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第六話 お金は突然やってくる

「こちらでお待ちください」


「はぁ」


 通されたのは、待合室だろうか。落ち着いた雰囲気の部屋に、殺風景にならない程度の調度品が置かれている。

 部屋の中央にテーブルとソファーが置かれており、そこにわたしたちは座って待機することに。


 食堂に衛兵が来たときは何ごとかと思ったが、詰所ではなく領主の館に来てくれと言うことだった。


 テーブルには人数分のお茶と、お茶菓子が置かれていた。

 そういえば、こっちに来てから三食以外に飲食無かったな。

 紅茶をひとすすり、うん、銘柄とか良く分かんないけど、普通に紅茶だ。砂糖やミルクは入っていないけど、ほのかにフルーティーで飲みやすい。


 お茶菓子は、しっとりとしたクッキーだ。バターが少な目かなと思うが、異世界とかだと物資流通的にこんなものなのかな?


 ニャンコはともかく、エシュリーがことのほか静かなのは、行儀良くしているわけでなく、お菓子を食べるのに夢中になってるだけである。めったに甘いもの食べれなかったからね。

 やっぱり、女神さまと言うより、元気な女の子としか見えないわ。


 ノックの音。扉が開き、メイドさんが現れた。

 青い半そでのワンピースに大き目の白いエプロンと、頭には白いメイドキャップ。フリルやリボンは見当たらない。

 本物のメイドさんの服って、わたしはあんまり萌えないな。ミニスカでニーソのガーターにフリルとリボンが欲しい、さらに十代の可愛い女の子だとなお良い。領主様に会ったら、そうしてもらえるように進言してみよう。




 領主様はがっしりとした体形の、渋いオジサマだった。

 

「はじめまして、わたしはこの街の領主を務める、ロウニン男爵という」


「あ、どうも、モナカといいます」


「いやいや、みなさんお噂以上にお美しい」


 さりげなく差し出された手は気付かないふりをしておく。

 領主さん、ちょっとがっかり顔だ。

 他のニ人も簡単に名を名乗り、領主に促され、わたしたちは対面に座った。

 領主はわたしたちを見回して、なんか落ち着かない様子だ。


「きみたちは、その……わたしたちと同じ、人間種族なのかね?」


 開口一番言われたのがそれだった。

 こんな可憐な美少女たちに向かって、いきなり、お前ら人間か? とか、酷い言われようである。

 しかもなんか領主様、怖がっているような……


「ふふふふっ、これほどの美貌を持っていると、人を超越した存在であることが隠し切れぬか。いやー困った困った」


 ふんぞり返って、まったく困って無さそうなエシュリーである。

 よくまあ、自分のことをそこまで盛って言えるな。

 いや、可愛いのだけは否定しないけど。


「モナカだってそう思っているはずだ!」


「いや、わたしはさすがにそこまでのポジティブシンキングは無理だなー」


 謙虚さを尊ぶ日本人であるからして。


「わたしは普通の人間ですよ? 神聖なるナンバー〇〇一ゼロゼロワンと、ついでにイルミナルの信徒ではありますが」


「わたしはって、わたしたちが違うと!?」


 思わず立ち上がってニャンコを見下ろす。


「あああっ、抑えて下さいモナカさん。だってだって、素手で鉄板の装甲ぶち抜いたりとか、人間業じゃあないじゃないですか」


「その通り、部下の報告では、戦車砲を引き裂く恐るべき怪力と、幼女で身を守るあまりに非道な行い、まさに地獄の悪魔ではと――」


「領主様! それは、確かに真実ですけど、わたしも一応普通の女の子……」


「モナカは人間種族では無いわ。超美少女よ」


 うーん、確かにそうらしいんだけど、おまえは超美少女だぞと言われてハイというのはさすがに恥ずかしすぎるぞ。


「うーん、それって人間じゃない、ってことになるのかなー?」


「なる」


 うーん、ちょっとへこむかも。


「ちなみにわたしは、種族:神だ! 見たまえ! この崇拝の対象になるべくしているかのような神々しい後光の光が照らし出す美のスペクタクル!」


 誇らしげに言ってるけど、何言ってるか良く分からない。

 ニャンコも領主様も唖然としている。

 やがて、領主様が咳払い。


「超美少女と言うのは初耳ですが、ものすごい戦闘能力を持たれているようですね」


 うーん、渋いおっさんが超美少女とか言うのは、キモいな。


「あなた方がバーゼルの者を撃退したと聞きまして、最初は何をしてくれるんだと思いました。すでにこの国は、バーゼルの支配化です。旧統治者のわたしにとっては、少しでも心証を良くし、民も含め、なるべく良い待遇をして頂きたいところ、だったのでが……」


「バーゼルとか、〇〇〇して死んじゃえ!」


 一人怒って叫び出したエシュリーの口を押さえつける。まったく、女の子がなんてセリフを吐くんだ。

 領主様はまたも気圧されたようだったが、咳払い一つ、そのまま話を続ける。


「ただ、みなで話し合ったところ、あまり下手に出すぎるのも問題では無いか、ある程度の反抗する力があることを誇示しておけば、向こうも強く出れないのではないか、という結論となったのです」


 領主様はいったん言葉を切り、わたしたちを見回す。


「ただ、一度や二度撃退したところで、逆に反逆の恐れありと思われ、さらに強い部隊を寄こされるだけでしょう」


 ふむふむ、そういう考えがあるかも。


「そこで、みなさんにお願いがあります。向こうが降参するまで、何度もバーゼルの部隊を撃退しては頂けないでしょうか?」


「つまり、反逆罪でわたしたちを捕らえて突き出すには、自分たちの力が足りない。バーゼルとわたしたちが戦う分には領主様方に直接の非は無く、街のどこかに怖い連中がいると思われれば、バーゼルの人たちはビクビクしながらこの街の内政をすることになる。ということでしょうか?」


「まあ、ハッキリ言われてしまうと、そういうことだ」


 領主様は渋い顔をするが、そういうことなら。


「ニャンコ、エシュリー、儲け話よ!」


「おお!」


「儲け話、ですか?」


 ニャンコはいまいち理解していないらしい。


「護衛料、頂けますよね!」


「あ、ああ、もちろんだとも」


「エシュリー、護衛の相場っていくらなの?」


「普通の傭兵なら、日に金貨二枚だろうけど……」


 エシュリーは言いながらわたしとニャンコを交互に見る。


「ニャンコなら日に金貨二十枚、モナカなら金貨五十枚、そしてわたしは金貨百二十枚! 特別割引で、三人で日に百八十枚でいいわよ!」


 つまり日給一人六十万円である。

 しかし、なんでエシュリーが私の倍以上なのだ? 暴力的すぎる。


「いつ敵が現れるかわからないし、このお屋敷に住まわせてもらうからね。あ、ごはんは、ロウニン、お前と同じでいいぞ」


 領主様のこと名前で呼び捨てにした挙句、指を突き付け迫るエシュリー。

 領主様、なんか怯えとる。


「その給与は、バーゼルの部隊と戦った日のみの換算か……」


「さっき言ったのは、わたしたちの時間を拘束したことに対する料金、戦ったときは同じ金額を上乗せするのだぞ」


 暴利過ぎる。

 さらにテーブルに乗り上げ、領主様に凄むエシュリー。

 しばし、無言の交戦が続く。


「……わ、わかった、そのように手配しよう」


 話が通ってしまった。


「エ、エシュリー、いいの? 金貨百八十枚とか……」


 小声で耳打ちする。


「相場的にはそんなもんよ!」


 どこまでも強気なエシュリーだ。


「あ、あの、わたしまで、そんな高給で、よろしいのでしょうか?」


 ニャンコもあたふたしている。


「もらえるもんはもらっとけ。それに、これでも良心的な金額だぞ」


 良心的でない金額とは、どれほどのものか……


「領主様、意外とお金持ちなんですね……」


「バーゼルの一方的な支配が始まって、金を取られるよりはよほど安いからね。こっちも死活問題なんだ」


 そういうことなのかな?


 かくして、領主の館でくつろぎまくって金稼ぎという、夢のような好待遇のお仕事が始まってしまった。

 ああ、リビングのソファーで本読みながら寝転がってても、毎日六十万円入るのか……

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