第五十七話 スピーダー改良
港町を後にしたわたしたちは、首都へと戻っていた。
今は夕方。
イルミナルの塔が、夕焼けの赤い光に包まれておぼろげに見えた。
朝と夜はやたら目立つ建造物だが、夕焼けにとは相性が悪いようだ。
リンはスピーダーの屋根の取り付けを行いに、借りた倉庫へと行っている。ニャンコとテルトは、その手伝いに付いて行っていた。
わたしは、アリスやエシュリーと一緒に、買い出しへと出ているところだ。
「モナカ、どうしたの?」
「うん? イルミナルは大きいなあって思って」
アリスも、わたしと一緒になってイルミナルへと視線を向けた。
「でっかい神器だよねー。うちの国のなんか、普通の剣だもんね」
「エシュリーは、元はどんなだったの?」
「わたし? わたしは、ブローチだったな。カブトムシの形の」
「カブトムシのブローチ?」
アクセサリーだったのか。
しかし、昆虫の形って、今の姿からは想像できない。
「あ、わたし知ってます。それがでーっかいカブトムシになるんですよね」
「そうそう、羽が炎で出来ているカブトムシ。アリスは見たことあるのか?」
「いえ、聞いたことがあるだけ」
「カブトムシが幼女になったのかー」
「カブトムシの方が仮の姿なんだけどね」
「ふーん」
「なんだ? なんで神様って神器っていう道具の姿なのとか、いろいろ聞かないの?」
なんか、期待されていたようだ。
「聞くと長くなりそうだから、また今度で」
「うぉい!」
「寝まくってたら、いつの間にか道具になってたとか、そんなふうに名推理」
「まったく名では無いわ。全然違う!」
己の名誉のためなのか、かなりムキになっていらっしゃる。
「さあ、買い出しも終わったし、とっとと部屋に戻って、リンのところへ行こうよ。もうそろそろ晩ご飯だし」
「そだね」
エシュリーたちの手を引いて、夕焼けに染められた街道を歩く。
はるか向こうまで続いている道と、古き良き、なんて例えられそうな街並みが、とてもキレイに見えた。
首都に滞在して二日目、ついにスピーダーの改良が済んだ。
確かに屋根が付いたけど――
「なんか、別の乗り物になっちゃってるね……」
改良型スピーダーを見せられて、驚きの声を隠せない。
「いやー、高速移動維持で屋根付けようとしたら、こうなっちゃってー」
リンが照れたように頭をかいている。
リンって、凝り性なんだな。
前よりも流線型に近付いており、カラーもホワイト一色に変えた様だ。
大きさも一回りでかくなったように見える。
内部に組み込んだ魔石の青い光が漏れ出ており、カラーリングのアクセントになっている。
屋根はちゃんとついており、前方と左右後方斜め上の三パーツに分かれて、スライドして開くようになっていた。
中は、外から見る以上に広々としており、どういう仕掛けなのか、中からだと上部が完全透明で、外が丸見えである。
ちなみに内装は前のままだ。
「冷暖房完備だから、快適に乗れると思うよ。シートを可動式にして、フラットルームに出来るようにもしたよ」
「おお、スピーダーの中で寝れそうだね」
「さらに、壊れにくいように全面オリハルコンコーティングした!」
うん?
「オリハルコンって、ダイヤよりも凄いんだっけ?」
「そーそー、南の島でごく少量しか採れないから、希少品で」
「えっと……改良費、おいくら?」
ちょっと怖くなり聞いてみる。
金貨を万単位で持ってるので、金額を気にすることが無くなっていたとはいえ、これは聞いておかないといけないように思えた。
リンは、さっきまでとは違い、少し小声になった。
「全部で金貨一万二千枚」
「うーん、一人二千枚かー、まあしょうがないよね」
「オーケーしてくれてありがとー、モナカ!」
リンが抱き付いてきた。
「ちょっ! 激し過ぎだって、リン!」
「ありがとーモナカ!」
何故かアリスまで抱き付いてきた。
「あーもー二人して!」
「モナカー!」
他のみんなまで笑いながら抱き付いてきた。
おしくらまんじゅうみたいになってきたぞ。
解放されたわたしに、リンが、もう一つ見せたいものがあると言ってきた。
「これも作ったんだよ」
リンが差し出してきたのは、一目で分かる。カメラだ。
「カメラ!? やった! 凄いよリン!」
「いやーそれほどでもー」
表情を見るに、褒められるのはまんざらでも無さそうだ。
「ほんと、凄い! お礼に、一日モナカ貸出権をあげてもいいくらい」
「アリス、何を勝手に貸し出そうとしているのだ」
「ねえ、モナカ、それでみんなの写真を撮ろうよ!」
テルトが楽しそうに提案してきた。
「賛成!」
街へ出て、街道で三人ずつ二列に並んだ。
脚立無いし、タイマーも無いけどどうするんだろと思ったら、リンが超能力で浮かべて位置合わせし出した。
ポーチからさらにメガネを取り出してかけた。あら、可愛い。
「このメガネ?」
イタズラっぽい笑みを浮かべたリンの顔を向けられると、ちょっとドキッとしてしまう。
「う、うん」
「カメラで覗いた画像がこれで見れるの。遠くから写すとき便利だから」
異常にハイテクだった。
「さ、いくよー!」
シャッター音が鳴り、フラッシュが付いた。
ああ、タイミング計れない! リンの方を向いたままだ。
「リン、もう一回! もーちょい、タイミング撮れる掛け声して」
「うーん、どんなのがいい?」
うーん……ハイ、チーズ! は、古臭いな……マル、チーズ? おやじギャグか!? 三・二・一・ハイ! がいいよねー、無難で。
「三・二・一・ハイ! でお願い」
「了解!」
改めてみんな整列。
ちょっと緊張するな。笑顔、笑顔。
「いっくよー、三・二――」
シャッター音。
「ちょっ! タイミングはやっ!」
「あははははっ、ちょっと変な顔になっちゃったかも」
アリスがどうやら受けたらしい。
「ちょっと見せて!」
「はい」
カメラを渡してきたリンの顔も笑っている。めっちゃワザとだな。
再生機能で写真を確認。
最初に撮ったのは、恥ずかしいので削除!
次に撮ったのは――意外と普通だった。
「……普通だった」
わたしの言葉の何が面白いのか、みんなが爆笑しだした。
そんな調子で、寺院の前とかお店の前とか、いろんなところで撮影した。
北の国へ入る前の服装でも撮りたかったので、暖かいホテルの部屋で撮影。
結局、いろんな服を引っ張り出して、撮影会となってしまった。
着替え中まで撮られたので、リンからなんとかカメラを奪って、消してやったりとか、ドタバタもあった。
その日は結局、写真撮影だけで終わってしまった。
次の観光地には、明日出発しようとなり、今日が最後の宿泊日となった。
前にナンバー〇〇一が予言した災厄の起きる日まで、残り十日。
その時何が起きるか、いろいろと夢想しだしたら、気分が落ち込んできたので、明日からの観光に意識を集中させることに。
その晩は、観光地に行っても、暖かいスピーダーの中から出ようとせず、中から見て終わりという、ものぐさな観光スタイルを考えながら、眠りについた。




