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第五十八話 流氷

 スピーダーに乗って首都から二日の場所に、流氷観光のベストスポットがある。

 屋根付きの、外から見えない仕様にしてもらったおかげで、道中は非常にラフな格好で過ごすことが出来た。

 半そでにミニスカート、ソックスすら履いてない。

 三列シートの二列目だけフラットにして、みんなで寝そべって過ごす。


「あー、寝転がりながら移動できるって、最高だわー」


「モナカ、ダラけすぎー」


「そーいうアリスこそ、一緒に寝てるじゃん」


 わたしと隣り合って寝ているアリスが、わたしに抱き付いて、足を絡ませてきた。


「そーだけどねー、うん、やっぱモナカの言う通り、気持ちいいよねぇ」


「お二人とも、ダラけ過ぎですよ」


 ニャンコは聖職者らしく、ちゃんと座っていた。

 その足の間にテルトが居座って、胸に頭をうずめている。気持ちよさそうだ。


「だってー、寒くないし、風も無いしで、今までよりも遥かに快適なんだもん」


「リンー、こっちのシートも倒していい?」


 一列目の座席に座っているエシュリーが、一緒に寝転がりたいのか、リンにお願いしている。


「運転し難くなるからダメー」


 素っ気なく返されてた。


「うへー」


 エシュリーの姿が、背もたれの向こうに沈んでいく。ふてくされたか?


「リンが頑張ってくれるから、わたしたち楽できるんだよねー。ありがたやー」


「ありがたやー」


 アリスと一緒に拝んでみる。

 ナンバー〇〇一ゼロゼロワンよりも、リンを崇拝した方がいいのではなかろうか?


「そろそろ、氷雪地帯に入ったようですね」


「どれどれ?」


 ニャンコの言葉に、車外の様子を見てみる。

 今まで外の景色は、乾燥した草が点々と生えた荒野であったが、そこに雪が混じっていた。

 日は明るいのだが、暗い印象を抱く風景である。


「あれが雪かー、雪で覆われてるの、初めて見た」


「アリスは初めてなのか」


「わたしも初めてだよ」


 テルトが横に来て、一緒になって外を見る。


「そなんだ、リンとエシュリーは?」


「わたしも、初めて。あれって氷でしょ? めっちゃ冷たそう」


「敵の攻撃で氷雪嵐ブリザードを食らったことはある」


 エシュリーのは違うと思うぞ。

 見ていると、段々と視界に占める雪の面積が増えていっている。

 わたしは見たことはあるけど、最後に触れたのは何年前だったか……触れたくてムズムズしてくる。


「リン、どこかで止まって雪遊びしようか?」


「オーケー」


「それなら、もう少し行けば、一面雪景色になります。お昼休憩を兼ねて停めて頂くのはどうでしょうか?」


「おー!」


 ニャンコの提案に賛成する。


 お昼をちょっと過ぎた頃に、一面雪景色状態となっていた。

 停車した車内で全員お着換え。

 港町でゲットした分厚い装備、ではなく首都で買った内側に毛皮の付いた服を着た。

 ニャンコ曰く、日も出ているから、そこまでキツイ寒さではないとのこと。


「ふあー! 久々の外だー!」


 風も殆どなく、確かにそこまで寒くはない。

 冷たい空気で深呼吸すると、肺の中がスッキリした気分になり、目が覚めてくる。


「やっぱり、外の空気はいいよねー」


 リンも深呼吸しているが、言った言葉にちょっと不穏な空気を感じる。


「言っとくけど、オープンカーにはしないよ」


「いやいや、すぐにはしないよ」


「すぐじゃなくても、ダーメ」


「はーい」


 危ない危ない。


「わっ! やっぱり冷たい!」


 アリスとテルトが、手袋を外して雪に触っていた。

 初めての感触が楽しいのか、あっちこっちに手形をスタンプしている。


「モフッてなるよね。ちょっと力を加えると、一気にモフッて」


 わたしもテルトの横に行って、一緒にモフッてしてみる。


「なんか、クセになる感触だよね」


「雪って食べてもいいの?」


 エシュリーが雪の塊を持ってきた。


「うーん、いいんじゃない? 空気もキレイだし」


「では――んふっ! 冷たい! 氷だ!」


 一口食べた瞬間に、背筋が伸びて固まるところが、ちょっと面白かった。


「いや、氷だし。普通に冷たいでしょ」


「ひゃはっ! ホントだ! 冷たい!」


「いや、アリスまで」


 リンやテルトまで、冷たいと言いながら食べだした。

 ニャンコも食べたし、わたしも食べないとダメだよね?


「はい、モナカ、あーんして」


「あーん」


 アリスの手から氷を食べさせてもらう。


「ひゃっ、くすぐったい!」


 舌が手の平に触れてしまい、驚かせてしまった。

 ただ、その手の平を一舐めしているアリスの姿を見ると、ちょっとゾクゾクしちゃう。


「モナカ、冷たかった?」


 エシュリーが顔を覗いてきた。

 あまりに顔が近かったので、ちょっとビックリして後ろに引く。


「エシュリー近いって」


「そんな邪険にしなくてもいいのにー。それで、味は?」


「うーんと……冷たかったと思うけど、いろいろとあって、味分かんなかった」


 いろいろと言うか、ドキドキというか……


「ならもっと食べよう!」


「そんなに食えるか!」


 お腹冷えちゃうし。


 寒いとはいえ天気もいいし、昼食は外で調理することにした。

 テルトの魔法で雪を一部蒸発させ、そこにかまどを準備する。

 雪を盛った鍋を火にかけて大量のお湯にし、それに具材と調味料を入れて、鍋料理にした。

 野菜ゴロゴロのコンソメスープだ。寒いときには、お鍋は暖まっていい。


 みんなで鍋の具材を食べ終わった後、締めに入る。


「えっと、残りのスープにお米を入れるんですか?」


「そーそー、それで煮込んじゃって」


 この国には締めという概念が無いようなので、教えてやる。

 米を残ったスープで煮込んで、最後に刻んだ香草と溶き卵を流し込む。

 洋風雑炊の出来上がりである。


「あ、あつっ……美味しい」


「でしょー」


 ニャンコが気に入ってくれたようだ。

 他のみんなも美味しいと言いながら黙々と食べてくれている。


 しばらく休んでから、雪での遊びを教えた。


「こう、雪を球にして……えいっ!」


「わふっ!」


 テルトに命中。


「あははははっ」


 アリスが笑いながらも、球をせっせと作っていた。


「えいっ!」


「わぷっ! それ投げてない! わたしの顔にめり込ませただけ」


「あはははっ、ごっめーん!」


「このーっ!」


 逃げて行くアリスの背中に、雪玉をぶつけてやる。

 そのわたしの目の前を、雪玉がかすめて飛んでいった。

 飛んで来た方を見ると、エシュリーと目が合う。


「あっ」


「あまいわー!」


 雪玉を高速で、逃げるエシュリーにぶち当ててやる。

 結局、六人全員での乱戦となった。

 チーム分けとかしようと考えてたけど、もうこれじゃあ何が何だかである。


 ひとしきり遊んで、みんなで雪の上へ寝そべった。


「体、動かすと……けっこう、暑いね……」


 アリスは息を荒くしながら、顔が笑いっぱなしになっている。


「うん、めっちゃ暑い」


「モナカー」


 突然、エシュリーが上に乗っかってきた。


「うぁ、どしたの?」


「なんとなくー」


 そのままわたしに覆いかぶさったまま、動かなくなる。

 甘えたい時期なのかなー?

 まあいいか、掛布団変わりだ。


「いい天気だよねー」


「ねー」


 エシュリーは答えず、アリスだけが返してきた。

 空には雲が少なく、青く澄んだ空間が、頭上に大きく広がっていた。

 みんなも、あまりしゃべっていないせいか、とっても静かで、なんだか、その青空に吸い込まれていきそうな錯覚を覚えた。




 大地の大半が雪で覆われ、所々黒い岩肌が見える以外は、白以外の色が見えなかった。

 ここはまだ大陸の最北端では無いようだけど、風は切るように冷たく、極寒仕様の分厚い服を着ていなければ、とても長時間過ごすことは出来ないであろう。

 ただ、吹雪いてはいないため、海を見渡すのに支障はない。


「すごーい、海が完全に氷で覆われちゃってる」


「流氷っていうから、氷の塊がいくつか浮かんでいるだけかと思ったけど、完全に覆われてるんだね」


 アリスとリンが、初めての光景に興奮の色を隠せないでいた。

 ずっと流氷で覆われた海を見ながら、おお、とか、うわぁ、とか声を漏らしている。

 まあ、かく言うわたしも、流氷は初めてなんだけど。


「乗ることも出来ますよ?」


 ニャンコが唐突に提案してくる。


「危なくない?」


「大きいので、人が乗ったくらいじゃあ、ビクともしませんよ」


「そうなのか、エシュリー行こう」


「え? わたしか……うん、行く」


 エシュリーの手を引いて、流氷のところまで行く。

 リンやアリス、テルトから、ガンバレーってエールが飛んでくる。

 それに手を振って応えておく。


「うん、この上に乗ってみるか」


 海岸に流れ着いている奴の中で、比較的大きな塊を選ぶ。


「よっと」


 軽く飛んで、流氷の上に着地する。

 うん、確かにまるで揺れない。めちゃ頑丈だ。


「モナカ、ちょっと持ち上げて」


 背が足りないためか、エシュリーは自力で登れないようだ。


「はい、手を出して」


 引っ張り上げてやる。

 エシュリーは恐る恐ると言った感じでその場に立ち尽くす。


「ゆ、ゆれないけど、いつ割れるかと思うと、ちょっと怖いね」


「大丈夫。壊れたらわたしが抱いて飛んであげるから」


「そう?」


 まだ怖がっているようだけど、流氷の上をゆっくりと歩きだした。

 段々と慣れて来たか、次第に歩く速度が速くなり、最後にはジャンプしだした。


「おお、凄い頑丈だな」


「強度は大丈夫だけど、氷だから、滑らないようにね」


 言ったのがいけなかったのか……


「おっ?」


 エシュリーが滑った。


「ちょっ! 危ないじゃない!」


 滑ってはいかなかったようだ。

 あのまま海へダイブしたら大変だ。


「こ、こわかったー」


「もう、そろそろ降りようか」


「お願い」


 エシュリーを抱えて、みんなのところへ。


「大丈夫、まったく危険は無かったよー」


「いやいや、エシュリー転んでたじゃない」


 あれ? 安全さのアピールのはずが、危険をアピールしちゃったようだ。

 その後、小さい流氷を無意味に拾い上げて投げたり、景色を眺めたりして、流氷ツアーを終えた。


 その晩は、スピーダーの中で一晩を過ごした。

 前席倒せば、六人分の寝るスペースになんとかなる。

 これで観光はおしまい。

 これから、首都で起こるという災厄に備えることになる。

 別に仕事に就いている訳でも無いのに、連休が終わった様な、なんか現実に引き戻される気分となってしまった。

短編小説にトライしてたら更新が遅れてしまいました。申し訳ない。

基本、1~2日毎に更新していきます。

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