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第五十六話 ナノマシン群モンスター

「どこ行ったんだろ!?」


 宿屋を出てみたが、金属粉の塊はどこにも見えない。

 着替えにちょっと時間かかっちゃったか。待ってくれててもいいのに。


「ちょっと待ってて」


 そう言って、リンが浮かび上がっていった。

 自身を超能力で浮き上がらせているのだろう。

 はるか上空から、探してくれるみたいだ。


「あ、リンちゃんのスカートの中見えちゃうねー」


「アリス、何見てるの」


「大丈夫、【透視ファビジョン】で、よーく見えるようにしてるから」


「変なことに力使うな!」


 アリスも段々と残念になっているように、思えなくもない。

 そんなことを考えてると、アリスが手招きし、耳打ちしてきた。


「なになに?」


「ピンク」


「どんだけ気になるの!?」


 後頭部をはたいてやった。

 叩かれてるのに、なぜかアリスは顔を赤らめる。


「……は、はじめて……モナカに、叩いてもらえた。……嬉しい」


 大丈夫だろうか?


「ちょっとやばい!」


 リンが慌てたように急降下してきた。


「わ、わたしは見てないから!」


 とりあえず弁明しておく。


「そ、そうそう! ピンクとか可愛いじゃない! わたし白だし」


 アリスは血迷ったのか、なんか口走っとる。


「なに訳を分からないことを!?  見つけたよ! 港にいたけど、とんでもないことになってるんだ!」


「なにが起こってるんですか?」


 ニャンコが心配げに問う。


「あれだけじゃなく、あちこちから金属塊が、大量に集まってきているんだ!」


 リンは言ったが早いか、すぐに駆け出して行ってしまう。

 相当ヤバい状況のようだ。


「行くぞモナカ!」


「エシュリー、了解!」


 わたしたちも後を追った。




「リン、ちょっとは加減してよー」


 リンからかなり遅れて港へとたどり着いた。

 忘れてたけどリンって、高速移動のブーツ履いてたんだけ。


「やっぱ、星界人かな?」


 リンはすでにステッキを取り出している。

 この寒空で魔法少女姿は寒そうだな―とか思っちゃった。


 港は今、とんでもない状況になっていた。

 漁師たちが悲鳴を上げながら逃げ回っている。

 あちこちから金属の雲が飛んできて、一点に集まっており、段々と巨大な塊へと変貌へんぼうしていた。


「エシュリー、テルト、これが星界人っていうやつ?」


「それっぽい」


「うん、それっぽい」


「すごーく、ふわっとした意見だねー」


「昔見たことがある星界人は、ナノマシンの集合体だった。今起きてる現象みたいな」


 代わりにリンが答えてくれた。

 ナノマシンとか、なんか響きが未来っぽい。


「なんでこんなところに来てるんだろう?」


「魚になりたかったんでしょうか?」


「ニャンコ、たぶんそれ違うと思うよー」


 集合したナノマシン? が、巨大な怪物へとその姿を変化させていた。

 体長十メートルほど。両腕が鎌になっており、無数の金属の触手が生えている。下半身は虫のような六本足が生えていた。


「なにこれ!?」


「モナカ、とりあえず倒しちゃえ!」


「オーケー、アリス!」


 見た目からして悪っぽいので、まずは倒してみる!


「【光弾フォビット】!」


 開幕早々、テルトの魔法が炸裂した。

 怪物の巨体がぐらつく。体の一部えぐれていた。


「散弾の、ふぉいや!」


 魔法少女に変身したリンが無数の魔力弾を撃ち出す!

 すべて着弾、触手を半分ほど引き裂いた。


「わたしも、行くよー!」


 走って行って、剣を一閃。

 怪物の足を片方切断し、返す刀で腕も切り落としてやる。

 硬いというか、バーゼルの最新兵器を切ったときのような、重い泥を叩き付けるような感触が腕に伝わる。

 とはいえ、そんなに太くは無いので無理なく切断できたのだ。


「モナカ! あぶない!」


 アリスの声を聞く前に、わたしの体はその場から避けていた。

 一瞬遅れて、怪物の鎌がその空間に振り下ろされた。


「全然遅い!」


 その鎌も切り落とす!


「なんか、星界人にしては弱過ぎるかも」


 リンは言いながら、残りの触手も吹き飛ばしてしまう。


「ナノマシンなら、これが効くかも。【雷竜エレクラドン】!」


 テルトの指先から撃ち出された雷の竜が、怪物にぶち当たる! 機械だもんね、電気とか弱そうだ。

 怪物の全身に電流が走り、音も無く崩れていった。


「ふむ、簡単に倒れたな」


 エシュリーが怪物のいた場所を見ているが、崩れた残骸は、海風にさらわれて、消えてなくなっていった。




「な、なんだったんだい、ありゃあ?」


 集まってきた漁師さんから質問が飛んでくる。


「サッパリです。こっちが知りたいくらい」


 もう、怪物の残骸も無く、不穏な空気だけがその場に残っていた。


「目的も良く分からないですよね」


「この港町で暴れても、なにも意味が無いだろうしな」


 ニャンコとエシュリーが一緒に首をかしげている。

 ふと見ると、別の場所でも人だかりが出来ていた。


「あんた、大丈夫かい?」


「こ、こっちを見るなー!」


 何人かの漁師が取り囲むように、魔法少女リンちゃんにいろんな意味で声を掛けていた。

 恥ずかしがっているリンも、可愛いものである。


「むむ、モナカがリンに愛の視線を向けている!?」


 アリスがなんかのスイッチでも入ったのかな?

 なんか、服に手をかけてるし。


「わ、わたしも……ぬ、ぬげば、モナカに……」


「脱ぐな!」


 アリス、寒さにやられたのかな?

 そういえば。


「リン、なんで変身解かないの? 恥ずかしがってるのに」


「えっとね、この姿見られるのも恥ずかしいけど、変身シーン見られるのも……恥ずかしいから」


 ステッキを抱きしめて、内股でモジモジしているリンがすごく可愛らしい。


 結局、その場でみんなで議論しても大したことは考えられなかった。

 漁師さんたちに、わたしたちが明日までこの街にいること、宿の場所を教えておいた。何かあったら連絡をもらえるように。

 漁師さんたちも、この街の領主に報告をしておくそうだ。




「うーん、モヤモヤするねー」


 ボイルしたカニの実をほぐしながら、ちょっとぼやいてみる。


「そうだよねー、怪物は倒したけど、なーんにも解決になってないし」


 リンはボイルしたロブスターを剥いて、デカい身に香草ソースをかけていた。

 今日のお昼ごはんは、エビカニ祭りだ。


「考えても答えが出ないものは、考えるだけ無駄だよ」


 テルトは何にも気にしてないように澄ましている。

 そのまま美味しそうに、カニ肉にかぶり付いていた。


「エシュリーは、何か考えてるの?」


 カニの足殻を口にくわえたまま、難しい顔をしているエシュリー。

 何か、気付いたことでもあったのかな?


「うむー、あの怪物、バーゼルっぽいデザインだったなーって」


「そうなの?」


「メカメカしいデザインというか。そんな感じ」


「バーゼルさんの兵器?」


 アリスがいぶかし気にエシュリーへと声を向けた。


「そういえば、空間転移テレポートの呪文を掛けようとしたら動いたんだよねぇ」


「そういえば」


 テルトの言葉に思い出す。

 今朝までは何ともなかったのだ。

 ファルプス・ゲイルに飛ぼうとした瞬間に、動き出した。


「魔力に反応したのか」


「魔力に反応する機械って、星界人は持ってないよ?」


「なら、バーゼルの兵器なんだろうね」


「一つ気になるのは、わたしが知っているバーゼルの技術に、ナノマシン群は無かったということだ」


「パワーアップしてるのかな?」


「それだ!」


「うわぁ!」


 いきなりカニのハサミを向けられて驚いてしまった。


「バーゼルの神器はリア・ファイル。信者たちに知識を与える能力がある」


「知識だけなの?」


 かなーりショボい気がする。


「バーゼルの信者たちの努力次第でいくらでも強くなれるということだ」


 エシュリーの説明に、テルトが笑みを浮かべた。なにかな?


「アース国って最初、バーゼルが弱いからってチョッカイ掛けてたんだよね。舐めプしてたら、いつの間にか力関係が逆転してて負けちゃったみたいだけど」


「ええい、言うなテルト!」


「エシュリー……元からアホだったのか……」


「アホとか言うなー! 神器の攻撃以外で負けるとは思わなかったんだ!」


 アホないじめっ子が、強くなったいじめられっ子に逆襲されたのか。

 バーゼル、悪い人たちでは無いんじゃなかろうか?


「神器を越える力を手に入れてて、さらにそこから進化して、ナノテクノロジーも手に入れたってこと?」


 アリスの意見にエシュリーがうなずく。


「もう一つ考えられるのは、星界人まで打ち倒して、力を乗っ取ったかだ」


「星界人って、世界第二位の軍事国家だよ?」


 リンが驚いたような顔をしている。

 昔見たという星界人が、それほど強かったのかな?


「もしそれを飲み込んでいるなら、文句なく世界第一位の軍事大国になってるな。しかも、相当に強い」


 エシュリーの言葉に、恐ろしい未来が待ち受けているのではと、危惧してしまうのであった。

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