇〇一! 生きておられたのですね!」
ニャンコが前に走り出して迎えたその人は、確かにナンバー〇〇一、その人だった。
「ええ、わたしも含めて、イルミナルに吸収されていたものは、みんなはじき出されたようですね。ただ、力は吸収されてしまったので、もはや人間のような能力しかなくなってしまいましたが」
「お疲れー! もう、神様じゃあないんだ」
「イルミナルと言いますか、現在のエシュリーさんに吸われたのでね」
「わたしが悪いみたいに言うな!」
「いえいえ、そのようなことでは……」
「えっとー、神聖魔法とかはどうなるのかな?」
「わたしの力を利用した魔法は使えなくなりますが、代わりにエシュリーさんの力を媒体とした新たな神聖魔法が使えるはずですよ。わたしも、それが使えるようになりましたから」
「そうしますと、ナンバー〇〇一は、今はエシュリーさんの信者なのですか?」
「ニャンコさんの言う通り、わたしは今や、ニャンコさんたちと同じ立場の存在です」
「【神聖魔法】」
試しに神聖魔法を使ってみた。
普通に武器が出てきた。
能力的には変化が無いようで安心だ。
「そうそう早速だけど、この惨状、なんとかならない?」
阿鼻叫喚の街の状況をどうするか、元神さまに聞いてみる。
「そこら中に、有翼人の兵士や、シャルハルバナルの兵士や神官もおりますので、エシュリー神が統率して、収拾付けるように指示をすればよいのではないでしょうか?」
「だって、エシュリーがんばれ」
「うむ、神らしいところを見せてやろう」
エシュリーが姿勢を正す。
「あーあー、てすと、てすと」
エシュリーの声が、街中に響き渡った。
町内会放送みたいだ。
「今日からこの国の神様になった女神エシュリーだ。お前らに告げる、この状況を早くなんとかしろー!」
どうやら、神様のありがたいお告げ終わった様だ。
「これで完ぺきだな」
「うーん、いいのかなー、これで」
「いいんじゃない? 細かい指揮は、各部隊の上官がやるでしょう」
王族のアリスがいいというなら、いいのかな?
昼過ぎに始まった、この大物捕り。
なにせ数が万を超えているので、完全に終わるまで、翌朝までかかってしまったようだ。
「おはよー、モナカ」
「あ、おはよーアリス」
わたしたちは早々にホテルに帰って、休息したわけだ。
「エシュリーはまだ寝てるんだ」
わたしの隣で寝ているエシュリーの顔を覗いている。
「明け方まで、報告があったりなんかして大変だったみたいだよー」
ホテルの部屋にひっきりなしに連絡員が入ってきてて、エシュリーが神様なので対応してたのだ。
全部終わった、最後の連絡が来たのがついさっき。
なので、エシュリーは爆睡中なのだ。
「ひっきりなしに人が来てて、うるさくなかった?」
「うん、なかなか寝付けなかったわ」
アリスも珍しく眠そうにしているから、そうだろなーと思った。
「リンは?」
アリスと一緒に寝ていたはずだけど。
「リンは、うるさいの気にしないみたい。めっちゃ寝てるよー」
「リンと言えば、フレイアたち有翼人には夜通し働いてもらってたんだよねー」
「有翼人は、寝ないし疲れないみたいだから、平気なんじゃない?」
「スーパー種族なのか……」
まあ、わたしもそっちよりも種族なんだけど。
アリスは、エシュリーのほっぺたをつつき始めた。
完全に夢の中のようで、まったく反応しない。
「こーんな寝顔なのに、神様なんだねー」
「実感わかないけどねー。見た目も性格もなーんにも変わって無いもん」
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「誰かお客様?」
「ちょっと見てくるね。エシュリーへの報告かもしれない」
「それだと、また起きなくちゃーだねー」
言いながら、エシュリーをつついて遊んでるアリス。
赤ちゃんをあやしているようだ。
玄関まで行く間も、ノックは続いている。落ち着きのない客である。
「はいはーい、今開けますよー」
扉を開ける。
「おや?」
見たことのない客だった。
一人はエシュリーよりも一回り幼い女の子。水色の長い髪を四本に分けて結んでいる。
もう一人はさらに一回り小さい。長い金髪にゆるくウェーブがかかっている。
二人とも、この北国に似つかわしくない、薄手の服装をしていた。
服のデザインは、エシュリーの服に似ていた。
「おはよう、どちらさまですかー?」
聞いてみたが、返答は無く、そのまま部屋へ入られた。
なんか、震えているようだ。
「どうしたの? お父さんお母さんとはぐれちゃった?」
「違う!」
水色の子が幼い口調で返してきた。
二人とも、何か探しているようだ。
「何か、お探し物?」
「暖炉!」
単語しかしゃべらないのかこの子。金髪の子は、水色の子に付き添ってるだけで、無言だし……
暖炉ということは、暖まりたいのかな?
リビングにある暖炉を発見したみたい。
二人とも走ってそこへと向かう。
「モナカ、お客さんはー?」
アリスが出てきた。
「うーんと、この二人の幼女。暖まりたいんだってさ」
「どこの子?」
「分かんない」
まだ起きたばかり、暖炉には火を入れてない。
どうやら、どうやって火を付けるか、二人で相談しているようだ。
「【火炎】」
火打石だと面倒なので、魔法で火を付けてやった。
赤々と燃えだす暖炉の薪。
「わああぁぁぁっ!」
二人の幼女が驚きの声を上げて、満面の笑みで暖炉で暖まっていた。
あの薄着だったから、寒かったのかな?
「寒かったから来たのかな?」
「なんでこの部屋なんだろ? 親御さんとか、心配してないかしら?」
アリスの言葉に、震災孤児、という単語が思い浮かんだが、悲しすぎるのでその案を振り払った。
「おはようございます、みなさん。どうされました?」
ニャンコも起きて来たようだ。
「うん? 幼女が訪ねて来たの」
暖炉の方で暖まっている二人の幼女を指さした。
「可愛いお客さんですね。お飲み物を用意してあげましょう」
そそくさとキッチンの方へと行ってしまう。
「ニャンコーついでにわたしたちの分の紅茶もお願いー」
「はーい」
ニャンコと入れ違いで、今度はテルトがやってきた。
「おっはよーみんなー」
「おっはよー。テルトはそれ、寝れるの?」
ふわふわの幽霊さん状態なので聞いてみる。
「寝ることも、食べることも出来ないんだよねー、うん」
「ちょっと寂しいねー」
「うん、大人になるって大変だよねー」
うーん、確かに……大人になるって大変だよねー。
わたしはその悩みから解放されたけど、テルトはこれからなんだ。
「リンも起こしてくる?」
「そだね、せっかくだし、あの子たちも一緒に、朝ごはんにしちゃいましょう」
「わたしも、食べるふりをしておこう」
「うん、一緒に朝ごはんにしよう!」
わたしもキッチンへ行き、朝食の支度を始めた。




